メールマガジン81号の「究極を目指す」に対して読者様からご投稿をいただいた.
「究極を目指す」
※Z様のメッセージ
「究極を目指す」ことこそ日本の製造業の強さの秘密ではないかと思います。ひとつの上を求める姿勢が、設計開発から現場まで貫通していたからこそ、日進月歩の顧客要求に応えられたのではないかと思います。
但しそれが日本製造業の光だとしたら影もあるわけです。
真の顧客要求から乖離した技術者、技能者のマスターベーションの結果が過剰品質ではないでしょうか。以前し尿処理プラントの建設に携わっていたことがあります。し尿処理後の排水は河川に放流しますが、その排水はメーカの技術競争の結果、放流河川の水質より遥かに浄化されたものでした。(設置市町村の長が、排水をコップに汲み飲むパフォーマンスまでしたとか、しないとか。)
排水はきれいであることにこしたことないのでしょうが、明らかにオーバースペックです。
そのための労力や財源は、河川の水質そのものを良くすることに廻すべきです。日本製の高精度のNC旋盤でしか出しえない寸法公差が図面に記載されている部品。しかし、その精度は本当に製品の機能・性能の向上に寄与するのか?
中国の年季の入った汎用旋盤で出せる精度で十分では?と、思うこと度々あります。今の短期的収益性を強く求められる産業界の顧客が、要求の機能、性能、耐久性の次に求めるのは、ひとつ上の機能、性能、耐久性ではなく、安さなのではないでしょうか。
ある意味で「ものづくり」の楽しさが欠落してしまった時代なのでしょうか。
Z様,いつもご投稿ありがとうございます.
中国で戦略的な購買活動をされているZ様らしいご意見だ.
このご意見の中には2つのご指摘があると思う.
一つは,顧客・市場の要求を無視したモノ造り.もうひとつは,現場のモノ造りを無視した設計.
- 顧客・市場の要求を無視したモノ造り:
商品開発のときに市場の要求を無視しては,売れるモノは造れない.しかし市場がローコストを要求しているときに,あえてそれに逆らうモノ造りをすると言うこともありだと思っている.
顧客が想像できなかった魅力的品質を作り出し新しい市場を作る,と言うことだ.こうすれば価格競争には巻き込まれない.
こんな事例を紹介すればご理解いただけるだろうか.
例1.iPodはハードウェアの向こう側に,ネットでの音楽販売という新しいビジネスモデルを作った.
例2.iPhoneはユーザの想像を超えた使い勝手を実現し,カスタマー・デライトを実現した.
例3.秋葉オタク向けフィギュアを生産している玩具工場では,あえて手作業のコストをかけて大量産品にない質感で勝負している. - 現場のモノ造りを無視した設計:
これはエンジニアのマスターベーションと言うよりは,無知だと言いきってしまってよいだろう.公差をワンランク上げるのにどういう作業が必要になって,どれだけコストがかかるか,エンジニアは現場で物事を考えなければならない.
商品開発は市場現場に軸足を置かねばならない様に,製品設計は製造現場に軸足を置かねばならない.
このコラムは、2009年2月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第82号に掲載した記事です。
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