TQCを捨てたツケ


 

TQCを捨てたツケ

日本メーカーの高品質を支えてきたTQC(統合的品質管理)や、TQCに欧米のマネジメント要素を取り込んだTQM(総合的品質管理)をやめてしまったからでしょう。1990年代、いわゆる「バブル景気」の崩壊により、日本メーカーは全体的に自信を失いました。そこから脱するために、米国式の経営管理手法を日本メーカーは積極的に導入しました。MRP(資材所要量計画)やERP(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)といったものです。
ところが、これらは主に財務管理を強化するためのもので、品質については後回しになってしまった。そして結果的に、多くの日本メーカーはTQCやTQMをやめてしまったのです。実際、この頃、日科技連などでも品質関連の講座の受講者が大幅に減ったと聞いています。

(以下略)

 自動車業界で大規模リコールが何件も発生している。日本メーカの品質力は落ちてしまったのだろうか?と言う問いに対し、日野三十四氏(モノづくり経営研究所イマジン所長)は、品質が落ちていると言うよりも停滞しているとしながら、その原因をバブル崩壊以降自信をなくした日本人経営者が安直に、米国の合理的経営手法を真似したために、手を広げ過ぎ忙しくなりすぎたからと分析しておられる。

私も、バブル崩壊後に米国式経営に飛びついたのが、日本の品質力を落とした原因と考えている。しかし日野先生の分析とは少し違っている。

米国式の株主至上主義経営が、短期の利益を追求するあまり「現場力」を落としてしまったため、日本の品質力が落ちたと考えている。つまり現場の作業者を、派遣要員、契約社員に置き換えることにより短期的な経営数字改善を狙う経営をした。その結果現場にあった「暗黙智」が霧散してしまったのだ。

米国式のMRP、ERP、SCMを導入すれば、導入当初は手が回らなくなるのは理解できる。しかしこれらのツールは、オフィスワーカの生産性を上げる物であり、程なく余裕が出て来るはずだ。
現場力が失われたと言う私の分析の方が、的を射ている様に思うがいかがだろうか。

現場力が失われた結果TQC、TQMなど現場改善の活動が下火になって来た。
TQC、TQM活動の総本山である日本科学連盟(日科技連)に登録されているQCサークル数が年々減少傾向にある。以前は登録QCサークル数の年間推移グラフが公表されていたが、それが「累積登録数」となり、最近は日科技連のHPを探しても、単年度の登録QCサークル数しか見当たらなくなった(苦笑)

もう一度「現場力」を取り戻すためにQCサークル活動を活性化すべきだと考えている。QCサークル活動停滞の歴史を教訓とすれば、以下の様な活動方針に変えてゆくのがよいと思う。

・管理職が積極的に参加する。
 QCサークル活動は「ボトムアップ」活動として、一般従業員の自主性に任せられていた。自主性に任せる、と言えば聞こえはよいが、現実には「丸投げ」状態となっており、業務からかけ離れた活動となってしまった。活動はサークルメンバーの自主性に任せるが、活動テーマ選定時には、経営幹部、管理職も一緒に議論する。活動の成果が業務に直結すれば、サークルメンバーの達成感も経営側の満足度も上がる。

・QCサークルメンバーの自己実現の場とする。
 QCサークル活動による、メンバー個人の知識・経験の成長実感、達成感を重視する。チームワークを通して感動共有を計る。

・楽しくやる
 QCサークル活動を通して、仕事の楽しさを実感する。

この様な方針で活動をすれば、QCサークル活動がまた活性化すると考えている。社内のQCサークル活動の成果発表会や、他社との成果発表交流会がより活性化を高めるだろう。


このコラムは、2015年9月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第442号に掲載した記事です。

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