月別アーカイブ: 2018年10月

工場のホコリ

 先週は「モノ造りのホコリ」について書いたが今週は「工場のホコリ」について考えてみたい。ホコリといっても先週のテーマは「誇り」だが今週は「埃」だ。

最近複数のお客様工場で「ホコリ」について取り組んでいる。印刷工程、組立工程などなど色々なところでホコリが悪さをする。たかがホコリされどホコリである。

随分昔になるがCRT(ブラウン管)ディスプレイの内部にある異物が原因で、「管内放電」という現象に悩まされた。CRT内部にある金属性異物とアノード電極(25kV)の間で放電が発生し、表示画面が一瞬ぱっとフラッシュアウトしてしまう。一瞬のことなのでめったに見る事はないが、工場の監視画面のようにユーザが四六時中画面を注視しているようなアプリケーションでは故障と勘違いされ、サービスコールが発生してしまう。

サービスマンが現場に行っても再現せず、原因不明となってしまう事が多い。最悪の場合CRT内部の放電電流が外部回路に流れ電子部品を破壊してしまう事もある。

ではこの異物はどこから来るかというと、CRT組み立て中のホコリ、CRT内部のシャドウマスクや電子銃のバリなどが原因となる。これをなくすためCRTの組立工程では叩いたりゆすったり洗浄したりということを繰り返していた。

CRTメーカの努力にもかかわらず僅かだが市場で発生してしまう事がある。我々セットメーカとしては最悪回路の破壊故障にならない様に放電電流が安全にリターンするように工夫・確認するしかない。

そこで故意に管内放電を起こさせ確認することになる。
YAGレーザのパルス光をCRT外部から電子銃に向かって照射し金属を溶かしてしまう。飛散した金属によりCRT内部の絶縁が一瞬劣化し管内放電が発生する。

システムに組み込んだ状態で、管内放電による破壊やそれによるノイズで誤動作をしないことを確認する。この実験の様子をサービスエンジニアにも公開し「管内放電」を理解してもらったりしていた。

このよう異物がどこから来ているかはっきりしているモノは比較的対策がたやすい。

しかし印刷工程に浮遊しているホコリが、素地表面や印刷表面に付着してしまうと厄介だ。静電気で吸着してしまう事が多く、なかなかホコリが除去できない。
ホコリによる不良は外観不良ばかりではなく機能不良となることも多い。例えばプリント基板ではホコリにより回路の断線やショートが発生しうる。

ホコリを除去するために洗ったり。拭いたり、エアブローをかけたりすることになるが、「拭く」「吹く」という作業は静電気を発生させやすい。エアブローをかけることにより帯電させかつ周りのホコリを巻き上げ吸着させることになる。

加工による付加価値という観点では、ホコリを除去する作業はなんら付加価値を生んでいない。従ってホコリを拭き取るよりは。ホコリを発生させない・付着させない努力が必要だ。

一般にホコリの発生源を特定できないと対策は困難となる。
また付着させないためには,材料を帯電させない工夫が必要だ。


このコラムは、2009年6月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第103号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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モノ造りのホコリ

 ある中国企業の生産現場で指導をしていて大変驚いた事がある。
製品がひっくり返らない様に組み込む金属製の「重石」が大変に汚れている。「泥だらけ」という表現はちょっと言い過ぎかも知れないが、土ぼこりや蜘蛛の巣で汚れている。素手で触るのがためらわれるほどだ。

きれいにしてから組み込んだほうが良いだろうと製造部門のリーダに指摘をすると、ユーザには見えないところにあるのでかまわないという。外観には気を使っているが目に付かないところには余分なコストをかけない、という考えかただ。

また金属シャーシに取り付けたタブが加工ミスで曲がってしまっている。ペンチでぐいと位置強制して使うという。これもまたユーザの目には触れない場所だ。さすがにこれは不良としてリジェクトさせた。

別のラインでは、量販店から製品の仕様変更依頼(内部部品の交換)で返却された商品の改造作業をしていた。驚くことに返却されたボロボロの化粧箱に再梱包をしている。量販店が化粧箱交換のコストアップを納得しなかったので、破損の激しいものだけ交換するように白箱を100個だけ用意してあるという。これは現場のリーダを責めてもかわいそうだが、こんなモノを店頭に陳列すれば売れないばかりではなく、自社のブランドにまで傷が付きそうだ。

コストを重要視する考え方を間違っているというつもりはない。
しかしこの工場は床や作業台にネジが散乱していても平気な工場だ。ブランドに関わるコストを敏感に削減しているのに、部品の遺失コストには無頓着だ。

こういうモノ造りをしていれば、仕事や自分達が生産した製品に対する現場のホコリはなくなってしまうだろう。モノ造りにホコリを持っていない現場に高品質・低コストのモノ造りができるはずがない。更にこういうモノ造りを続けていれば、最も重要な顧客の信用やブランド力がどんどん低下してゆくだろう。

知り合いの縫製工場の経営者は、安物の仕事は請けないと言い切っていた。安物なりの縫い方を作業員にさせてしまえば、本来の品質を維持できなくなる。高級なモノは目に見えないところにもコストをしっかりかけてあるものだ。

その考え方ををモノ造りのホコリとして作業員にきちんと伝える必要がある。これは一介のコンサルが現場で指導できる話ではない。
この工場に対しては現場指導よりも、経営者指導が必要だ。


このコラムは、2009年6月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第102号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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究極のモノ造り

 メールマガジン82号で「究極のモノ造り」の事例をご紹介した。

この記事に対してZ様からメッセージをいただいた。

 「究極のものづくり」の例って、正直中々浮かびません。ただひとつ言えることは、技術者は自分の分野で「究極を語ってはならない」と言うことです。
「究極」とは、もうそこまでと言うことです。自身がそれを語りだしたら、もう限界が見えてきた、成長できなくなってしまうということではないでしょうか。究極を語ることが許されるとしたら、それは第一線を退かれた大先輩だけではないでしょうか。「究極」とは、追い、求め続けるもの、目指し続けるものです。と、また屁理屈を言ってすみせん。

Z様,いつもご投稿ありがとうございます.

Z様のご意見は屁理屈ではない。
私は「究極を目指すモノ造り」こそ「究極のモノ造り」だと思っている。

こんな例を紹介したい。

伊勢神宮の建て替えに使われた和釘は、木材の中に節があってもそれをよけて中に進むそうである。こういう和釘が1300年も前から使われている。こういう和釘は「究極のモノ」と言っても差し支えはないだろう。

私が考えている「究極のモノ造り」は、こういう技術を代々1300年も伝えるということだ。

実はこの和釘を作ってきた伊勢の船大工は、途絶えてしまっている。現代にこの和釘を蘇らせたのは、新潟・三条の鍛冶屋さんだ。彼らは「三条鍛冶道場」を作ってこのモノ造りの技術を次の1000年後に伝えようとしている。

82号でお伝えした、新しい市場を創出する、新しい付加価値を創造するのも「究極のモノ造り」であるが、この和釘のように古い日本のモノ造りの技術を代々伝えて行くのも「究極のモノ造り」と言えるだろう。

たかが釘。設計技術的にはローテクかもしれないが、モノ造り技術的にはハイテクだ。こういう技術こそ、日本国内で守ってゆかなければならない技術だと思う。

こちら「究極のモノ造り」もご参照いただきたい。


このコラムは、2009年2月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第83号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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勇者は必ずしも仁者ならず

yuē:“yǒuzhěyǒuyányǒuyánzhěyǒurénzhěyǒuyǒngyǒngzhěyǒurén。”

《论语》宪问第十四-4

素読文:
子曰わく:とく有る者はかならげん有り。言有る者は必ずしも徳有らず。仁者は必ずゆう有り。勇者は必ずしも仁有らず。

解釈:
徳がある人は必ず世のため人のために役に立つことをいう。しかし言葉巧みであるだけでは徳があるとは言えない。仁者は必ず勇気がある。しかし勇者は必ずしも仁者ではない。

目前に新幹線、恐怖の風圧体験研修 労組「見せしめだ」

目前に新幹線、恐怖の風圧体験研修 労組「見せしめだ」

 JR西日本が新幹線のトンネル内に社員を座らせて、最高時速300キロの車両の通過を間近で体感させる研修をしている。ボルトの締め付けの重要性など安全意識の徹底が目的だという。一部の労働組合は危険だとして、研修の中止を求めている。

 JR西によると、研修は2016年2月から小倉―博多間や広島―新岩国間のトンネル内で月1回ほど実施している。上りと下りの線路の間にある深さと幅がそれぞれ約1メートルの通路内に車両検査担当の社員が並んでうずくまり、間近を通過する新幹線の風圧やスピードを体感する。ヘルメットと防護眼鏡を着け、通常業務で通路に立ち入る保線の担当社員が付き添って安全に配慮しているという。

 この研修は15年8月に福岡県内のトンネルで新幹線からアルミ製のカバーが落下し、衝撃で乗客1人が負傷した事故を受けて始まった。カバーを固定するボルトの締め付けが不十分だったことなどが原因とみられている。

(以下略)
全文

(朝日新聞電子版より)

 「風圧体感研修」実施の発端となったトンネル内でのアルミ製カバー脱落事故に関してこのメルマガで以前取り上げた。

「新幹線緊急停車、1人けが 時速285キロ、部品落ち停電」

労働組合の意見はもっともらしく聞こえる。
しかし保線担当の組合員は毎日線路内を点検して歩いているはずだ。こちらの作業は危険だとは考えないのだろうか?

実は40年ほど前、北陸トンネル13.87kmを歩いたことがある。トンネル内には一定間隔で大人二人程が入れる退避場所が設けられている。トンネル壁に窪みをつけた様な場所で列車をやり過ごす。至近距離を特急列車が通り過ぎる時は思わず息を止めてしまう。万が一怪我でもしようものなら、業者として線路内への立ち入り禁止を食らう。相当緊張する。

車両検査部門の職員に作業に対する緊張感を持たせるためには効果的だろう。
しかしJR労働組合とは別の理由により、この様な研修が本当に有効かどうか疑問に思う。

アルミカバー脱落の原因を車両検査作業員の安全意識の欠落だとすれば、研修体験で作業に対する緊張感を持つことができるかも知れない。しかしこの研修で作業不良がなくなるとは思えない。
体験研修だけで安全意識を継続的に高めておくことは難しいだろう。定期的に研修を繰り返せば、慣れてしまい効果はなくなる。

本当の対策は、安全意識とか緊張感など属人的な要素に頼らずとも効果がある方法にしなければならない。ボルトの閉め付け不足を防止する作業方法なり、ポカ避け治工具などによって対策をする事が必要だ。


このコラムは、2018年10月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第735号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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IPQCの検査データ捏造

 第337号のメールマガジンで、JR北海道のデータ改ざんニュースから、工場内の同様な事例を紹介した。

2週続けて、安全規定の非遵守受け入れ検査の偽造の事例と、それに対する対策をご紹介した。今週はIPQCの検査データ捏造の事例についてご紹介したい。

IPQCの問題点は以下の通りだった。

  • IPQC(工程内検査)の検査データ捏造
    IPQCは2時間ごとに、半田ごての温度、絶縁抵抗を測定することになっていた。
    しかし現場に巡回して来たIPQC検査員は、絶縁抵抗測定器を持っておらず、全て10MΩ以上と記入していた。検査員に理由を問いただすと、自分が使っている絶縁抵抗計が壊れ修理中だと言う。

本件に対して、皆さんはどのような再発防止対策をされるだろうか?
本件には、読者様から何も反応がなかった。実は当時私もどうすべきか困った(笑)

結論から先に言うと、絶縁抵抗をIPQCでチェックするのを止めた。
肩すかしの様な回答で申し訳ないが、検査をしたかの様に捏造をするよりは、やらないと決めた方が良いと判断した。
絶縁抵抗を測定しなくても良いと判断した理由は、工程内で使っている半田ごては、全て高絶縁のセラミックヒータを使用していたからだ。ヒーター線はセラミックの中に埋め込まれており、絶縁不良となる事はあり得ない。セラミックが破れて、内部のヒーター線が露出すると言う故障モードが発生したとしても、劣化でその様な故障が発生する訳ではない。落下などの事故により発生する。従ってIPQCのチェックでは事前に劣化を見つけられない。

小手先の温度測定も、同様にIPQCの温度測定機が故障中と言う事はあり得る。
温度測定機は、各工程が小手先温度の設定確認用に持っている。IPQCの役割は第三者チェックだ。
IPQCの小手先温度計が故障している時は、生産現場の測定器を使用する事とした。勿論第三者チェックなので測定器も別の物を使うのが原則だ。IPQCは1フロア20ラインを一人で見ており、2階、3階に一名ずついる。二人に一台予備機を準備すると言う方法でも良かったが、現実的な対応を選んだ。

現実的な対応で良いかどうか議論はあるかもしれないが、もっと大きな問題は別の所にある。

測定器が壊れているのだから検査出来ない。適当にチェックリストを埋めておけば良い、と言う風潮が一般化する方が大問題だ。

ではなぜその様な事が行われるのか?
この問題を作業者の素質が低い、とすれば「作業者に注意しました」「作業者に再教育しました」と言う再発防止対策になる。

どうして作業者が、測定もしないでデータをチェックシートに書き込んだか、その理由を考えなければ解決は出来ない。

検査用測定器が壊れている時に

  1. 測定器が壊れたら、どうすれば良いか分からなかった。
  2. 今まで不具合はなかったのだから、測定しなくても大丈夫と判断した。
  3. 測定しなければならないと思ったが、相談する相手がいなかった。

検査作業員は、半日に1回20ライン全ての半田ごてをチェックしなければならない。上記の様な状態で悩んでいたら、仕事は終わらなくなる。

最終的には、IPQCの作業手順書を書き換え、測定器が異常となった時の手順を加えた。測定器が故障した時の報告、現物への表示、台帳への記入、修理依頼、この様なやらねばならない手順が不明確だから、何とかごまかそうとする。

データを捏造した事は叱らねばならないかもしれないが、結局指導者の配慮が足りていない事が本当の原因だ。作業者の素質のせいにしておくと改善の方法は見つからない。指導方法に問題があると考えれば、改善が出来る。


このコラムは、2013年12月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第340号に掲載した記事に加筆しました。

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受け入れ検査の偽造

 第337号のメールマガジンで、JR北海道のデータ改ざんニュースから、工場内の同様な事例を紹介した。

先週は、顧客監査時の顧客指摘事項に対する改善対策として決めたルールが守られない、と言う事例をご紹介した。

今週は、受け入れ抜き取り検査で、規定通りに検査が行われていなかったと言う問題について、どう改善したかをお伝えしたい。

受け入れ検査部門の問題点は以下の通りだった。
板金部品の受け入れ検査記録を見てみると、いわゆるAQL検査による抜き取り検査をしているはずだが、各ロット2個分のデータしか記録されていない。
作業員に理由を聞いてみると、記録用紙に抜き取りサンプルのデータを書くスペースが無いので、代表値(最初のサンプルと最後のサンプル)だけを記録していると言う。
その説明を聞いて気が付いたが、作業員一人で検査出来る物量以上のサンプルを検査しなければならない様になっていた。作業員は、AQL基準には従わず、各ロット2個だけ検査して作業を間に合わせていた。

デスクトップPCに内蔵される電源ユニットの金属シャーシの受け入れ検査だ。物が大きいので、生産に合わせて一日に3回分割して納入される。しかも毎日10品種ほど納入される。従って、抜き取り検査は毎日30回ほど実施することになる。一ロットから80個とか120個を抜き取りサンプルして測定する。
各ロットのサンプル数を平均100個とすれば、3,000個のサンプルをそれぞれ、受け入れ検査手順書に指定された測定ポイントが平均10カ所とすれば、測定は全部で30,000ポイントとなる。一日10時間検査をしたとして、1ポイントを1.2秒で測定しなければならない。作業は測定だけではなく、外観目視検査、検査結果の記録、サンプルを取りに行くなどもあり、絶対に不可能だ。

シャーシの寸法が不良で、工程内で不良となる事は無かった。
工程内で問題になるのは、ほとんど変形による組み込み不良だ。
受け入れ検査でロットアウトになるのは、品番間違いなどの問題だけだ。

実際には、受け入れ検査を手抜きしていても何も問題は発生しない。しかし、組織の中に不問律のダブルスタンダードがある事を許してはならない。これを是としてしまえば、品質管理は無力となる。

この問題を改善するために、検査員を増やすと言うのは現実的ではない。
金属シャーシの受け入れ検査員だけで10人必要と言うのはナンセンスだ。

寸法を測定するのが仕事ではない。少ない人数でも、部品の品質を保証出来る様にすれば良いのだ。

・受け入れ検査の測定ポイントを見直す。
・AQL方式の検査方法を見直す。

シャーシは板金プレスで出来上がっている。ほとんどの寸法は、金型が正確に設備にセットされていれば、問題ないはずだ。正しく金型がセットされている事を確認するための測定ポイントととする。

AQL検査方式が万能である訳ではない。受け入れ検査のサンプル数を5,6個とし工程管理図方式で管理する様にした。

ベンダーの工程を確認し、最初のロットで工程能力指数を確認する。こういう事をやれば、受け入れ検査の抜き取り個数や、測定ポイントは減らす事が出来るはずだ。
こうして時間を節約する事が出来れば、しばしば工程内で問題が発生する別の部品の受け入れ検査を強化する事も可能になる。


このコラムは、2013年12月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第339号に掲載した記事に加筆しました。

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安全規定の遵守

 先週のメルマガで、次の様な安全規定の不遵守問題をご紹介した。
お客様の工場監査で耐圧検査員の感電防止対策が不十分と指摘を受け、作業員にゴム手袋を着用する様に作業手順書を改訂し、対策とした。お客様監査官は、この対策に満足していただけだが、現場はこの規定を守らない。手袋は検査台の引き出しにしまわれており、顧客監査がある時だけゴム手袋を着用する様になった。

耐圧検査は、3000Vの電圧を製品に印加する検査である。通常は検査作業者が高電圧に触れる事はないが、想定外の故障などを想定し危険回避しなさい、と言うのがお客様監査官の指摘だ。

極端な考え方をすれば、仕入れ先の従業員が感電しようがしまいが、ちゃんと良品が出荷納品されれば、顧客は問題ない。自社のメリット、都合だけに焦点を当てず、取引先工場の作業安全にも配慮する。物を買う・売るの力関係だけではなく、互いのメリットを考慮した監査をしコメントをする、監査官としてはこういう心がけを持たねばならない。

しかしゴム手袋着用の対策書に満足した所は、現場監査官としては感性が不十分と言わねばなるまい。私ならば、この対策書を突き返えす。

ゴム手袋の中は汗でびしょびしょになり、作業員は不快感に耐えられずゴム手袋を着用しなくなる。こういう事が容易に想像出来る。そして現場の班長・組長も作業者の気持ちが分かるので、安全規定違反と知りつつ容認することになる。

規定はあるが、守らない。こういう事態を許してしまうと、規定はお客様監査のためにあり、守る必要はないと言う、悪しき風土が蔓延することになる。

お約束通り、耐圧検査員の安全対策をどう考えたら良いか、事例を紹介しよう。

通常は、耐圧検査中は被検査製品に触ることができない様にカバー付きのフィクスチャー(被検査製品を検査装置と接続し、固定する治具)を作る。カバーにリミットスイッチを付けておき、カバーが閉じている時だけ検査電圧が出る様にインターロックを付けておく。こうすれば、耐圧検査中は誰も製品に手を触れる事は出来ない。

ただし、フィクスチャーを作るためにはコストがかかる。
基本部分は共用出来る様にするにしても、全ての機種にフィクスチャーを準備するためには相当のお金が必要だ。指摘を受けた顧客の製品だけ、安全フィクスチャーを使用するのは、上述の悪しき風土の一歩となり得る。

念のために申し上げておくが、従業員の安全は全てに優先する。費用と安全がトレードオフ関係になることがあってはならない。機種が少ない、類似の形態でフィクスチャーが統一出来る、などの事情が有れば、安全フィクスチャーを作る事を強くお勧めする。

しかし費用対効果は考えても良かろう。同等の効果で、もう少し安価な方法をご紹介しよう。

  1. 光電スイッチを使う方法。
     被検査製品と作業者の間に、エリアタイプの光電スイッチを設置し作業者の手が光電スイッチを横切ったら、検査電圧が落ちる様にインターロックする。
  2. 手を近づけない工夫をする。
     耐圧試験開始のスイッチを外部スイッチとする。大方の耐圧検査装置には外部スイッチを接続するコネクターが背面についている。外部スイッチは2個直列接続とし、検査台の手前、検査員が左右の手を置ける
    場所にスイッチを1個ずつ左右に配置する。プレス機の起動スイッチと同じ考え方だ。左右両手で操作しないと起動しない。従ってプレス機に手を潰される事は無くなる。耐圧検査も同様に、感電する事は無くなるだろう。
    検査開始スイッチが手元に来るので、検査装置まで手を伸ばしてスイッチを押す必要は無くなる。安全向上ばかりではなく、作業負担の削減にもなる。

作業者の安全意識を高めるために、検査中は左右のスイッチの所に手を置いておく様に指導をする。
こうしておけば、お客様監査官に対して、作業規律の良い工場と言う好印象を与えることができるだろう。

これらの方法をご参考にされ、独自の方法を考えていただければ光栄だ。
良いアイディアがあれば、ぜひ教えていただきたい。

本件にご興味がおありの方から、メルマガ配信後すぐにメールをいただいた。

I様は偶然同じ問題を抱えておられ、フィスチャーを作ってみたが装着のため作業がロスとなり、更に良い方法をご検討中だった様だ。

T様からは、具体的に蒸れないゴム手袋のアイディアをお寄せいただいた。
蒸れないゴム手袋を開発出来れば、耐圧検査員だけでなく、多くの人達の福音となりそうだ。手袋メーカの方がおられればぜひ蒸れないゴム手袋の開発をお願いしたい。


このコラムは、2013年12月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第338号に掲載した記事に加筆しました。

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JR北海道、データ改ざん「9部署で」 社長陳謝

JR北海道、データ改ざん「9部署で」 社長陳謝

 衆院国土交通委員会は22日、JR北海道の一連の不祥事を追及するため同社の野島誠社長らを参考人として招き、集中審議を開いた。野島社長は函館保線管理室など9部署でレールの検査データの改ざんがあったことを明らかにした。改ざんが全社的に行われていた疑いが強まった。

 野島社長は冒頭、「国民の多くに多大な迷惑をかけ、おわびします」と陳謝。「日々の安全を確認し、私が先頭に立って再発防止に努めたい」と述べた。委員からは安全意識の欠如や内部統制の不備を指摘する声が続出し、野島社長は「反省している」と繰り返した。

 JR北海道でレールを点検・補修する保線部署は44カ所あり、これまでに函館保線管理室で検査データの改ざんがあったことが判明していた。

 野島社長は答弁で、新たに8つの保線管理室で改ざんが見つかったことを認め、改ざんの背景には「業務の集中や若手社員の技術不足など様々な問題が絡んでいる」との認識を示した。ただ、動機や組織性は「調査中」と述べるにとどめ、詳細な答弁は避けた。

 同社には経営幹部らが輸送の安全確保を議論する「安全推進委員会」がある。野島社長は「トラブルの報告にとどまり、十分な審理もしていなかった」と述べ、委員会が機能していなかったことを認めた。また、2011年の石勝線の脱線・火災事故を受け安全基本計画を策定した後もトラブルが多発したことには「計画を実行に移したが、スピードが足りなかった」と釈明した。

 同社では9月の国交省の特別保安監査で270カ所でレール異常の放置が発覚。追加監査も踏まえ、同省は2回の改善指示を出した。今月には監査の前に一部現場でレール検査データを改ざんしていたことが発覚し、同省は現在3回目の監査に入っている。

 JR北海道の経営陣が一連の問題で国会に呼ばれるのは初めて。国交省によると、JR幹部の国会招致は05年のJR福知山線脱線事故で、当時のJR西日本社長を呼んで以来。

 太田昭宏国土交通相は22日午前の閣議後の記者会見で「(参考人招致で)JR北海道が率直な報告をすることを期待している」と話した。

(日本経済新聞・電子版より)

 新聞記事だけで判断するのは公平性に欠けるが、野島JR北海道社長の衆院参考人質疑の応答はちょっとお粗末だと思う。

「日々の安全を確認し、私が先頭に立って再発防止に努めたい」と述べただけでは誰も安心出来ないし、問題の再発が防止出来ると言う確信も持てない。組織のトップが先頭に立って再発防止をするのは当たり前だ。「反省している」では無く、どのような対策を打つのかを明確にする必要がある。

原因の特定も出来ていないようでは、有効な対策など期待出来ない。
「安全推進委員会」が「トラブルの報告にとどまり、十分な審理もしていなかった」と言うのでは、何のための安全推進委員会なのか分からない。トラブル報告一つずつに、きちんと有効な再発防止が出来ている事を確かめて初めて安全推進委員会と言える。
この様な発言をすると言う事は、野島社長は安全推進委員会に出席していたのだろうかと言う疑念も出て来る。安全は経営のトップに掲げて達成しなければならない目的のはずだ。一番優先順位の高いはずの会議に経営トップが出席していないと言う事は、「安全第一」はただのお題目だと、従業員は理解するだろう。

このような問題は、工場の中でもしばしば発生している。
あなたも社内を見直してみてはいかがだろうか。問題が発生してからでは遅いのだ。

私が指導して来た中国工場の現場でも、データの改ざんはしばしばあった。
実例を紹介しよう。

  • 受け入れ検査の偽造
    板金部品の受け入れ検査記録を見てみると、いわゆるAQL検査による抜き取り検査をしているはずだが、各ロット2個分のデータしか記録されていない。
    作業員に理由を聞いてみると、記録用紙に抜き取りサンプルのデータを書くスペースが無いので、代表値(最初のサンプルと最後のサンプル)だけを記録していると言う。
    その説明を聞いて気が付いたが、作業員一人で検査出来る物量以上のサンプルを検査しなければならない様になっていた。作業員は、AQL基準には従わず、各ロット2個だけ検査して作業を間に合わせていた。
  • IPQC(工程内検査)の検査データ捏造
    IPQCは2時間ごとに、半田ごての温度、絶縁抵抗を測定することになっていた。
    しかし現場に巡回して来たIPQC検査員は、絶縁抵抗測定器を持っておらず、全て10MΩ以上と記入していた。検査員に理由を問いただすと、自分が使っている絶縁抵抗計が壊れ修理中だと言う。
  • 安全規定の非遵守
    工程内検査で絶縁耐圧検査(3000Vを印可する検査)は安全のためゴム手袋を着用して作業をする規定になっている。しかし検査作業員は顧客監査時以外は誰もゴム手袋を着用していない。それでも作業チェックリストにはゴム手袋着用の欄にレ点が入っている。
    これは作業員に聞いてみるまでもない、夏期にゴム手袋をして作業をすれば、5分もしないうちに手袋の中は汗まみれとなり、気持ち悪くて作業どころではない。

これらの「不正」に対しどのような対策を打ったら良いだろうか?
「従業員の品質意識を高め、再発防止に努めます」と言う対策で、再発しないと確信出来るだろうか?

勿論従業員の品質意識を高める事は必要だ。しかしこれらの問題は、品質意識が低いから発生したのではない。ちゃんと理由がある。
・時間が足りない
・必要な測定器がない
・汗で気持ちが悪い
これらの理由に対して、きちんと対策を打たねば必ず再発する。


このコラムは、2013年11月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第337号に掲載した記事に加筆しました。

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免震データ改ざん問題

東洋ゴム社長、月内にも「経営責任含め再発防止策」免震データ改ざん問題で衆院参考人招致

 東洋ゴム工業(大阪市)が免震装置に使うゴムの性能データを改ざんしていた問題で、衆院国土交通委員会は8日、同社の山本卓司社長らを参考人招致し、集中審議した。山本社長は再発防止策について、外部に依頼した調査結果を5月中旬にも受け取った後、「経営責任の明確化も含め1~2週間で取りまとめたい」と述べた。自身の進退についても検討する考えを示した。

 同委員会は開発担当の社員が不正に関わった経緯や、性能不足の免震ゴムを製造・出荷し続けた社内の品質管理などについて追及。山本社長は「建物の所有者ら国民の皆様に大変な心配とご迷惑をおかけした。おわび申し上げる」と改めて陳謝し、「企業風土の体質まで踏み込み、会社を立て直すという意欲で取り組みたい」と述べた。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 中国で発生した四川汶川大地震の時は、学校が倒壊し多くの子供達が犠牲となった。日本の東日本大地震では被災者が学校で避難生活をしているのをTVで見た中国人達は、日本の耐震建築技術が高いのを羨んでいた。
台湾中部大地震後は、日本の制震・免震技術を導入する建物が増えたと聞く。
「地震大国」日本の技術は各国から尊敬を集めていたのだが、今回の事件で信頼を失ってしまったかも知れない。

今回は製品認可を受ける時に提出したデータに改竄が有った様だ。
同様な問題は、自動車のリコール隠しから期限切れ食材の使用まで色々な業界で発生して来た。そして多分全てのケースで、問題は明るみとなり、企業責任を追及されることになった。

実際には、我々が見聞きしている問題は氷山の一角だけなのかも知れないが、不正を隠したまま経営が繁盛する事はあり得ない。経営者にも従業員にも良心が有り、その後も清々と事業が発展して行く事は無いだろう。

安全、品質に優先する経営指標などは無い。
品質部門の責任者は、経営者と刺し違えても品質を守るくらいの気概が必要だ。

私は前職時代に品質保証部門長をしていた。
品質部長には、品質に疑義があれば出荷を停める権限が有り、それを覆せるのは事業部長だけだった。
当時の会社を今でも誇りに思っているが、全社員が品質に対して真摯な姿勢を持っていた。

当時、新製品の第一ロット生産の後に「出荷判定会議」を実施していた。
この会議の目的は、初回量産の出来映えから継続的に生産が可能かどうか、品質保証が可能かを判定する事に有る。

品質保証部長は、出荷判定を合格とし初期流動管理のフェイズに移行するか、又は不合格とし初回出荷を停めるかの二者択一の判断をしなければならない。
この出荷判定会議で、私は一度だけ出荷停止をしたことがある。
直行率(全ての工程内検査を一発で合格する率)が99.3%であり、合格基準を満たしていたが、0.7%の不良が全て同じ部品の同じモードの不良だった。

出荷判定不合格とし、翌日の初回出荷を停止した。そしてその足でお客様の工場に出向き事情を説明した。お客様に迷惑をかけられないので、該当部品は全てセカンドソース品と交換して再検査し出荷の準備を整えていた。
当然叱られる事は覚悟していた。しかしここまで説明し終えたら、お客様から「良くやった」と褒められた。

その後、部品メーカから不良解析報告があり、不良のトランジスターは設備の不調により、チップがリードフレームにきちんとボンディングされていない物が混入していたと言うロット不良だった。

このトランジスターは、製品の過電流保護回路に使用しており、我々の製品検査合格品の中にも不良のトランジスターは混入しており、環境温度によっては、早めに保護回路が働いてしまうことになる。
安全上は問題ないが、エンドユーザから見ると夏場に空調が壊れたオフィスで製品を長期間稼働させた時に、突然電源が切れた様な動作をすることになる。

出荷判定時には、不良原因もリスクの大きさも不確かだったが、私の出荷停止判断に異を唱える者は一人もいなかった。一番出荷したいはずの工場長も私の判断を支持してくれた。

この愚直さが品質を保証する者の姿勢だと思う。
どうせデータを少しくらい改竄した所で分からないだろう。
少しくらい賞味期限が過ぎていても味は変わらないだろう。
と言う考え方は、絶対に上手く行かない。
お客様は騙せるかも知れないが、自分は騙せないからだ。


このコラムは、2015年5月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第423号に掲載した記事に加筆しました。

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