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中国生産

 「世界の工事、中国に陰り 『労働コスト』日本を逆転」と言う記事が日本経済新聞電子版に出ていた。かいつまんで記事の趣旨を説明すると以下の様になるだろう。
中国の労務費の上昇および円安効果により、ドル建てで単位労働コストを比較すると、2013年に中国の単位労働コストが日本の単位労働コストを上回り、逆転現象は2014年も拡大している。中国市場の成長鈍化により、中国での投資を見合わせる、中国での生産比率を下げる、などの対策を執っている企業がある。中には生産を日本回帰する企業もある。

記事に出ている事例は本当であり、大筋では記事の論説は正しいだろう。
しかし本当に自分の事業にも当てはまっているのか検証すべきだ。盲目的に記事を読み付和雷同する事はさけたい。
金融機関が試算した単位労働コストは「製造業」と言うくくりでのデータだ。同じ製造業でも、衣料品と自動車部品では単位労働あたりの付加価値が違うはずだ。

今お手伝いしている日系中国工場は、日本本社の仕事を移管受け入れしている。
移管開始直後は、日本本社の半分ほどの労働生産性しかなかった。それでも単位労働コストは中国の方が安いと判断され移管を進めておられる。受け入れ側の中国工場では中国人職員がQCC活動で、日本の労働生産性を「あるべき姿」と設定し改善を繰り返した。その結果、生産量ではまだ日本本社には及ばないが、1人省人化に成功し生産効率では日本本社を上回ってしまった。

労働コストの上昇、為替レートの変動、中国市場の成長鈍化などの経営環境の変化は一工場経営者がコントロールできる訳はない。出来る事は自工場の労働生産性をあげる事だ。

しかし大局を見誤っては行けない。
電子・電機業界に関して言えば、今中国に独自投資で生産進出しても投資を回収するのは難しいかもしれない。2009年に相談を受けた会社には、すでに工場が有る日系企業もしくは中華系企業に生産委託する方式をお勧めした。

自動車業界に関して言えば、技術力さえあればまだ間に合うと考えている。

これらの違いは、ローコスト生産をするか、消費地生産をするかの違いだ。
このメルマガで何度もお話ししているが、中国は既にローコスト生産国ではなく、消費地生産の国だ。
簡単に言えば中国は「下請け」から「お客様」に変わったのだ。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年12月7日号に掲載した記事に加筆しました。
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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

設計品質保証

生産用設備や測定装置を設計生産している中国企業の経営者から、相談を受けた。

経営者の不満は以下の2点が大きいようだ。
新製品のリリースが遅れるため機会損失が大きい。
新製品を出荷した後に、不具合が見つかり品質損失が発生する。

経営者との面談で、この会社に足りていないのは設計品質を保証する仕組みと仕掛けだと判断した。

生産に関して言えば、まとめ生産をやめればより業績が向上するはずだ。基本的には多品種少量生産の企業であるが、生産現場では同じ製品が複数並んでいた。顧客の受注で生産するが、まとめて生産し一部は完成品倉庫で次の受注を待つ事になるそうだ。

私は前職時代に計測制御システム製品の開発設計に携わっていた時期がある。
開発設計は製品の基本機能を設計するが、販売する時はエンジニアリング部門がお客様の要求に合わせて一品一様で設計する事になる。

従って生産現場では、1台ずつ違う製品が生産ラインに並ぶ事になる。

多品種少量生産を通り越して多品種微量生産だ。

工場の生産に使う設備なので、高信頼性が要求される。従って製品リリース後に欠陥が見つかるような事は許されない。その上、競合との競争もあるので、開発納期に対する営業からのプレッシャーも高い。

そんな中で試行錯誤を繰り返し、設計品質の向上を計って来た。
一つは、次工程に完璧なモノを渡すための審査制度。
もう一つは、自工程の品質を完璧にするためのチェック手法。
この二つで相当なレベルになったと自負している。

一つ目は、一般的な品質保証システムやTSが推奨しているAPQPと基本的には同じだ。その運用を確かにする仕掛けにノウハウがある。

二つ目は、過去の経験から作り上げた「ベカラズ集」の様なチェックリストとコンピュータ支援によるDRC(デザインルールチェック)だ。
チェックリストとDRCにより、設計手直しは激減した。
これらがうまく行くためには「失敗を責めない」組織風土が必要だ。

この二つの仕組みと仕掛けがうまく運用されると、今まで個人に帰属していたノウハウが、組織に蓄積される様になる。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2015年10月19日号に掲載した物です。
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