月別アーカイブ: 2021年2月

計画し続ける

 デミング博士が提唱したと言われる(異論はあるようだが)PDCAサイクルはまず計画ありきとなっている。当然何事かをなそうと思えば計画を立てることになる。しかし計画そのものには価値はない。計画を実行することにより価値が発生する。計画だけで実行が伴わなければ「計画倒れ」となる。

第34代米国大統領・アイゼンハワーはこう言っている。
“Plans are worthless, but planning is everything. ”
「計画には価値はない。計画し続けることが全てだ」

計画は様々な要因(外的要因、内的要因、経済的要因、技術的要因など)により計画通りには進まない。その時に重要なのは計画に固執することではなく、様々な阻害要因を排除、回避するよう計画し続ける(planning)事だ。

「計画し続ける」ということがPDCAサイクルを回すことと同義だ。

計画し続けなくても目標を達成した場合は、計画が素晴らしかったというより、課題が簡単すぎたということだろう(笑)計画し続けることにより活動から得られる経験値が次の活動を加速させる。


このコラムは、2019年7月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第855号に掲載した記事です。

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思考が運命を決める

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になる
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

思考が言葉を決め、言葉が行動を決め、行動が習慣を決め、習慣が性格を決め、性格が運命を決める。だから良い運命は良い思考から始まる、という格言だ。

思考は外からは見えない。この格言で、他人にも判るのは言葉、行動、習慣、性格だ。

例えば
安全推進委員の発言。
Aさん「毎月安全推進会議を開催している」
Bさん「毎月安全推進会議が開催されている」
この二人の言葉の違いはわずかだが、Aさんは能動表現、Bさんは受動表現になっている。どちらが安全推進活動に積極的か判る。それが行動に現れる。

不祥事が発覚した会社の社長発言
C社長「改善します」
D社長「改善させます」
この二人の発言の差はわずかだが、C社長は能動表現、D社長は使役表現になっている。どちらの社長が改善に積極的に取り組むか判る。それが社長の行動を変え、会社の運命を決める。


このコラムは、2020年7月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1007号に掲載した記事です。

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新世界秩序

 近代の世界秩序は軍事力で保たれてきたと言えるだろう。第二次世界大戦後、ソ連、東欧対自由主義諸国の冷戦状況に対処するためNATOが結成される。ソ連崩壊後東西冷戦は終結したように見えたが、イスラム武装勢力対米国・NATOの対立となる。クリミア・ウクライナへのロシア武力侵攻により新たな米露対立が発生する。

現代は中国の経済発展により、経済は米中の二極対立となった。対立・秩序の基軸が軍事力から経済力に転換した。

そして今年になって新コロナウィルスの爆発的感染が世界に広がった。中国は情報の隠蔽、改ざんにより世界から信頼を失う。米国は大統領の無能が露呈し信頼を失ってしまった。

世界は軍事力、経済力の均衡で秩序が維持されてきた。
現在この時点で世界の秩序を維持するものは軍事力でも経済力でもない。世界の秩序を維持するのは『道徳』であると言いたい。道徳とは正直、誠実に他人を思いやる力だ。「3.11」で賞賛された日本人の道徳力を今こそ発揮する時だ。老子、孔子という道徳の始祖を持つ隣国も我々に追随するはずだ。


このコラムは、2020年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第967号に掲載した記事です。

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検査不正・罰則強化へ

国交省、検査不正で罰則強化へ 自動車メーカーに再発防止

 自動車メーカーによる新車出荷時の完成検査で不正が相次いだことを受け、国土交通省は7日、罰則を強化する方針を固めた。不正発覚後、是正命令に応じない場合に新たに罰金を導入するほか、国の監査で隠蔽を図った際の罰金を大幅に引き上げ、再発防止を図る。今国会に道路運送車両法改正案を提出する。

 不正発覚時に関しては、昨年秋の省令改正で是正を勧告できるようにした。これに加え、強制力のある是正命令を新設、履行まで出荷は一時的に停止できるようにする。罰金と併せて速やかに不正を改めさせる。罰金は数十万円とする方向で調整している。施行時期は未定。

(共同通信社)

 以前完成車検査不正が報道された際に、このメルマガでも取り上げた。

日産の完成車検査不正

日産不正検査

当初発覚した完成車検査不正は検査員資格のない従業員が検査を実施していた、という不正だった。当時は完成車検査(陸運局の車検を新車出荷時に自動車メーカが代行する)制度そのものの存在意義について疑問を呈した。

しかしその後も、排ガスや燃費データの改ざん、ブレーキ検査の不正などが次々に明らかになった。

メーカ側に同情的な意見を述べていたが、報道記事にフットブレーキの検査にハンドブレーキを併用していたという不正を目にして、もう同情の余地はなくなった(苦笑)

検査不正

罰金・罰則がなければ品質保証ができない、という日本車品質事情に深く失望している。昔、生産委託先の台湾企業の経営者が検査装置を導入するから品質問題はなくなると言われ苦笑した。その苦笑を日本の製造業に向ける日が来るとは想像だにしなかった。

日本製品の「安かろう悪かろう」という世界中の悪評を払拭し、日本品質を確立してきた先人の努力を思うと、残念でならない。

品質はお上に頼るのではなく、モノ造りに関わる一人一人の努力によってしか達成できないものだ。


このコラムは、2018年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第704号に掲載した記事です。

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頑固な決断

 「がんばれ社長!」の武沢さん、「ビジネスブックマラソン」の土井さんが揃って推薦されている書籍を読んでいる。書評を目にしてすぐ読めるのは電子書籍のありがたいところだ。

「Think Clearly」ロルフ・ド・ベリ著

まだ半分ほどしか読んでいないが、今週月曜日に配信した「計画し続ける」は本書にインスパイアされ書いた。

「計画し続ける」

本日紹介したいのは「戦略的に『頑固』になろう」という章だ。

行動を起こす決断をする際に「選択肢は一つだけ」という状況を作る事により判断ミスを防ごうという主旨だ。

「柔軟な判断」の方が一見高度な判断をしているように思えるが、何度も判断を繰り返すと判断ミスが発生する可能性がべき乗で増えてくる。愚直に同じロジックで判断することで判断ミスを防ぐことができる。

しかし頑固な判断基準で頑固な決断を繰り返していると、いつかは大きな問題につかまることがある。

過去の経験から想定できない問題が起きている。
世の中の変化(進歩)によって従来の判断基準が通用しなくなっている。

以前のメールマガジンで、出荷判定基準の一つ「初回生産直行率95%以上の事」の判断基準を無視して、初回生産の直行率99.3%だったモデルの出荷を止めた事例をご紹介した。

「品質クレーム」

この時は「柔軟な判断」により正しい行動が取れた。
こういうこともあるが、ここから得られる教訓は「柔軟な判断」を優先せよ、ということではない。一度決めた判断基準は常に見直しが必要だ、と考えた方がよりよい決断ができるはずだ。
この時は出荷判定基準に「直行率95%以上。但し同一部品の同一故障モードがないこと」と改訂することで、判断基準を進化させることができる。

判断基準を判断のための「計画」と考えると、先にご紹介した「計画し続ける」にある通り、判断基準は進化し続けなければならない。


このコラムは、2019年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第857号に掲載した記事です。

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賢者を尊び、衆を容れる

xiàzhīménrénwènjiāozhāng
zhāngyuē:“xiàyún?”duìyuē:“xiàyuē:‘zhězhīzhězhī。’”
zhāngyuē:“suǒwénjūnzūnxiànérróngzhòngjiāshànérjīnnéngzhīxiànrénsuǒróngzhīxiànrénjiāngzhīrén?”

《论语》子张第十九-3

素読文:
子夏しか門人もんじんまじわりをちょうう。
ちょういわく、子夏しかなにとかえる。こたえていわく、子夏しかいわく、なるものこれくみし、不可ふかなるものこれこばめと。
ちょういわく、ところことなり。くんけんたっとびてしゅうれ、ぜんよみしてのうあわれむ。われ大賢たいけんならんか。ひといてなんれざるところぞ。われけんならんか。ひとまさわれこばまんとす。これ如何いかんひとこばまんや。

解釈:

子夏の門人が人との交流を子張にたずねた。
子張曰く:“子夏はなんといったのか”
子夏の門人答えて曰く:“ためになる人と交わり、ためにならない人とは交わるな、といわれました”
子張曰く:“それは私の学んだことと違う。君子は賢者を尊び衆人を受け入れる。善人を称讃するとともに無能の人をあわれむ、と私は学んだ。自分がもし賢者であるなら、誰でも受け入れる、自分がもし賢者でなければ、こちらが相手をきらうまえに、相手がこちらをきらうだろう”

君子たる者、学歴、社会的地位、貴賎で人を判断すべきではない。
というのは理解できますが、他人の時間を奪うような人とは付き合いたくない、と小人の私は思います。

積ん読

 積ん読。読みたいと思って本を買っても、読む時間がなく本棚の肥やしになっている状態をいう。日本に帰ると、古本屋にゆき手当たり次第に本を買い中国に持ち帰っている。そんな本が、アパートだけでなくオフィスまで大量に積ん読状態になっている。
中国では日本の書籍を買えないのだからしょうがない、と思っている。
しかしiPadやiPhoneの中も電子書籍や朗読書籍が積ん読状態となっている。中国にいるというのは言い訳で、私の積ん読病には別の病根がある様だ(苦笑)

積ん読はそのまま「tundoku」として海外にも紹介されているのを見つけた。

記事によると「ビブリオマニア」という言葉は海外にもある。しかしビブリオマニアというのは書籍収集そのものが目的であり、読もうと思っても読めない本がたまるのが積ん読であると解説している。
または恋人がいても、他の女性に興味を持ってしまう浮気症であるとも解説している。

内心ギクリとする指摘である。
しかし積ん読には別の効能もあると主張したい。
書棚の背表紙をぼんやり眺めているだけで、雑多な書名の順列組み合わせから新しいアイディアが出てくることもある。
例えば「研修開発のTQC」「カイゼン活動の進め方」という本が2冊並んでいる。これを眺めていて「研究開発のカイゼン活動」という新しいテーマが思い浮かんだりする。

アイディアが出てくること「も」ある、と弱めの表現をしている。実は意識的にその様なアイディアを求めて積ん読の背表紙を眺めているわけではない。私の場合は、指摘通りただの「浮気症」なのだろう(笑)

■■ 編集後記 ■■

今ワインバーグの「文章読本」を時間をかけて読んでいます。
「時間をかけて」というのは、読んでいる最中に他の事が気になり、別の本を読み始めるということを繰り返しているからです。
やはり私の読書は浮気症なのかもしれません。


このコラムは、2018年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第704号に掲載した記事です。

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続・魅力工学

 8月3日配信の第701号「魅力工学」で、婚活サイトのプロフィールが魅力的に見えるキーワードをAIが解析したという事例をご紹介した。

この記事に読者様からメッセージをいただいた。

※Z様のメッセージ

701号のフレーズ 
“私たちに必要なのは「正解」ではなく「新しい答え」だと思う。”
心に刺さりました。
私は、「現在」は「過去の行動」によって作られ、「未来」は「現在の行動」によって変えられると思っています。
ゆえにAIの描く未来は、過去の延長線上のもので、過去を超えることができない。過去を超えるためには、「新しい答え」が必要なのでしょうね。

メッセージをいただいて、「正解」と「新しい答え」についてもう一度考えてみた。

AIは「いいね」をもらった回数とプロフィール中の言葉や写真との相関を求め、相手に好感を持ってもらえるプロフィールや写真を分析した。

例えば平安時代の絵画を見ると、ぽっちゃり系の女性が描かれている。多分当時の絶世の美女は、現在では特定の男性にしかモテないだろう。人の好みは変化してしまう。しかしその変化は急激なものではない。婚活サイトのビッグデータを解析して出た答えは2、3年の単位であれば「正解」だろう。解析を繰り返していれば、AIが出す答えは「より正しい答え」と「新しい答え」を両立させることができるだろう。

失敗事例も過去のデータだ。
10年、20年前の失敗事例が現代に役に立たないかというと、全く逆でいまだに過去の失敗が繰り返されている。しかし失敗事例をビッグデータとしてAI分析したという話は寡聞にして聞いたことがない。

航空機の事故は、徹底的に原因解析され再発防止が徹底される。
しかし他の業界では、類似の事故が再発している。例えば、寿命モードで故障した電子部品が原因で火災事故が発生するような事故は、しばしば発生する。

こういう業界にAIによるビッグデータ解析をすれば、未然防止(開発時に対策)することができるのだろうか?AIがこういう方面にも応用できれば、別の意味で「魅力工学」となるだろう。
素晴らしい着想だと喜んだが、5秒後にダメだと悟った(笑)
魅力工学でAIが分析したのは相関関係だ。
しかし事故防止には相関関係は役に立たない、事故と原因の因果関係が必要だ。


このコラムは、2018年8月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第705号号に掲載した記事です。

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魅力工学

 東京大学の山崎俊彦准教授の「魅力工学」という記事を目にした。
婚活サイトのデータを活用しAIで婚活に有効なプロフィールの書き方、顔写真の撮り方を分析したそうだ。

詳細はよくわからないが、婚活サイトでの「いいね」や連絡先の交換の件数を指標にして、多変量分析をしたのだろう。

「いいね」の件数とプロフィールのキーワードとの相関を分析する。
例えばプロフィール内の「海外勤務」というキーワードと「いいね」の件数に相関があることを発見すると、海外勤務の経験がある、または海外勤務中であると結婚の対象として好ましく思う、ということになる。

多変量解析では、キーワードを自分で設定することになるが、AIを使ってキーワードの洗い出しも自動でやってくれるのだろう。

さらに、メッセージのやり取りの件数、間隔までもパラメータとして分析したそうだ。手動でやれば気が遠くなる様な分析だが、AIならば勝手に分析してくれる。

ロボットやAIが人の代わりに仕事をする時代がやがて来ると、予測する人もある。さらに結婚相手もAIが決める時代が来るのだろうか?

しかし冷静に考えれば、AIが猛烈な処理能力と速度で分析するビッグデータは「過去のデータ」だ。未来を創造するのは「過去のデータ」ではないだろう。AIは過去のデータに基づき正解を出すかもしれない。

しかし私たちに必要なのは「正解」ではなく「新しい答え」だと思う。

■■ 編集後記 ■■

「魅力工学」なんとも魅力的な響きを感じます。
当たり前品質から魅力的品質。顧客満足から顧客感動。工学の世界も人の心を取り扱う様になるのでしょうね。


このコラムは、2018年8月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第701号号に掲載した記事です。

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リコールのTDK加湿器が火元か 長崎の介護施設火災

 4人が死亡した長崎市の認知症グループホーム「ベルハウス東山手」の火災で、電子部品大手のTDK(東京)の上釜健宏社長は22日、長崎市内で記者会見し、リコール(無償回収・修理)の対象になっている同社製加湿器が火元となった可能性が極めて高いことを明らかにした。

 1998年9月に発売した加湿器「KS―500H」で、ヒーターなどに不具合があり、99年1月にリコールを通産省(現経済産業省)に届け出た。販売された2万891台のうち約26%の5509台が回収されていない。上釜社長は「亡くなった4人の方々、遺族の方々、負傷された方々などに、心よりおわび申し上げます」と謝罪した。

 TDKによると、KS―500Hは長崎の火災のほか、焼損16件、発火14件、発煙16件の計46件の事故を起こしている。火災となったり、けが人が出たりしたケースはないという。

 都道府県別の事故件数は北海道が10件、東京が9件、埼玉が5件、千葉、静岡、三重が各3件、栃木、愛知、京都が各2件、秋田、宮城、群馬、長野、富山、兵庫、宮崎が各1件。

 KS―500Hは内部で蒸気を発生させる蒸発皿にヒーターを十分に固定できていないものがあり、ヒーターが変形して蒸発皿から外れ、底の部品に接触するなどして発煙、発火することがある。異常発熱すると、ヒーターの温度は1000度を超えるという。

 TDKは15日に長崎県警から連絡を受け、21日に火元の部屋にあった焼けた加湿器を確認。ヒーターの一部が蒸発皿から外れ、脱落するなどの不具合があったことから、過去の不具合と同様に脱落部分が異常発熱し、ほかの部品に触れて発火した可能性が極めて高いと判断した。

 TDKは回収への取り組みが不十分だったとして、全国のグループホームなどに加湿器の使用状況を確認する作業を22日から始めた。

 火災は8日夜、ベルハウス東山手が入居する4階建てビルのうち、入所者の居室がある2階から出火。入所者の女性3人と、元入所者で建物3階に住んで
いた女性(82)の計4人が死亡した。

(日経電子版より)

 2月8日に発生した、長崎の認知症グループホームの火災について先週のコラムで、加湿器のショートは「原因」ではなく「現象」だと書いた。
丁度2月22日の日経電子版に、上記記事が出ていた。

記事によると、加湿器内部のヒーターが動作中に脱落、加湿器内部に接触、接触部分が加熱され焼損に至った、という事が判明した。

製品は燃えてしまっているため、ショートして発熱した様に見えるが、焼損の原因はショートではなく、ヒーターの脱落だ。
そしてヒーターの脱落にも原因がある。
ヒーターの固定が不十分だという作業不良が原因であり、作業不良が発生し易いという誘因があったはずだ。

例えば、ヒーターの固定箇所の機構設計が、ロバストになっていなかった。ヒーターの固定作業方法が、作業者によってばらつく様になっていた。

ここまで原因調査を深堀して初めて有効な再発防止対策が検討出来る様になる。

メーカのTDKは、99年1月にリコール届けを出し、回収を告知している。この時どのような「再発防止対策」を施したのかは、外部からは窺い知る事はできない。
残念ながら、TDKはリコール届けを出してすぐに、加湿器事業から撤退している。加湿器を生産しなくても、同じ轍を踏まないための、ノウハウ化は可能だ。

今回の事件を
「発熱箇所が脱落し、機構部品と接触する」
という潜在故障現象として、設計FMEAや工程FMEAで検証レビューをすれば、他社の失敗事例でさえ、共有出来るだろう。

他業界の企業もこのようにして、失敗事例から「未然防止対策」を引き出せば不必要な品質損失コストの発生を防ぐことができる。品質損失コストは、自社が負わなければならないものだけではない。社会全体、被害に遇われた方及びその家族の方々すべてに損失が発生している。その損失は、金銭的な補償で補いきれるものではないはずだ。これらの損失を未然に防止する事は、企業の社会的責任でもあるはずだ。


このコラムは、2013年2月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第298号に掲載した記事です。

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