月別アーカイブ: 2006年7月

原田さんの工場-情報の共有

原田さんは掃除のおばさんまできちんと情報が共有できていると豪語していましたが,それがハッタリではないという迫力があります.
たとえば工場訪問の帰りにシンセンの駅まで送ってくれた運転手さんは,携帯にかかってきた電話で話をしていたのですが,翌日の別の運転手の行動予定まできちんと把握していました.
指導をしている中国工場で,私が班長さんに教えたことがちゃんと共有できていない.彼らにしてみれば,せっかく林さんが「自分」に教えてくれたのに,他の人にも教えたら自分の相対価値が下がってしまう,と言う論理が働くのでしょうか(笑)
社員間で仕事を抱え込んでいて,担当者が休んでしまったり突然退社すると困ってしまうという局面が間々ありました.
原田さんからは,情報をきちんと共有できないのは,上層部がきちんと共有する姿勢を示さないからだと指摘されました.
中国ではリベートが当たり前です.購買など外部の業者とやり取りしている部署は気をつけないといけません.リベートの分だけ高い買い物をさせられる可能性があります.
別の指導先でこんなことがありました.
休日に緊急で出荷をしなければならなくなり,営業担当が業者に電話をしてコンテナを手配しました.折り返し電話がかかってきて,リベートを振り込むから口座番号を教えてくれと言ってきたそうです.
原田さんの工場では業者から貰ったものは共有物として登録され,社員に配分する仕組みを作ってあるそうです.
部品も価格(月別の推移もわかるようになっている),ベンダーなどの情報が張り出してあります.こうすることによって、ベンダーとの癒着などが不可能になります.
前回「教育」のコラムでも紹介しましたが,原田さんの工場では,経営数字まで全従業員に情報共有されています.日本の会社では当たり前かもしれませんが,台湾系,香港系の会社では経営数字は経営者と経理担当の管理職しか知らない,なんてことが間々あります.
このようにトップダウンで「情報共有」の姿勢を見せれば,現場の班長さんや職員達も情報の共有ができるようになるでしょう.
この「情報の共有」が,共に学び共に成長する,チームワークで仕事をする,ことの基礎になります.
このような企業文化が,競争力の源泉になるのです.
「文化」はそう簡単に真似ができません.良い企業文化をコアコンピタンスにすれば,他の企業はそう簡単に追いつけないはずです.

原田則夫さんの工場-監査

原田則夫さんの工場には,品証の中に監査GR(5,6人)があり,毎日現場,間接部署の監査に回っています.
文書規定類の監査もしますが,現場の作業をきちんと見ている.「監査」という言葉を当てるとちょっとニュアンスが違ってしまうかもしれませんが「問題解決能力」のあるメンバーを当てているので毎日改善が可能です.
この職場では毎朝前日の報告を朝会でするそうですが,ここでの報告は「作業報告」ではなく「改善報告」をするようになっています.2日続けて改善がないとお前はこの会社に向いていないから別の会社に行ったらどうだ,ということになります.こういうことを原田さんをはじめとする幹部が関与しなくても,現場だけで回っているというところにこの会社のすごさ(企業文化)があります.
退職を勧告されてしまった社員にもさらに猶予が与えられますが,実際にはそれほど不幸なことでもないようです.SOLID(原田さんの会社)にいたというだけでここいらの企業には有利な条件で転職できるからです.
「監査」と言うと「ISO監査」とか「お客様の品質監査」と言う連想で,ネガティブになっていませんか?
監査は本来「改善」の為のツールです.問題点のありかを見つけなければ,改善はできませんから.
あなたの会社では「監査」を日常的な改善ツールとして活用していますか?

次回は「情報の共有」です.
お楽しみに…

原田さんの工場-見える管理

原田則夫さんの教え方は独特の切り口があります.
例えば「見える管理」を教えるときに,ボーリングの話をします.
教える相手がボーリングを知らなかったので,まずボーリングにつれてゆく(笑)その後で,仕事とボーリングとどちらが楽しい?と聞きます.当然皆ボーリングの方が楽しいに決まっています.
そこで,ボーリングは自分の得点(成果)がいつも見えているから楽しい,仕事も同じように見えるようにすれば楽しいよ.と教えるわけです.
「見える管理」を管理の側から説明するのではなく,従業員の立場で説明しています.すなわち仕事が楽しくないのはすぐに結果・成果が見えないようなやり方をしているからだということです.楽しく仕事をするためには、ちゃんと見えるようにしましょうということです.
だから前回のコラム「教育」で紹介したように,原田さんの工場には間接直接を問わず,そこいらじゅうにいろいろな資料が張り出されています.
たとえば設備営繕の職員が何かを作業しているときにも,ちゃんと立て看板が作業場に立ててあって,今何をしていていつまでに終わるということが書いてあります.
これは中国の工場だけの話ではありません.
先の長いプロジェクトで延々仕事をしていると,どうしてもモチベーションが下がってしまいます.進捗もうまく管理できず,最後は必死で追い込む.その結果品質も作りこめない.なんてことがありませんか?
プロジェクト進捗の「可視化」をしましょうと言うことがよく言われますが,これは只管理のためだけではありません.作業をしている人たちのモチベーションを維持できるように工夫するべきです.
あなたは部下や従業員が楽しく仕事ができるように工夫していますか?
キーワードは「Joy of Work!」

次回は「監査」です.
お楽しみに…

原田則夫さんの工場-教育

原田則夫さんの経営哲学の中核をなしているのが人材教育だと理解しています.
「品質」とは最終的には「人質」だと思っています.人の質のばらつきが品質のばらつきになる.
機械で物を作っていても,機械の操作・メインテナンスをするのはやはり「人」です.
多分普通の人なら見逃すと思うのですが,原田さんの工場の社員食堂はものすごくきれいです.
日本の会社ならば当たり前かもしれませんが,中国では食堂の床やテーブルの上に食べかすが散乱しているのは当たり前です.そのためちょっと高級なレストランでは常に床を掃除している人がいるくらいです.テーブルもお客さんが変わるたびにテーブルクロスを替えなければなりません.
しかしここの社員食堂は2000人の作業員が食事をした後も床もテーブルも非常にきれいです.
地方から出てきた「農民集団」に徹底して精神論から鍛えなおしているそうです.新入社員に7日間かけて礼儀作法から教えるそうです.
従業員達の文化を変えることは難しいですが,習慣は変えることができます.
原田さんの教育には「愛情」が感じられます.原田さんがまず教えるのは,個人の成長のために学ぶのだということです.
それを従業員が理解しているから,皆生き生きと仕事をしている.
原田さんの工場では,地方から出てきた女工さんたちの中から,文員さんを登用しています.これができるのは,ちゃんとした教育システムと,公平な試験制度があるからです.
例えば受付のおねぇさんは作業員から登用された人です.
彼女は手が空いているときは喫茶部の運営も任されている.来客や会議中の飲み物提供が仕事です.この職場にはパワーポイントでできた喫茶部の経営状況のチャートが掲示してあり,月ごとに更新されています.そこには固定経費がいくらで,変動費がいくら,利益がいくらということがグラフで見えるようになっています.
原田さん曰く,これだけ教えておけば,彼女が退職して田舎に帰っても食堂の経営くらいはできるだろうということです.
また業者さん対応の受付のおねぇさんも同じように彼女の成果(何社新しい業者が来て,そこからいくつ新規採用になったか)をグラフにして張り出しています.彼女は自分の机のコンピュータで会社の経営数字(月別の売上高推移のグラフ)を見ていました.
彼女もまた作業員から昇格した月給600元のおねぇさんなのです.
従業員を信頼しているから,こういうことができるのですね.
私の知り合いは中国のある工場で工場長をしていますが,経営数字は見せてもらえないそうです.経理の管理職が握っていて,工場長すら知らされない.
あなたならどちらの会社で働きたいですか?
良い会社は従業員を育て,その成長で会社の利益貢献につなげるのです.

次回は「見える管理」についてお話します.
お楽しみに…

原田則夫さんの工場

私には秘かに師匠と尊敬する方が居られます.
原田則夫さんとおっしゃって,以前Sony恵州の総経理をされていた方です.
フナイの会長さんがSony恵州を訪問した時に,工場に一歩足を入れた瞬間にあまりのすばらしさに絶句したという逸話があります.確か2001年ころの日経ビジネスの記事に出ていました.
今原田さんは中国のSOLIDという工場で総経理をされています.
一度原田さんの工場SOLIDにお邪魔をしたことがあります.
原田さんの工場に到着して真っ先にトイレをお借りしたのですが(笑),トイレを見てこの工場は「ただ事ではない」とすぐにわかりました.
トイレに清掃のチェックリストが貼ってあるのですが,これが形だけではなくちゃんと「魂をこめて」運用されているのがよくわかりました.
いきなり感動させられた原田さんの工場を,当時のメモを元に,皆さんにもご紹介しようと思います.

次回からシリーズものでご紹介します.
原田則夫さんの工場-教育
お楽しみに…

通訳

中国の工場で仕事をしていると,通訳のお世話になることがままあります.
私の場合,簡単なことは自分で話してしまいます.
しかし難しいことのほうが通訳を通すと全然伝わらなくなってしまいます.
以前「チームワーク」について説明しようとしたときに野球の例で説明しようとしました.しかし通訳さんは野球をやっとこともないし見たことすらない.これでは絶対訳せませんよね.
仕方がないのでサッカーの例で説明しました.
厳密に言うと,野球とサッカーではチームワークの形が若干異なります.(これは又別の機会に)
特に専門用語となると,ほとんど期待できません.通訳さんは日本語を勉強しただけであり,品質保証とか統計数学なんてかじったこともない.
通訳さんが固定されている場合は,じっくり教えられます.私と1年半付き合った通訳君は,元々営業職だったのですが,今では一人前の品質保証担当になりました.
普通はそんな時間的な余裕はありません.少なくとも専門用語について,事前に調べておく必要があります.発音できなくても漢字さえ覚えておけば何とかなります.
最近のRoHS規制など,化学物質の名称などは通訳を使っても難しい.
「水銀」をそのまま「水銀(shui3yin2)」と訳したりする.これでも通じないことはないかもしれませんが,「」と訳したほうが良いです.
鉛などはそのまま漢字で書けば通じますが,ではカドミュムは?
ポリ塩化ビフェニルなんて英語のスペルも怪しくなってしまいます(笑)
そんな方のために「RoHS使用禁止物質 日・英・中 対語訳リスト」を作ってみました.
ご希望の方に差し上げます.
こちらまで【RoHS】と言うタイトルでメールをください.折り返しメール添付でPDFファイルを差し上げます.
無料です.

RoHS

欧州指令RoHSが7月1日から実施されています.
欧州に輸入される製品に禁止物質が入っていると,即回収をしなければならなくなります.
以前日本の大手電気メーカが欧州に輸出した製品から,カドミュウムが検出され対象製品を全数回収したことがあります.それ以来このメーカが全世界のリーディングカンパニーとして,RoHS対応を進めてきました.
日本のメーカは世界の中でも対応が一番進んでいたのではないでしょうか.大手メーカでは2005年にはもう対応がほとんど済んででいました.
先ほどの例にあるように,禁止物質が見つかると回収騒ぎとなり,中小企業などは一発で倒産してしまいます.
台湾のメーカなどを見ていると,ぎりぎりまで非RoHSの製品を生産・出荷しており,部品の混入など非常に気を使いました.例えばねじ(メッキに六価クロムが入っていることがあります)の一本も混入できない状態です.
ほとんどのメーカは,部品・材料を購入して組み立てるだけなので,自工程では禁止物質を使う必要はないわけです.
このようなメーカには次のように指導しています.

  • 源流管理
  •   グリーンチェーンマネジメントと言う呼び名をつけてみました.部品メーカ,さらにその先の材料メーカにまで指導管理が必要です.

  • 識別管理
  •   倉庫・工程全ての場所で識別がきっちりできていること.不良品の修理ベンチなどが盲点になります.

  • トレーサビリティ管理
  •   万が一の時のために,全ての部品・材料のトレーサビリティを取っておかないと,回収になった場合対象範囲が絞り込めません.
    この三つをきっちり抑え一滴の水も漏れない管理をする必要があります.
    AQLなどと言う生易しい管理では対応できません.
    ロットごとに製品の抜き取りをして成分分析を行う?これでは間に合いません.だから源流管理が必要なのです.
    ところで,中国の生産委託工場,部品メーカに対して,どのような指導をしておられますか?
    化学物質の名前など,英語でもなかなか言えないのに中国語ではもっと辛いですよね.辞書にも出ていない.
    そんな現場で苦労をされている方のために,RoHS使用禁止物質の日・英・中の対語訳のリストを作ってみました.
    このリストで英語,中国語でコミュニケーションができます.中国語は発音がむつかしいですが,漢字を書けば伝わりますから.
    メールをいただければ,折り返しメールに添付してPDSファイルを送ります.
    無料です.
    メールアドレスは,ここをクリックして見て下さい.
    メールの件名に【RoHS】と書いて送ってください.