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ポカよけ ダブルチェック

2007年11月4日付け朝日新聞にこんなユースが載っていた。

「スカイマーク機、着陸時にカートが動いて客が足を骨折」

 3日午後7時15分ごろ、スカイマークの神戸発羽田行きボーイング767―300型機が着陸時、飲み物用のカートが動いて乗客2人にぶつかった。44歳の男性は右足の骨が折れる重傷で、47歳の男性も左肩に軽いけが。東京空港署が業務上過失傷害の疑いで捜査するとともに、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会も4日、調査官2人を派遣する。

 怪我人の内の一人は足を骨折しており、かなり重傷である。この記事だけでは何が原因か不明なので今回の事故に関しては言及しないことにする。

飛行機に乗ると、乗客の搭乗完了時搭乗口を閉める時に「乗務員はオートモードに切り替えた後、相互に確認を行ってください」という機内放送を聴くはずである。この後クルーが扉の操作を行った後、お互いに親指を立てあっているのをご覧になった事があると思う。
旅客機は乗降口を開けると自動的に非常脱出用の滑り台が出て来る様になっている。しかし空港で乗客が乗り降りする時にも滑り台が出てきてしまっては不都合なので、マニュアルモードにして扉だけ開けるわけである。
このマニュアル・オートモードの切り替えを万が一忘れてしまうと大変なことになる。
そのため「ポカよけ」「ダブルチェック」を操作に仕込んである。
この操作でのポカよけは、モード切替の操作が完了しないと扉開閉のハンドルが操作できないようにしてある仕掛けのことである。扉が開いている時にマジックテープのたすきが扉開閉ハンドルにかかっている。このたすきをはずさないとハンドルは操作できない。このたすきにモード切替レバーの固定ピンが付いており、一連の操作で「うっかりミス」を防ぐ様になっている。
操作の後乗務員が別の扉がきちんとマニュアルモードになっていることをダブルチェックする。
搭乗口を閉める作業にこれだけの「ポカよけ」「ダブルチェック」が仕込まれているのである。
飲食物用カートの固定がどのような「ポカよけ」「ダブルチェック」の仕掛けをしてあるのかは良く知らないが、乗降口のモード切替のように厳重ではなさそうである。
製造現場でも同様に「ポカよけ」「ダブルチェック」を組み込まないといけない工程がある。
皆さんの工場ではどんな工夫をされているだろうか?


このコラムは、2007年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第6号に掲載した記事です。

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十点法

「十点法」という言い方をご存知だろうか.
あまりいい名前ではないが,部品の定量投入によるポカよけの一種である.
例えばネジ締め作業で必要なネジの数だけ作業前に取り置き,作業が終わったときにネジを過不足なく使用したことを確認するわけである.これによりネジの閉め忘れとか,製品の中への落下などを防止するわけである.
すなわち10点部品を使うならば,10個の部品を投入するという意味で「十点法」と言う命名になっている.
中国の工場で指導をしていた時に,製品組立工程でネジを5本締め付ける工程があった.このとき現場の組長さんに「このネジが一本足りなくなったらどうする?」と聞いてみた.
この組長さんは大変聡明な子ですぐに小皿を持ってきて,作業者に作業前にネジを必要数準備してから作業をするよう指示をしていた.
普通の組長さんだと,次の工程にネジの数を数える検査を追加したりする.
この方法でもネジの締め忘れがないことを保証できるかもしれないが,製品の中にネジが落下したのは検査できない.
それよりも,付加価値を生まない作業を増やしていることになる.
検査を追加することよりも,作業で品質を保証する仕組みを考えるべきだ.
製品に貼り付けるラベルを貼り忘れ,出荷先で見つかってしまった事がある.
この手の不良は厄介である.客先に出荷してしまった製品の選別検査,社内の完成品の再検査など,後向きの作業が大量に発生する.
客先にも改善対策を提示しなければならない.
当然工程内には外観検査があり,ラベルが貼ってあることも検査している.作業者がうっかり貼り忘れ,検査者もうっかり見逃したわけである.
うっかりの二乗なので,確率はかなり低いはずであるが往々にしてこういう事故はある.
殆ど不良が発生しないと,検査者の感度は落ちてしまうのであろう.
こういうときに「十点法」が活用できる.
ラベルを梱包単位に準備し,ラベルを使い切ったらラベルシールの台紙をベルトコンベアに載せる.梱包作業者はラベルシールの台紙が流れてきたら,梱包箱が一箱完成しているのを確認する.
ラベルを貼りそこなった場合の対処方法など,一工夫する必要はあるが,この方法はそれほど工数をかけずに,ラベルの貼り忘れがないことを保証できる.
同時に梱包数量の確認も出来ている.
読者の皆様の工場でも,同じような方法で改善できる事例がないだろうか.

ラインを止めなさい

「停線!(ting2 xian4)」
以前指導していた電気製品の組立工場で,しょっちゅう大声でこういっていた.日本語で言えば「ラインを止めろ!」という意味だ.
ベルトコンベアの流れ作業で,何か小さな問題が発生してもなかなかラインを止めない.現場の班長さんたちは,ラインを止めないで何とか修復しようと必死になっている.
彼らには「生産量のプレッシャー」があるのでなかなかラインを止めたがらない.ラインを止めるのは「悪」だと思っていたりする.
例えば,半田槽を出てきたプリント基板アッセンブリィの半田手直し工程で,作業が追いつかず手直し待ちの半製品があふれてしまっている.
こんな状況で,現場の班長さんは作業者の後ろで一生懸命作業者をせかしている.または自分で手直し作業を手伝って何とかしようとしている.黙って見ている班長さんなどは論外だ.
こんな時に「停線!」と大きな声を出すわけだ.
こういう状況で作業者をせかして仕事をさせれば,後工程の半田目視検査やICT検査で不良が増加する.そしてその不良品は修理されてまた半田手直し工程に再投入されるからますます物は滞留する.悪循環だ.
こういう状況ではまずラインを止めて作業が追いつかない原因を除去しなければならない.
半田槽の調整が悪く半田不良が多発しているので,手直しが増えている.
部品が浮いてしまったり,傾いてしまうために,手直しが増えている.
等,原因が必ずあるはずである.
この原因を除去した上でコンベアを再稼動する.
ラインを止めずに生産を継続する方が生産のロスは大きいはずだ.
ラインを止めるのが早ければ早いほど,生産のロスは減る.何よりも品質不良のリスクを少なくする事が出来る.
班長さんたちにはラインを止める勇気を持てというのだが,なかなか出来ない.
ラインを止めることにより,問題点をその場で改善するという習慣を身につけるべきだ.
特に設備で物を作っている場合など,多少の不出来は後で手直しすればよいと考え,そのまま作ってしまうことはないだろうか.
先日訪問したアルミダイキャストの工場は,原材料にアルミのインゴットを投入することはまれであった.殆ど不良品を鋳潰した再生材料で足りてしまっている.
実はこういう工場のほうが好きである.簡単に改善して差し上げられる(笑)

作業員は先生です

 良く指導先の現場で「作業員は先生です」といっている.
ほとんどの場合通訳が意味が分からずぽかんと私の顔を見ている.または全然違う意味のことを言っている.従ってここだけは自分で中国語で言わなければならない.
無理もない,中国の工場ではほとんどの作業員は中学しか卒業してなくて都会に出稼ぎに来ているのである.中にはちゃんと中学も卒業していない子も混じっている.それを「先生だ」というのだから通訳も「!?」となってしまうのも無理はなかろう.
作業員は毎日何千回も何万回も同じ作業を繰り返している.それなりに効率のよい方法を編み出しているものだ.作業者の動作をじっと見ることにより,改善するべきところが見えてくる.
作業者は何も言わないけれど,問題点や,改善すべき点を教えてくれているのである.
現場のリーダは作業者の動作を,白紙の心でじっと見て勉強すべきである.
現場リーダの中には心得違いをしている者がおり,作業者を従わせるのが仕事だと思っている.本当の仕事は,作業者が仕事をやりやすく(生産効率の改善)することだ.
標準外作業で不良が出ると,対策書に「作業者に標準作業を教育しました」という回答が書いてある事がよくある.
作業者が標準作業を出来ないのには理由がある.
 1.標準作業を知らない
 2.標準作業を知っているが,うっかりした
 3.標準作業がやりにくい
作業者の動作をよく見て,本当の原因を作業者から「目で聞く」ことが必要だ.
それぞれの理由に対して,対策が違ってくるはずである.
読者の皆さんは,ご自分の工場の状況に合わせてどんな対策が必要なのか考えてみてください.