月別アーカイブ: 2013年6月

罰金制度

 中国で工場経営をしておられる方々と会話する時に,しばしば「罰金制度」に関する話題が出る.日本ではあまり聞かないが,中国の工場では,つばを吐いたら50元,遅刻は10元など事細かく罰金が決めてあることがある.
「躾」の要素もあるのだろうが,業務に関しても罰金を決めてある.
不良が発生したら,その不良の責任部署に対して罰金をする.部門長と,部門全員に罰金が科せられる.
好ましくない行動に対して罰金をすることにより,好ましくない行動を減らす.
好ましい行動に対して褒賞を与えることにより,好ましい行動を増やす.
いわゆる「飴と鞭」の政策だ.
ほとんどの工場の罰金制度は,「飴なし鞭」政策になっている.
飴はあっても,年に一度模範従業員として表彰されるだけ.金一封も付くが,全従業員の中のほんの一握りだけ,忘れた頃に貰っても効果は薄い.
これでは「飴と鞭」とは言い難く,罰金による恐怖統治だ.
不良発生に対する罰金は,私に言わせれば,全く効果はない.
以前経験した事例では,作業員がミスをして不良を発生させたので,罰金を科料したいと班長さんが申請書類をあげていた.
わざとミスをする作業員がいるのであれば,罰金など科すよりもクビにすべきだ.
しかしそんな作業員はいない.ミスが出ない様に,作業方法を工夫したり,作業員を指導するのが,班長の仕事だ.罰金科料申請書を書く暇があったら,改善しろと言いたくなる.
最悪なのは,不良が発生した時に誰の責任なのかを追及するだけとなり,再発防止の議論が起きない事だ.
罰金を払わなければいけないので,当然自分の非は認めない.問題の原因を明らかにする事は非常に困難となる.
其の様な状況で,部門間の協力体制が出来るとは思えない.
不適合是正には,部門間の協調が必要となる.
例えば作業者が単純ミスをして客先に不良品を出荷してしまった.
この様な状況では,製造部門と検査部門に罰金が科せられる.
ミスをした作業員に罰金を科した所で,別の作業員がミスをする可能性は無くならない.検査員を注意しても不良を見逃す可能性は無くならない.
本当に不良を無くしたいのならば,ミスが発生しない様に設計を変更する,又は作業員によってバラツキが出ない様に治具化する,など製造部門以外の助けがなければ効果は期待出来ない.
罰金制度によって,この様な協調性が損なわれる.
鞭を使っても,不良は減らない.
飴を与えても,モチベーションは上がらない.
ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」を持ち出すまでもなく,罰金制度は百害あって一利無しだと思っている.
参考文献:
「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」
著者:ダニエル・ピンク

続・本末転倒

 経営にとって「顧客」「従業員」のどちらが「本末」の「本」であるか?
考えていただけただろうか?
「顧客」と「従業員」の二者択一で考えるのは,ムリがあると言うご意見もあろう.「市場ニーズ」「技術シーズ」「資本」など他にも因子はいくらでもあるだろう.
多少無理があっても「社外(顧客)」「社内(従業員)」を大きくまとめてしまえば,単純化して考えることができる.
このメルマガを長く読んでいる読者様ならば,私が「従業員」が「本」だと考えている事は予測出来たに違いない(笑)
サービス業・接客業を考えれば,簡単だ.
従業員が満足をしているから,お客様が満足出来るサービスを提供出来る.
お客様が満足するから,売り上げが上がり,経営業績が上がる.
こう言う「本末」は容易に想像がつくだろう.
腹が減っているウェイトレスが,顧客に感動的な食事体験を提供出来るとは思えない.
自社製品に自信を持っていない販売員が,顧客にモノを売れるとは思えない.
製造業でも同じ事は言えるはずだ.
私の友人は,赤字と黒字を行ったり来たりしている工場の経営を引き継いだ.
彼は引き継いだその年から,増収増益を継続している.
彼がやったのは「本」を養う事だ.
従業員に毎日清掃をさせる.月に一回は工場周辺の清掃ボランティアをする.
こう言う活動を通して,従業員に感謝と奉仕の精神を身につけさせた.
その結果,顧客クレームはゼロになり,業績が上がっている.
近隣の工場が,抗日デモで荒れている時も,一切ストライキは発生しなかった.
7月の東莞和僑会で,この工場を見学に行くことになった.
私は,彼が経営トップに就く前にも一度工場訪問をしている.
以前の工場の様子も知っているので,大変楽しみにしている.
ご興味がある方は,7月13日(土)の予定を空けておいていただきたい.
必ず学びのある工場見学会となるはずだ.

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物有本末

 儒教の経典・四書五経の『大学』に次の様な一節がある.
『物有本末,事有終始,知所先后,則近道矣』
日本語では以下の様に素読される.
「物に本末あり.事に終始あり.先後する所を知れば,すなわち道に近し」
物事には本末・終始あり,この後先を誤たざれば,人としての道を誤たず.
という意味だ.
「本末転倒」と言う言葉があるが,この様な状態となれば,上手く行くモノも上手く行かなくなる.
全ての人には親があり,祖先がある.
親や祖先が「本」であり,私たちは「末」だ.
先祖を敬い,親に感謝をしなければ,人の道から外れ幸せにはなりませんよ,と言う教訓だ.
なぁんだ,当たり前じゃないか.多くの方がそう思われただろう.
私たちは小さい時から,道徳として儒教精神を繰り返し教え込まれて来た.
皆が知っている事だ.しかし人の道に外れてしまった人も多い.人の道から外れてはいなくても,不幸な人たちも多い.
論語を初めとする儒教の教えは,皆当たり前の事ばかりだ.それを知っている事が重要なのではない.重要なのは,当たり前を実践する事だ.
『物有本末』を政治に置き換えて考えてみるとどうなるか.
国の繁栄は,民の幸せが「本」だ.国民が皆幸せになるから,国が繁栄する.
国の経済を維持するために増税をする,と言うのは本末転倒だ.
国民が幸せになる様にすれば,税収が上がる.
逆に減税をする.そうすれば国民は喜んで消費をする.その結果税収が上がる.
経済と言うのは,究極の所大衆のココロが動かしている,と言っても過言ではないだろう.
特に日本の様に,経済の大半が国内消費となっている国では,国民の感情が景気を決めている.
失われた20年,デフレスパイラルなどと言うマスコミの報道が,大衆の感情を操作し,景気の動向を決めている.実際日本の富裕層(1億円以上の現金資産を持つ人)は,中国と比較して2倍程いると言うデータを見て驚いたことがある.
では『物有本末』を経営に置き換えるとどうなるか?
「本」は顧客か?従業員か?
あなたならば,どちらが「本」だと思うだろうか?
ちょっと考えてみていただきたい.

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B787型機、定期便の運航を再開 4カ月半ぶり

 全日空と日本航空は1日未明、ボーイング787型機の定期便の運航を4カ月半ぶりに再開した。バッテリートラブルで運航停止が続いていたが、全機の改修が終了。両社とも初便はほぼ満席となり、午前1時過ぎに東京・羽田空港を離陸した。
 全日空の復帰第1便はフランクフルト行きで、146人が搭乗。搭乗口では、篠辺修社長が「十分な安全対策と入念な準備をして定期線に投入した。安全を第一にこれからも努力する」とあいさつし、出張のためそのまま機内へ向かった。
 日航はシンガポール行きに乗客184人が乗った。搭乗口から見送った植木義晴社長は「4カ月半の運航停止は長かった。実績を作り、お客様に(安心を)感じてもらうしかない」。
 全日空機で出張する東京都の会社員女性(24)は「日程上この便に乗るしかなかった。再開して最初の便なので不安はある」。日航機で娘を訪ねる横浜市の無職男性(67)は「787型機だとは知らなかった。十分に点検されていると信じるしかない」と話した。
 全日空は5月26日、臨時便として国内線で787型機の営業運航を再開した。
    ◇
 全日空によると、787型機で1日午前6時35分に羽田を出発した鹿児島行き619便(乗客・乗員計235人)は、上空で右前方ドアから空気が漏れるような異音がした。鹿児島に定刻通り着陸後、点検したが、異常はなかった。
この影響で折り返しの大阪行きが約1時間10分遅れた。

出典:朝日新聞電子版

 ついに原因はうやむやのままB787の就航が再開された.
日本航空のホームページに,今回の事故の顛末が掲載されている.
ホームページの記述には,あたかも原因が解明されたかの様に書いてある.

今回、当社ならびに国内他社で発生したバッテリー不具合は、青く塗られたバッテリーケース内に収められている「セル」と呼ばれる8個のリチウムイオン・バッテリーのなかの1個が何らかの理由で過熱したことから始まったことが解明されました。

バッテリーセルが過熱したと言うのは,不具合原因ではなく「不具合現象」だ.
なぜ過熱したのかと言うのが原因となる.
これを突き止めて初めて原因が解明されたと言う.
社外向けの発表では原因が解明されておらず,対策は以下の様に書かれている.

プロジェクトチームは、洗い出した約100項目の原因を、1つ1つ詳細に分析、評価したところ、約20項目については、「理論上は起こりうるが、現実的には起きえないもの」、もしくは「既に対策が講じられているもの」であることを確認しました。
 そこでプロジェクトチームは、残る約80項目の原因に対策を講じました。
つまりこれは、想定しうるあらゆる原因を網羅した対策になっています。
後日、運輸安全委員会によって当社事例、もしくは国内他社事例の原因が特定された場合でも、既に対策は講じられていることになります。同時に、バッテリーからの発煙、熱損傷など、いかなる不具合にも対応した対策となっています。

約100項目洗い出したのは「原因」ではなく「要因」だ.
「絞り込んだ約80項目の中に今回の事故の原因があり,その他はバッテリーセルが過熱すると言う不具合モードの潜在要因だ」この仮説が成り立つのは,全ての要因を洗い出すことができた,と言う条件が必要となる.

今回、ボーイング社が講じた全18項目の対策は、多階層の防護構造となっています。すなわち、1層目の対策として「1個のセルの発熱防止対策」を講じたにも関わらず、万一1個のセルが過熱状態になったとしても、その過熱状態を周囲のセルへの伝播させない「セル間の伝播に対する対策」(2層目)が過熱の拡大を止める構造となっています。
この2層目の対策により、バッテリーシステムの信頼性は、さらに改善されます。

一つのセルの過熱状態が周囲のセルに影響を与えない様にする,と言う対策はバッテリーシステムの信頼性をあげる対策とは言わない.
つまり一つのセルが故障発熱した時点で,バッテリー全体の機能は失われている.バッテリーシステムの信頼性をあげているのは,バッテリーの冗長化だ.
バッテリーシステムの信頼性に関しては,全4セットのバッテリと発電機で冗長化出来ており,4セット全て壊れても風力発電機で電力をまかなう様に信頼性設計が出来ている.
今回発生した問題は,バッテリーシステムの信頼性の問題ではなく,火災につながる可能性のある重不適合だ.
 

今回の対策策定にあたってボーイング社は、想定されるあらゆる原因を洗い出しました。ボーイング社は、さらに「想定外を想定」し、万一の場合でも発生した煙が操縦室や客室内へ流入したり、バッテリーが設置されている電気室で火炎が発生するのを防止するため、3層目の対策を追加しました。

第二層の対策と第三層の対策を合わせて,バッテリーセルの過熱が発煙発火につながらない様にする対策だ.
つまりバッテリーが故障して発熱しても,火災の可能性がある重不適合になるのを防ぐ対策だ.
バッテリーシステム全体としては,

  • バッテリー単体が故障しない様にする対策
  • 万が一バッテリー単体が故障しても,バッテリーシステム全体では機能を失わない様にする冗長化対策
  • その上で,バッテリー単体の故障が火災などの重不適合に発展しない様にする安全対策

と言う三段階の対策が必要だ.
ホームページに記述されている2層対策,3層対策と若干違っているのが,ご理解いただけるだろうか.記述にある2層対策はバッテリー内部の類焼防止対策,3層対策はバッテリー外部への類焼防止対策だ.
残念ながら,今回の対策には上述の一番目バッテリーの故障対策が含まれていない.

具体的にはバッテリー全体をステンレス製の強固な容器に格納し、電気室のほかの機器からバッテリーを完全に隔離しました。万一、バッテリー内の1個のセルが過熱状態となり、さらに周囲のセルまでが過熱状態となって煙が発生した場合でも、その煙は容器内に閉じ込められ、新設した専用配管を通じて、直接機外に放出されるため、操縦室や客室内に煙が漏れ出すことはなくなりました。また、このステンレス製の容器は密閉されていますので、仮に火炎が発生しても容器内は酸素が不足し、自然に鎮火することになります。

上記は,外部類焼を防ぐ(ホームページ上の記述では3層対策)だが,矛盾している様に思える.
密閉容器内で発火しても酸素の供給が無ければ,自然鎮火する,と言う理屈だ.
しかし,容器内に閉じ込められた煙を専用配管で機外に排出する,と言う事は密閉容器と外気の流通があるはずなので,外部の酸素が遮断出来ている状態とは考え難い.
ところでここであげた問題は,実は些細な事でしかない.
本当に重大な問題点は,バッテリーの発煙事故だけで,未対策の潜在故障要因が80件もあったと言う事だ.
乗用車の設計には,FMEA(故障モード影響分析)を義務づけられているのに,航空機の設計には,FMEAは義務づけられていないのだろうか?
乗用車の事故による人員の死傷リスクは10人程度であるが,航空機事故の場合,そのリスクは10倍となる.しかもほとんどの場合が死亡事故となる.
航空機の設計は,事前に潜在リスクの洗い出しと,対策を実施すべきだ.B787の最大の問題は,バッテリー発煙で80項目もの,潜在不良原因が未対策だと言う事だ.今回はバッテリーに関しては,潜在不良原因に対する対策が出来た.
その他の部位についても,再度見直しをする必要があるのではないか?
余談だが,JALの解説ページを見て,全発電・バッテリーシステムが故障した場合に,風力発電機が登場することを知った.
優れた冗長化設計だと感心した(笑)

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岡田武史元日本代表監督の中国プロサッカー改革

 6月4日に埼玉スタジアムで開催されたワールドカップ最終予選でオーストラリアと引き分け、日本は見事5大会連続の出場を決めたが、そのうちのフランス大会、南アフリカ大会で指揮をとった岡田武史前日本代表監督は、現在は中国に渡ってスーパーリーグ(「中超」、日本のJ1リーグに相当)の杭州緑城を率いている。
    ◇
 岡田監督は中国サッカーに自由と自己責任の“グローバルスタンダード”を持ち込んだ。それが中国社会のローカルなしがらみにうんざりしていたサポーターたちのこころをつかんだのだ。

出典:http://diamond.jp/articles/-/37077

 2002年のワールドカップで,中国代表は一勝も出来ずに予選敗退した.
一勝も出来ないばかりか,一得点さえあげられないと言うていたらくだった.
しかし,個人的には近い将来中国のサッカーは強くなるだろうと予感した.
その予感は全く外れてしまった(笑)10年以上たったが,鳴かず飛ばずの状態が続いている.
中国サッカー協会をあげての賭博,八百長などの腐敗.
優秀な監督を海外から招聘しても,チーム内に『関係(グワンシ)』による組織力学が働いており,監督の指導が機能しない.
などスポーツ競技としてサッカーが成り立つ環境に無かった事が,大きな原因だろう.
元日本代表監督の岡田武史氏は,杭州のサッカーチームを指導している.
指導に当たって,まずオーナーと関係のある選手を全部外に出した.
政府・共産党の口出しを封じ込んだ.
ユースの育成の責任と権限を監督の下においた.
まずこうした組織改革の上で,選手の自主性を高めることをした.
サッカーと言う競技は,現場の選手の判断で戦術を組み立てて行くスポーツだ.
野球などの様に,一球ごとにコーチからサインが出てその通りに戦術が進むスポーツとは訳が違う.
指導者は,戦略を選手と共有し,選手が考えなくても戦術の組み立てができる様になるまで練習させる.従って,指示通りに動く選手では役に立たない.
自ら考える力を育てなければならない.
岡田監督は,寮の門限を廃止し選手の自主性と自己管理を高める様にした.
「Number」の取材に答え
「最悪なのは、監督がここにいろって言ったからって何も考えずにカバリングしているヤツ。それは俺に言わせりゃ選手じゃない。日ごろの生活で人に言われたことだけやっていたら、試合のなかでも責任を持って判断できなくなる」と言っている.
言われた通りに動けば評価される.そんな組織に慣れ親しんだメンバーは,考える力を失う.自ら考え,行動する.その結果とプロセスが評価される.
そう言う組織のメンバーは常に考え,成長する.その先には考えなくても,自然と行動出来るメンバーとなる.
これはサッカーばかりでなく,会社と言う組織でも同じ事だ.
規律を守ると言う事は,組織運営の基本だ.しかし規律にしばられれば進歩はない.自ら規律を最適になる様に変えて行く事が出来る組織が,進歩出来る組織となる.
組織の文化を創り,選手を鍛え上げるのが監督の仕事だ.その結果リーグ優勝などの成果が出る.岡田監督は更に,次世代を担う若い選手の育成まで掌握した.短期的な優勝請負ではなく,常勝チームの基礎を作る.これがホンモノの指導者だと思う.

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