月別アーカイブ: 2019年5月

アマゾンロボ競技会 日本、「問題設定力」に敗因

 ロボカップとの共同開催で行われた「アマゾン・ピッキング・チャレンジ(APC)」。三菱電機など日本勢も最新の技術を搭載したロボットで勝負に挑んだが、優勝はかなわなかった。技術面で後れを取ったわけではないのに、世界で勝てない。敗因を探れば、実用化段階で飛躍する道筋が見えてくる。

 キュイーン、キュイーン――。7月1日、APCの会場となったライプチヒメッセのホール4。アームの先に空気圧で対象物を吸い付ける機構の音が至る所で響いた。

(日本経済新聞電子版より)

 日経新聞の解説によると「APC」とは、米アマゾン・ドット・コムが自社施設を効率化させる目的で2015年から始めた物流の自動化技術を競うイベント。競技の課題は、各チームのロボットが制限時間内に食品や衣類、玩具などが入った棚から、指定された物を取り出して箱に詰めるという内容だ。ロボットは一度起動したら遠隔操作せず、無人で動かす。つかみにくく壊れやすい品物の移動に成功すると高得点。途中で落としてしまったり、誤った商品を取ったりしたら減点となる。

以前東大出身の研究者が米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)主催の災害救援ロボットコンテストに参加し1位を獲得した。国内では、大学が軍事産業の研究をする事へのアレルギー体質があり、災害救援と言う平和利用にも関わらずDARPA主催と言う事で批判が集まった。結局彼らが起業したロボット研究ベンチャーはグーグルに買収されている。

鉄腕アトム世代の私には、忸怩たる思いがある。

APCは産業用ロボットでありこのような懸念はないのだが、日本勢は2年連続の惨敗だ。

優勝したチーム・デルフト(オランダ)は、チームメンバーの拘束時間は朝7時から夜中の12時まで。毎日徹底して改善点を議論する、と言う体躯会系のノリでロボット開発に取り組んだそうだ。彼らは、ソフトやハードの専門家をそろえたが、周囲がやっていることを各メンバーに理解させた、と言っている。
これらの姿勢は、チームワークを重視し、「すり合わせ」を得意とする日本のやり方ではないだろうか?

結局の所、オランダチームの戦略「まず最初にやったのは競技で求められていることのリストアップ。技術から始めていない」が勝敗を分けたと思う。

日本チームは敗因を「全体を通じて統合的に考えることが足りなかった。個別最適の誤謬(ごびゅう)に陥った」と分析している。

ニュースタイトルにある様に「問題設定力」が不足していたと言う事だ。
「問題設定力」の手前に「顧客要求理解」がある。いくら「問題解決能力」が有ったとしても、顧客要求と違う方向に問題設定したのでは勝てるわけがない。

例えば「完成品倉庫が狭い」と困っている製造工場の問題は、倉庫が狭いことではなく、出荷量より沢山作ると言う問題であるはずだ。出荷量より沢山作る原因を追及すれば、歩留まりが悪いので余分に生産投入する、段取り替えに時間がかかるから、生産効率を考えて余分に生産する、と言う解決課題に至る。

問題設定が「完成品倉庫が狭い」であれば、倉庫を広くする、借りる、収納効率を高めると言う解決策しか出ない。

一方で「出荷量より沢山作る」と問題設定すれば、歩留まりを上げる、段取り替えを短縮し可動率を上げる、と言う本質的解決策が出て来る。

ロボットコンテストの敗因「問題設定能力不足」は、製造業にも教訓を与えてくれるはずだ。

日本チームは、今回の敗因を糧に来年こそ優勝してほしい。
このままでは、日本勢はロボットの構成部品メーカの役割しか出来ない。


このコラムは、2016年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第485号に掲載した記事に加筆しました。

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失敗から学ぶ:「最先端の植物工場 水も肥料も、工場おまかせ」

  • 今日の授業(24日)最先端の植物工場
     クルマの世界で注目される「自動運転技術」。農業の世界でも、誰がやっても高品質の野菜や果物が収穫できる技術の開発が進んでいます。○月△日に収穫したい――。あらかじめコンピューターに入力すれば、栽培管理はお任せの「植物工場」です。
  • 1日の誤差で収穫日指定
     千葉大学園芸学部(千葉県松戸市)の研究圃場(ほじょう)にある植物工場。鉄骨組みで、ガラス張りの建物が20棟近く並ぶ。天井のガラス越しに太陽光が降り注ぎ、トマトが赤く色づく。「工場」といわれるのはコンピューター制御で作業を省力化し、品質の良い作物を安定して収穫できるからだ。

     あちこちにあるセンサーで温度や湿度、日射量などを計測。それに基づいて冷暖房機や送風機が動き、水や肥料の供給、窓の開け閉めが自動で行われる。そうして最適な環境を維持し、光合成を促す。

(以下略)全文

(朝日新聞電子版より)

 前職時代に開発担当していたFAコンピュータは、温室栽培、酒造用のアプリケーションが有った。まさに上記の記事にある様な使い方を1980年代に提案していた。(私はハードウェア担当だったので、アプリケーションに関してはタッチしていなかったが)

「失敗から学ぶ」と言うタイトルなのに、過去の思い出か。とお叱りの声が聞こえてくる(笑)

上記記事の後半に、トマトの収穫後に完熟させる「青穫りトマト」に関する記述がある。完熟するまで圃場を占有しなければ、面積あたりの生産効率を改善出来る。または完熟するまでの時間を制御出来れば、出荷の平準化が可能になる。と言う着想が有ったが、研究に着手する余裕がなかったと言う。

そんな時に、具合よく(笑)卒論の研究が途中で頓挫してしまった学生がいた。彼に「青穫りトマト」の基礎研究として、圃場で完熟したトマトと収穫後完熟トマトの品質の違いを調査してもらった。この研究ならば、短期間で卒論をまとめられる。

研究の結果、ビタミンの一種、アスコルビン酸の含有量は、収穫後完熟トマト・圃場完熟トマトともにほぼ同じで、酸味と甘みのバランスも差がなかった。この研究成果が「青穫りトマト」研究スタートのきっかけとなったと言う。「失敗から学ぶ」と言うよりは、失敗が吉となった。瓢箪からコマ、怪我の功名とでも言う事例だ。

このコーナーの趣旨から言えば「失敗してもあきらめない」事例として考えていただきたい(笑)


このコラムは、2016年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第486号に掲載した記事に加筆しました。

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抜き取り検査の限界

 抜き取り検査と言うと、購入部材の受け入れ検査(IQC)工程内検査(IPQC)出荷検査(FQC)を思い浮かべるだろう。一定の比率や、定期間隔でサンプルを抜き取り検査をする方法だ。AQL検査と呼ばれているのが、生産ロットの大きさに従って決められた数量のサンプルを抜き取り検査をする方法だ。IQC、FQCでAQL検査をする事が多い。

このAQLとはAcceptable Quality Levelの略称だ。「許容出来る品質レベル」と言う意味になる。例えばAQL0.1と言えば、0.1%の不良を許容すると言う意味になる。つまり1000個買ったら1個不良でもかまわない、と言う水準で購入部品の判定をしているわけだ。

本当にこの水準で良いのだろうか?
電子部品100個を実装して製品を作る場合を考えてみよう。
一つ一つの部品の不良を0.1%許容する。つまり99.9%良品の部品を100個組み合わせて製品を作る。この場合の製品の良品率は0.999の100乗=0.905となる。製品の良品率は90.5%、不良率は約10%となってしまう。

このレベルで量産は困難だろう。

20年ほど前は電子部品の出荷不良が20ppm以下ならば、合格点を貰えた。自動車用部品であれば、出荷不良は0ppmが当たり前だと言われる。

ではAQL0.002とかAQL0で抜き取り検査をすれば良いか?
実は20ppmや0ppmを保証する抜き取り検査は不可能だ。全数検査となる。

従ってIQCやFQCの抜き取り検査は「気休め」レベルでしかない。IQC、FQC抜き取り検査の意義は、誤部品の受け入れ・出荷防止だ。(誤部品の「混入」も抜き取り検査で防ぐのは困難だ)

IPQCでも、抜き取り検査で発見出来るのは「偶然発生する不良」ではない。設定の間違いや、加工中の条件変化によって発生する不良しか発見出来ない。

抜き取り検査の意義は、大量に発生する不良の予防であり、偶然発生する不良の予防には無力だと心得て、他の手段で品質保証をする事を考えるべきだ。


このコラムは、2016年7月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第486号に掲載した記事に加筆しました。

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続・5Sの力

 先週のコラム「5Sの力」に読者さまからメッセージをいただいた.

※H様からのメッセージ

 5Sは総論賛成、各論反対・消極・煩わしいで、達成は容易でない。だから、5S推進担当者はご推薦の本が求めたい気持ちに、なる。
 拾っても拾ってもまだまだあるゴミ工場、長年慣れ親しんだ汚くても感じない適応能力を持つ従業員の意識改革をトップは費用をかけず、精神力だけで大幅改善できるなら、こんなに良い話はない。まして、給与を1/3にする気のないトップには。
 <気持ちの変革(給与水準との関連:民度の高さ)、知恵の出方、投資金額、>の実例、実績を知りたいところです。

難しいお題をいただいてしまった(笑)私なりに考えた事を,お伝えしたい.

5Sを定着させるには,やはり経営トップの真剣な思いが必要だ.

枚岡合金工具の古芝兄弟もはじめは疑心暗鬼たったそうだ.
本当に整理・整頓・清掃をやっていれば,業績が回復するのか?そんな気持ちで取り組んでいる時は,反対派がどんどん各論反対を言って来る.しかし他に何をすれば良いか分からない.藁にもすがる思いで,反対派を説得した.

まだ使える機械を捨てようとすると,どっと反対意見が上がって来る.説得により,本当は捨てる事がもったいないのではなく,ろくに使わない機械を買ってしまった事がもったいなかったと,理解してもらえる.その結果,本当に必要な設備しか買わなくなり,設備を使い倒す文化が出来上がって来る.

今指導している工場も同様だ.
完成品倉庫にある不動在庫を整理してもらった.捨てるのがもったいない.当然経営者はそう思う.しかし本当にもったいないのは,売れない物を作ってしまった事だ.整理してみれば,完成品倉庫にスペースができる.その結果先入先出が容易にできる様になった.それまでは,先入先出のために完成品をムダに移動させていた.このムダが無くなれば,業績が上がらないはずはない.

中間在庫も減らしてもらっている.
7日分あったのが,3日分となった.中間在庫を減らすために,今まで加工機ごとにまとめ造りをしていたが,加工機のレイアウトを変え,流れ生産にした.今使わない物を作らない.中間在庫を減らすために,モノ造りの方法も改善できた.
これで生産リードタイムと,キャッシュフローが改善できている.

別の工場では,加工ごとに職場を分けて,まとめ造りをしていた.
これを真っすぐに並べてもらった.15日かかっていたリードタイムが,並べただけで1.5日になった.

まとめ造りを止めると,機種変更の段取り替えが多くなり,効率が悪くなるとさんざん抵抗された.しかしまとめ造りを続けていれば,段取り替えを短縮する改善チャンスは無くなる.

段取り替え時間を短縮するために,工具や金型を整頓する.必要な物が10秒以内に手に取れる様にする.これが整頓だ.
ただモノをきれいに並べておく事が整頓ではない.

清掃がしやすい様に,ゴミが散らからない様にする.ゴミが出る所にゴミ箱をおく.ゴミが飛散しない様にカバーを付ける.
清掃は作業そのものが,各自の感性を磨くモノだ.一種の躾けと考えてよい.しかし掃除に時間をかけても,何ら付加価値を生まない.掃除時間が短くなる様に改善する事が,5S活動だ.

これらの改善にコストはかかっていない.
積み上がった完成品を捨てる事により,ムダな資産を処理し節税になる.工具の移動台車などは,自分たちで作る.ゴミが散らからない様に作ったゴミ箱は,廃棄品置き場にあった段ボール箱だ.

枚岡合金の古芝会長は,先週紹介した著書で「ゴミゼロ工場を達成すればツキが回って来る」と言っている.これは単なるツキではない.工場は最高の営業マンだ.6000人も見学者が来て,5Sがしっかりできているのを見れば,当然仕事の話も入ってくるはずだ.

失礼ながら,枚岡合金の従業員が高給取りとは思えない.
給与の額よりは,仕事の達成感,仲間との信頼関係などの方が,士気を高める.そういう企業文化を創るのが5S活動の最終目的だと考えている.

枚岡合金・古芝会長の著書↓
「儲けとツキを呼ぶ『ゴミゼロ化』工場の秘密」


このコラムは、2012年6月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第253号に掲載した記事に加筆、修正しました。

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師に譲らず

yuē:“dāngrénràngshī。”

《论语》卫灵公第十五-36

素読文:
わく:“仁にたりては、にもゆずらず。”

解釈:
子曰く:“仁の道を成すためには、師にも譲る必要はない。”

人として仁を極めようとするならば、師も弟子も関係ない。上司も部下も関係ない。ということですね。

5Sの力

 5SでPQCDSEMが改善できる.PQCDSEMとは,生産性(Productivity),品質(Quality),コスト(Cost),納期(Delivery),安全(Safety),環境(Environment),モチベーション(Motivation)の頭文字だ.

5Sを部下の仕事と考えている経営者,お客様が工場訪問に来た時に見栄えを良くするために5Sをやらなければと考えている経営者には,この境地には到達できない.

以前このメルマガでご紹介した枚岡合金工具はバブル崩壊で売り上げが減り,赤字転落.古芝保治会長(当時は社長)は経費の節減に取り組んだが効果がなく,自らの給料を1/3に減らたが,改善の兆しも無かった.

藁をも掴む気持ちで参加した勉強会で,5Sを知る.
そして自社に整理,整頓,清掃の3Sを導入.従業員の不信感を,率先垂範で説得し続けた.

その結果,松下電器の社員が工場見学に来る,NHKが取材に来るなどをきっかけにして,黒字化を達成している.

またこの話をメルマガに書いているのは,Youtubeで枚岡合金工具の動画を見つけたからだ.
毎月2回開催している工場見学会は,6000人の見学者に達したそうだ.
赤字に喘ぐ町工場をどうやって建て直したのか,古芝保治会長,古芝義巳社長の言葉を聞く事ができた.

古芝兄弟は,整理,整頓,清掃の3Sしか言っていないが,「従業員の感性を磨く」のが3Sと言っている.これが躾けに他ならない.

本物の5SはPQCDSEMを改善し,倒産寸前の会社をも蘇らせる力を持っている.

Youtubeで枚岡合金工具を検索を検索すると動画が見つかる.是非ご覧いただきたい.
古芝保治会長の書籍も併せて読む事をお勧めする.
「儲けとツキを呼ぶ『ゴミゼロ化』工場の秘密」


このコラムは、2012年6月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第262号に掲載した記事に加筆しました。

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5S理想工場

 5S理想工場計画をこのメルマガに書いたら,予想外の波及効果が生まれ始めている.大変有り難いことだ.

ウチの工場をちょっと見てくれ.取引先の工場を何軒か一緒に回ってほしい.
5Sに関する特集記事を作りたい.
などなどいろいろなお問い合わせやオファーをいただいている.

先週は,5S理想工場プロジェクトを応援しています,という読者様から枚岡合金工具株式会社の情報をご提供をいただいた.

枚岡合金工具株式会社

清掃,整理,整頓の3Sに取り組み,経営危機に直面していた中小企業が飛躍的に業績を伸ばした,という実例が紹介されていた.ホームページには工場やオフィスの写真が紹介されているが,5Sの教科書に取り上げたくなるような写真がいくつもある.また経営者・古芝保治社長の5Sに取り組む姿勢がすばらしい.

まさに私がやりたいことを実現されている.
枚岡合金工具は工場見学を月に2回受け入れておられる.日本全国のみならず,海外からも工場見学者が訪れるそうだ.

枚岡合金工具のホームページを見て,古芝社長とは面識は無いが,著書を読んだことを思い出した.
ご一読をお勧めする.
「儲けとツキを呼ぶ『ゴミゼロ化』工場の秘密」

奥的斯電梯の事故

 地元のタブロイド紙によると,奥的斯(オーチス)製のエレベータ事故が東莞市内で続いて発生している.

 以前このメルマガで,日本国内のエレベータ事故に関するコラムを何度か書いたことがある.

「東大でシンドラー製エレベーター事故 学生1人けが」
「エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが」
「同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡」
「シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす」

また,私自身が中国でアパートのエレベータに閉じ込められた話も書いた.

日本でも中国でも,エレベータ事故は発生している.しかし私自身の経験では中国の方が圧倒的に頻度が高い.
日本では,週5日は毎日最低2回エレベータで上り下りを24年間していた.しかしエレベータに閉じ込められたことは一度もない.中国で生活するようになり6年しか経っていないが,既に4回エレベータに閉じ込められている.
計算をするまでもなく,日本と中国の事故発生確率には有意差がある.

最後にエレベータに閉じ込められた時は,牽引ワイヤが切れ,安全停止装置により停まったそうだ.10階から7階まで落下した.乗り合せた私を含む3名には怪我はなかった.

この事故から程なく9月9日に,近所のオフィスビルのエレベータが19階から地下1階まで落下した.この事故も牽引ワイヤが切れたものと思われるが,この時は13人1000kgの定員を遥かにオーバする21人が乗っており,安全停止装置は役に立たなかったようだ.20人が怪我をしている.

このオフィスビルのエレベータは,私のアパートと同じくオーチス製だ.

更に新聞の報道によると,
9月19日:オフィスビルのエレベータが6階から4階まで落下.
10月14日:マンションのエレベータが3階から地下1階まで落下.

これら全てオーチス製のエレベータだそうだ.

オーチスのエレベータが東莞だけで,2ヶ月弱の間に4回事故が起きている.アパートのエレベータ事故は報道されていないので,まだ他にも同様な事故が有った可能性はある.

オーチスといえば,日本で最初のエレベータを日本銀行本店に入れた老舗メーカだ.

中国では,西子電梯と合弁で西子奥的斯が生産をしている.東莞でメンテナンスをしているのは大力士電梯という会社だ.この会社もエレベータを設計・生産している.

さすがのオーチスも,広い中国ではメンテナンス網を構築する力がなかったのだろか.緊急時には迅速に現場に駆けつけ,乗客の救出を行わなければならない.私の場合は45分ほど待たされた.万が一けが人がいれば,手遅れになる可能性もある.

しかし通常の点検・メンテナンス,修理は緊急性よりは,確実性が要求される.万が一の場合には人命に影響を与える設備だ.エレベータは一度設置されると,ビルがある限り,定期的にメンテナンスの仕事が来る.しかもユーザには選択の余地はない.エレベータのメンテナンス会社はさしたる営業努力をしなくても,先々の売り上げが見込める.メンテナンスがいい加減ならば,更に故障修理の売り上げが増える.

事故があっても,オーチスの新規売り上げが減るだけだ.メンテナンス会社は,当分売り上げ計画通りの収入がある.

先週のコラムでは,建設機械のコマツは,保守サービスが競争源泉だと書いた.

「アフターサービスを競争原理に」

エレベータ会社も,同様だろう.
メンテナンスは,自社もしくは直系子会社でやるべきだと考える.競争源泉の現場は,外注にしたり,変動経費の要員化をすべきではない.
短期経営数字を追求することにより,現場力を失ってしまった企業を,我々はたくさん見てきた.


このコラムは、2011年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第220号に掲載した記事に加筆しました。

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見えないものに対する感度

 先週の「アフターサービスを競争原理に」に対し,読者様からメッセージをいただいた.

※T様のメッセージ
 Z様のおっしゃる、「物のコピーは簡単、サービスのコピーは簡単にできない」、全く同感です。見える物に対して、中国人は敏感ですが、見えない物に対しては、概して非常に鈍感であると思います。

コマツの,保守サービスの事例に対していただいたZ様のメッセージに更にメッセージをいただいた.

モノのコピーは大変得意な中国だが,サービスに関しては上手く真似ができない.
保守サービスに関しては,ニュースからに書いたように,サービス以前の問題かもしれない.

レストランなどのサービス産業でも,これでよく客が我慢するなぁと感心する.料理や,店構え,内装には敏感でも,ウェイトレスのサービスには鈍感だ.

サービスだけの問題ではない.
海賊版のDVDやCDを販売している店では,最新映画のDVDが15元,古いCDアルバムが25元ということがざらにある.
なぜならCDは2枚組みだからだ.
コンピュータソフトなどは,たいていはCD一枚なので,8元だ.

目に見えるハードで値段が決まる.
目に見えないソフトには価値が置かれていない.

中国という国は,経済成長に伴い,インフラなどのハードウェアは急速に充実してきた.しかし,国民のソフトウェアはまだ発展途上だ.

元々儲かることに敏感な,人たちだ.ひとたびソフトウェアが儲かると分かれば,急速にキャッチアップしてくると期待しているのだが.


このコラムは、2011年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第228号に掲載した記事に加筆しました。

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アフターサービスを競争原理に

 先週のメルマガ「知行一致」に,読者様からメッセージをいただいた.

※Z様のメッセージ
 坂根社長のお話、確かにNC旋盤の操作では、機械加工の原理は理解できません。僕自身も汎用旋盤で学びました。
汎用旋盤ならどうにか使えこなせますが、NC旋盤はお手上げです。(笑) 

 また、「コマツの競争力の源泉は、アフターサービス力にある。」この言葉に、日本企業の将来のヒントがあると思います。モノは簡単にコピーできますが、サービスのコピーは簡単にはできません。

基礎から理解しなければ,応用はできない.
NCマシンの操作ができても,それは職人ではなくプログラムオペレータに過ぎない.中国の工場を見ていると,最新設備を操作できる者が「上」とみなされているようだ.

3D-CADが使えても,金型が設計できるわけではない.基本ができていなければ,ただのお絵かきだ.
NCマシンも3D-CADも,素材を加工するという最終目的の手段だ.手段が目的化しては本末転倒だ.

建設機械を購入されるお客様の目的は,工期どおり建設物を依頼主に引き渡すことだ.最新の機械を買うことが目的ではない.それを効率よく運用することがお客様の期待だ.

お客様の期待に応えられる様に,サービス体制を整える.修理・整備を迅速にすることにより,機械のダウンタイムを短くする.建設機械というものは往々にして,交通の不便な所で使うものだ.建設機械がどこで稼動しているか正確に把握してすることにより,サービス時間を短縮することができる.

そのためコマツの製品にはGPSが装備されており,コマツのサービスセンターは販売した製品がどこで稼動しているか正確に把握している.この情報が,保養部品をどこのサービスステーションにどれだけ準備すれば良いかの基準となる.ムダやムラを排除した効率の良いサービス計画を立てることが出来る.

このデータは,営業活動にも活用できる.

業種,業態が異なっても,アフターサービスによるお客様の利便性や安心を付加価値とすることが出来れば,価格競争に巻き込まれないビジネスができる.常に「顧客目線」で,顧客の期待を上回る価値を提供し続ければ,価格勝負の企業と十分競争ができるはずである.


このコラムは、2011年10月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第227号に掲載した記事に加筆しました。

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