月別アーカイブ: 2005年2月

知識の共有

「誰のせい?」と同じく中国人リーダのちょっと変なところです。
私は工場にいる間はほとんど、現場にいるようにしています。ラインにいるリーダたちにOJTで私の知識や知恵を伝えたいと思っているからです。
ラインを見ていて何か問題があると、すぐにリーダを呼んで何がいけないのか、どうしなければいけないのかを教えています。座って抽象的な勉強をするより、現場的で実践的なことを教えられます。
しかし問題は、せっかく教えても他のリーダには伝わっていないのです。実際に問題が起こった場所でそのラインのリーダを呼んで教えているので、他のラインのリーダには直接教えていません。彼らも朝昼晩ミーティングをしているので、今日はどんなことを教えてもらったくらいは共有すればよいのにと思うのですが、なかなかうまく行きません。
多分彼らの思考回路はこうなっているのだろうと思っています。
せっかく林先生(私のことです)が私にだけ教えてくれたのだから、他の人には教えられない。
みんなにも教えてしまっては、私の価値(相対的な価値)が下がる。
多分こんなところだろうと思っています。
彼らも非常に熱心にいろいろ聴いてくるのです、そういう意欲はある。しかしそれが全て「私」の為なのですね。
これもひとつの文化的な差異なのだろうと思います。しかしこれは尊重して放って置いてはだめです。
一人の暗黙智が形式智に変わり、みんながそれを共有し各自の暗黙智に落としこむ、さらにそれが昇華して組織の形式智・暗黙智にならないといけません。そうしなければ、優秀なリーダが辞めるたびにまた一からやり直しです。
個人とともに組織が成長しなければならないことをきちんと理解してもらわないといけません。これは話をしただけではだめです。人事評価制度がそうなっていないと誰も信用しません。
例えば優勝を争うような強い野球チームは、ベテランが若手に一生懸命教える。ベテランは出場機会が少なくても、チームがきちんと評価してくれているのを知っているので、何も恐れず自分の持っているものを若手に伝えます。そして時々いい場面で出てきて、渋い仕事をする。
一方弱いチームはその逆です。ベテランは自分が評価してもらう為に、出場機会ばかり追い求める。若手はなかなかチャンスが回ってこない。こういうチームは一時期強くてもすぐだめになる。強さを保とうと思うと次から次へと優秀な選手を連れてこないといけません。

誰のせい?

中国の工場で指導をしていると、中国人のリーダ達の物の考え方の違いを思い知らされる局面がたくさんあります。
例えば、こんなことがありました。
工程で作業員がミスをしたのを見つけました。そのままその製品を目で追いながら順に工程を歩いてゆくと、不良として見つけなければならない検査員が見逃してしまいました。
この事例を元に、リーダたちのOJTをしようと思いすぐに製造、品証、生産技の担当リーダを呼びました。この事例を基に改善をさせようとしたのです。私が見てきたことを伝え、早速みんなの意見を聞きました。
しかしここでの議論は、
製造リーダ:私はちゃんと作業者に教えてある。作業者がちゃんとできないのは作業指導書がちゃんとできていないからだ。IPQC(工程内検査員)だって見逃してるし。
品証リーダ:検査で見つけてもらおうなんて甘い(正論ではあるが)、ちゃんと正しい作業をしてもらわなくては困る。
生産技リーダ:試作製造のときに上がった作業手順書の改善点は全て反映した。
などなど、まずは自分は悪くないと言う話を、延々続けます。こちらの意図は、誰が悪いと言うことを言いたいのではなく、同様な問題が再発しないようにどうしたらよいのかを話し合いたいわけです。
初めの頃はこのやり取りに我慢ができなくて、「昨日のことはどうでもいい。あしたの話をしているのだ。」とよく大きな声を出したものです。
しかしこのごろでは、まず自分が悪くはないと言うことを主張するのが彼らの仕事だ、と言うことに気がつきました。だからじっと我慢をして、喧々諤々が終わった後に、「じゃどうしたらいい?」と聞けるようになりました。
中国の人たちは我々日本人と違って、まず自分は悪くないと主張しなければならない3000年の歴史的文化を背景に持っています(ちょっと大げさか)
文化的な違いはちゃんと尊重しなければなりません。
ただし環境的な違いによる習慣はちゃんと指導してあげれば直るはずです。
例えば、そこいらじゅうにつばを吐く、食べかす(ひまわりの種)を撒き散らす。などは何度も何度も教えれば時間がかかっても直るはずです。これは彼女たちが、農村で育ったので、そのような行為に対し誰も行儀が悪いと叱る人がいなかったからそういう習慣になっているだけです。都会の若い女性はそんなことはしないと教えてやれば、彼女たちだってシティガールにはあこがれているので止めるようになります。

校正外れ

ISO9001の「7.6 監視機器及び測定器の管理」に測定器の校正外れが見つかったときの要求事項が書かれています。

さらに、測定機器が要求事項に適合していないことが判明した場合には、組織は、その測定機器でそれまでに測定した結果の妥当性を評価し、記録すること。組織は、その機器及び影響を受けた製品に対して、適切な処置をとること。校正及び検証の結果の記録を維持すること。

すなわち校正外れが見つかったら、その装置で検査した製品に対する影響を考慮して、ちゃんと是正しなさいよ、と言うことです。
しかしこれをきちんと解釈すると、大変なことです。例えば測定機の校正周期が1年間だった場合、校正外れがが発生したのは、去年の校正の直後かもしれないわけです。ちゃんと裏付ける記録がない限り、1年分の製品を「影響を受けた製品」と判断せざるを得ません。
校正外れのモードによっては大変なことになります。すでに市場に出荷してしまったものを引き取って再調整・検査をしますか?毎月10万台も生産しているような民生用の製品だったら120万台です。しかも売れ先が判っていないだろうから、新聞広告を打ったりなど、大変です。
特に耐圧試験など、安全性にかかわる検査に関しては問題発生時のリスクが高いので、こういう問題が発生しないようにしなければなりません。しかし校正期間を短くしたりするのも合理的ではありません。測定機を校正してもらうだけで、そこそこの費用がかかってしまいます。
ちょっと工夫すれば、毎朝の始業点検時に、測定機の確からしさを確認記録することができます。
こうしておけば、万が一耐圧試験機の電圧がおかしくなっている、感動電流の設定がずれるなどの不適合が見つかっても、1日分の在庫を再検査するだけですみます。前の日に作ったロットならば、まだ工場の倉庫にある確率はかなり高くなります。

統計的品質管理 p管理図・c管理図

不良率の様に二項分布に従う計数値は、p管理図で管理をします。例えば機能検査での不良率などをp管理図で監視できます。また監視するロットサイズが毎回同じであれば、不良率を計算する手間を省き不良数だけをプロットすればOKです。これをpn管理図といいます。

また単位面積当たりの欠点(傷など)はポアソン分布をしており、c管理図で管理をします。検査対象の単位が毎回変わるときには、欠点率を計算してやらないとだめです。この欠点率をプロットしたのがu管理図です。

xbar-R管理図と同様に、何ロットかサンプリングしたデータから上限限界と下限限界を計算します。管理図の見方もxbar-R管理図と同じですが、以下の2点について注意をしなければなりません。

  • 下限管理限界
     計算上下限管理限界がマイナスになれば、下限限界を設定する必要はありません。しかし普通に考えると、不良率は少なければ少ないほどよいので、下限限界というのは必要なのかと疑問を持ちませんか?
    工程能力が同じであれば、確率分布に従って不良が出るはずです。従って下限限界を超えてしまったら、検査がきちんと機能していないと考えるべきなのです。
  • リアルタイム性
     これらの管理図は、リアルタイムには監視できません。半日とか一日の仕事が終わって初めて不良率の計算ができます。従ってこれに頼りすぎていると、不良をたくさん作った後で、変だったよね、と手遅れになります。従って同じ不良モードが2件続けて発生したら工程をとめて原因を追求するくらいの迅速性が必要です。

ある工場でpn管理図を見せてもらったら毎日管理限界が階段状に変化しています。管理限界の値を毎日のロットで再計算しているのです。これではまったく意味がありません。絶対管理限界を超えることはありえません。
(p管理図の場合は、生産数量によって管理限界が変動します。ただし管理限界値の計算は、工程が安定した状態で一定期間の実績から求めます)

統計的品質管理もただの道具です、使い方を間違えれば意味がないだけではなく、とんでもない間違いを犯す可能性もあるのです。

統計的品質管理 xbar-R管理図

xbar-R管理図は、長さとか重さとか電圧などの計量値で工程能力を管理するときに使える非常に便利なツールです。

実際にばらつきは分散とか標準偏差で現されますが、工程内でリアルタイムに監視するのはちょっと骨が折れます。そのため標準偏差の変わりにR(レンジ、最大値と最小値の差)で代用します。平均値(xbar)とRで中心値のずれ、ばらつきを監視するわけです。

過去からの数値から、その工程の実力がわかるので、上限限界と下限限界を計算できます。(詳しくは、こちらのコラムに解説しておきました)この限界を超えていれば、即座にラインを止めて原因を探る。と言うように使えます。また限界を超えていなくても、単調増加、単調減少、中心から片側への偏りの傾向が見られれば何か問題が発生しかかっているわけです。

サンプルは普通5個くらいなので、現場でも簡単に電卓をたたけば管理図がつけられます。間違っても仕事が終わってからまとめて計算しようとなど考えてはいけません。この管理図はリアルタイムに工程能力の変動を監視できるところにメリットがあります。

例えば金属加工などで仕上がり寸法をxbat-R管理図で監視していれば、バイトの磨耗などが早期に発見できて、たくさん不良を作ってしまうようなことがありません。

最近ではお客さんが監査にこられたときに、統計的工程管理をしていますか?と聞かれることが結構あります。監査官の力量によるのですが、何でもかんでも管理図を張り出してあれば安心すると言う悪い傾向があります。委託先もお客さんに言われるものだから、無意味な管理図を張り出しています。管理の為の管理になってしまっており、困ったものです。

例えば、半田槽の温度をxbar-R管理図で監視していたりする。ちゃんとできていれば、加熱ヒータの劣化などが事前に分かり、予防保全することができます。しかし温度測定器の精度がそこまでなくて最後の1デジットをふらふらしているだけ。監査官も一緒になって平均値がふらふら(0.1℃の範囲で)している原因を考えたりと、非常にこっけいです。Rなんて常に一定ですから。

ちゃんと目的を明確にして、それに見合ったデータを取らねばなりません。またサンプルを抽出するタイミングも、工程能力や目的をにらんで適切に設定しなければなりません。

例えば、部品の受け入れ検査でxbar-R管理図をつけていると、規格には入っているけれどベンダーさんの工程で何か問題が発生していることが見えてきます。こういう場合に即座にアクションを起こすとトラブルの未然防止ができるわけです。

統計的品質管理 抜き取り検査

ロットごとにサンプルを抜き取り、ロットの品質を保証するという考え方があります。品質保証レベル(AQL)に従ってサンプル数を決め、検査をするわけです。しかしどう頑張ってもAQL=0.1%を保証するのがせいぜいでしょう。抜き取りサンプル数がとんでもなく多くなってしまいます。これだけ検査しても納品したロットの中から0.1%不良が有っても許してね、と言うのがAQL(Acceptable Quality Level)の意味です。やはり基本は工程内で品質を作りこむ、不良は作らないと言うことになります。
しかし検査をしてしまうと製品として使えなくなる様な場合は(破壊検査)、意味があります。その場合でもAQLレベルを上げてやらなくては経済的に成り立ちません。例えば1000個のロットでAQL0.1%を保証しようとすると、125個のサンプルが必要です(1回抜き取り並)。これでは検査費用を除いても10%以上のロスになります。
例えばトランスなどの様に不良モードが安全性に深刻な影響を与えるような場合は、AQLで保証してもらっても困ってしまいます。耐圧試験の不良などが発生してしまうと、たとえ1台であっても、ラインを止めて、原因を追究しなければなりません。従って受け入れ側でAQLで抜き取り検査をしても、あまり意味がありません。トランスの耐圧不良などのようなシリアスな欠点に対しては100%良品でなくては困るのです。
この辺を考えてか、私が指導したほとんどの中国工場は、受け入れ検査時の抜き取り基準を、シリアスな欠点に対してはAQL=0.0%にするという手順にしてあったりします。しかしこれは抜き取り検査の意味がありません。当然ですが抜き取りサンプル数の表の中にはAQL=0.0%などと言う欄は出てきません。AQL=0.0%では抜き取り検査ではなく、全数検査になってしまいます。
従って製品に深刻な不良モードを与える可能性のある部品に付いては、抜き取り検査で品質を保証するのではなく、きちんと部品業者の工程を見て、工程が品質を作りこめるようになっているかどうか確認する必要があります。

台湾メーカの電解コンデンサ

生産委託先から、コストダウンのために台湾メーカの電解コンデンサを採用したいと申し出がありました。設計者の部品指定は、全て日本メーカの電解コンデンサでした。従って台湾メーカの中国工場の電解コンデンサに変更すれば、コストダウンになります。
早速協力工場のVQA(ベンダーQA)のメンバーを連れて、電解コンデンサメーカの工場に採用監査に出かけました。広東省東莞市にある協力工場からベンダーの工場までクルマで1時間足らずです。輸送費だけ考えてもコストダウンになります。
立派な工場で、検査設備も一応のものは揃っています。工程間での中間検査も一生懸命やっています。これはうがった見方をすると、工程で品質を作りこむ自信がないから検査で不良を除去しようと言う姿勢とも受け取れます。これだけでは安心できません。
工程内を一通り見て回り、少なくとも不良品が流出してくる可能性はかなり低いように思えました。一応このメーカと付き合い始めて、品質指導をすればよい工場になるかもしれないと言う思いが芽生えていました。
しかし電解コンデンサの性能・信頼性を左右する電解液の調合工程を最後に確認したところ、調合比率に関する作業手順書も品質記録も見当たりません。他の工程では手順書も品質記録もしっかりしているのに、この工程だけがありません。この点について聞いてみると、手順書に落としてしまうと、作業員が調合比率を知って、よその工場に行ったり、独立したりして同じ製品を作ることができるから秘密にしてあるのだと言います。さらに驚くべきことに、調合作業は2人の作業員に教えてあり、2人が調合した電解液を混ぜて始めて使えるのだそうです。従って2人が揃ってスピンアウトしない限りは本当の調合比率は分からないと言うことです。
実はこの会社の創業者は、以前日系の電解コンデンサメーカに勤務をしており、そのときのノウハウで創業したのです。自分自身がそうであった様に、彼は従業員を信用できないわけです。
そのために、中間検査を一生懸命やっていたわけです。電解液の調合比率については、中間検査の結果が品質記録だと言えば、ISO的には文句のつけようがありません。しかし電解液の調合比率をその初期特性だけで評価することはできないと思います。最近話題になった水系の電解コンデンサが磨耗型の市場不良が多発した問題は、初期特性だけでは評価できません。
そのほかの管理については比較的よくやっており、この1点のみで採用不可にするのはあまりにも惜しいので、条件付で採用OKにしました。その条件は生産ロット(出荷ロットでは意味がありません)ごとにサンプルを抜き取り、ORT(On Going Reliability Test)で品質を保証する、と言う条件です。
しかし残念ながら、私の採用監査レポートを読んだ設計のエンジニアは腰が引けてしまい、部品表にこのメーカは追加されませんでした。
品質保証の立場から行くと少しほっとしたのは事実ですが、安い部品を使おうと思ったら何らかの工夫をして使えるようにしなければなりません。

春がない!?

中国では今年は春がないと言います。そんなはずはないだろう、毎年春夏秋冬はあるじゃないかと言っても、今年はないのだと言います。春がない年は、縁起が悪いので結婚とか出産は避けるのだそうです。
よくよく話を聞いてみると、今年は立春(2月4日)が春節(2月9日)より前にあったので、今年(春節以降)は春がないと言うことになるのだそうです。われわれの暦から行くとなんだか信じられませんが、そういうことなのだそうです。
なるほど春節前には、結婚式が続けてあったのはこのためだったのですね。たくさん紅包(ご祝儀のこと)を包まねばなりませんでした。
私の中国の友人も田舎で結婚式があったのですが、3日間連続でお祝いだそうです。想像しただけでも疲れますね。最初の日は新郎新婦の友達が集まってどんちゃん騒ぎ。次の日はそれぞれ新郎側、新婦側で前祝みたいなことをして、親戚友達一同新婦を連れて新郎の家に行く。3日目にようやくホンチャンの婚礼式だそうです。テレビなどで紹介される農村の結婚式そのままですね。
ところで、結婚式のほうはちゃんとスケジュールどおり行くのでよいのですが、出産のほうはそうは行きません。私の友人などは2月2日時点で、もうすぐ生まれそうだと言っておりましたが、その後どうなったのだろう。まぁ年を越して生まれても、それなりに何かしら縁起のいいことを言って、めでたいことにしてしまうのでしょうね。