書籍」カテゴリーアーカイブ

クオリティマインドのお勧め書籍

ココロの授業

 久々に日本に戻ってきている。
中国工場で生産をされている会社に連日出かけ打ち合わせをしている。
移動の時間は読書時間だ。2日間で3冊の本を読んだ。

その中の1冊
「私が一番受けたいココロの授業」を紹介したい。
上田情報ビジネス専門学校で教鞭をとる比田井和孝、比田井美恵夫妻による新刊だ。

比田井氏は上田情報ビジネス専門学校で就職指導の授業を持っておられる。
この授業は学生に就職合格させるための授業ではない。学生たちが仕事を通じ成長し幸せな人生が送れる様にするためにどういうココロのあり方を持たねばならないかを教えているのだ。

職業人としてのココロのあり方をきちんと教えることにより仕事へのモチベーションを高める事が出来る。これは日本も中国も同じである。

授業の内容を再現する体裁になっているが、教え子との交流など思わず落涙するくらい感動をした。
この本を読む方は電車の中で読まないことをお勧めする。


このコラムは、2008年9月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第52号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

整理・整頓

 最近5Sに関する研修の引き合いを受けることが多くなって来た。
世の中の5Sに対する認識が変わって来たというわけではないが、中国で発行している日本語雑誌「EMIDAS」「華南マンスリー」で5Sに関するコラムを書き始めたためだと思う。

整理・整頓のことを「2S」ということが良くある。
普通に言えば「片付け」だ。

最近「人生がときめく方付けの魔法」という本を読んだ。

腰帯でにっこり笑っている著者の近藤真理恵さんは、子供の頃から、主婦向け雑誌の「片付け特集」が大好きだったそうだ。今は「片付けコンサル」というちょっと変わった肩書きで仕事をされている。

主婦向けの雑誌と言えど馬鹿には出来ない。5Sを指導する者にとって、参考になることもある。そんな訳でこの本を手にとって見たが、普通の片付け本とは一線を画す内容となっている。

「大切なのは過去の思い出ではありません。その過去の経験を経て存在している今の私たち自身が一番大切だということを、ひとつの物と向き合うことを通じて、片付けは私たちに教えてくれます」

「空間は過去の自分ではなく、未来の自分のために使うべきだと、私は信じています」

という哲学的考察の上で、整理の意義をといています。

また整頓の方法論も、以下のように示唆します。

「散らかるのは「元に戻せない」から。使う時の手間よりしまう時の手間を省くことを考える」

「散らかった状態が、人の心を蝕む理由は、あるのかないのか分からないのに探さなくてはならず、しかも探しても探しても出てこないことにあるのです」

ただ片付けの方法論を語るのではなく、哲学的な考察を持って片付けの真髄に迫っている。

5S実践のバイブルと言ってしまうとちょっと大げさだが、整理・整頓の意義を見失っている人に5S指導をする際に参考になる内容だ。

無論個人生活の片付けに関しては、間違いなくバイブルと言って良い内容だ。著者が提唱するのは、片付けの結果得られる「好きなものだけに囲まれて生活する幸せ」だ。

この幸せな状態とは、工場やオフィスではどう言う状態なのか、その答えを見つけるのが今の私の課題だ。

「人生がときめく方付けの魔法」
書店で探す時は、生活実用書に分類されているので、いつもと違う書棚を探していただきた(笑)


このコラムは、2011年6月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第208号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

改善の楽しさ

 以前「QCC道場」に参加いただいた経営者様はメンバーに「改善の楽しさ」を体験して欲しいとおっしゃっていた。

西洋哲学では、「我思う、故に我あり」とデカルトが言うように、まずは知識とか理論を重要視する。一方東洋の禅は「只管打坐」と言いまず坐禅の体験を重視する。体験から得られたものが真の教義であり、経典だけでは真の奥義は伝えられない(不立文字)という考え方をする。

先の経営者様と同様に私も東洋哲学派に属する(笑)

頭で理解しても何となく腑に落ちない。体験してみて初めて腑に落ちる。
頭で理解したことは知識として残っても能力にはならないだろう。体験を通して知識が能力に変換されるように思う。

体験の「楽しさ」はどこから生まれるのだろうか。
ずばり「自発性」だと思うがいかがだろう。子供が遊びやゲームに熱中するのは「自発性」があるからだ。教師や親に指示された遊びやゲームにそれ程は熱中しないだろう。そして「達成感」があれば更に熱中度は上がるはずだ。

自発的に取り組む改善は楽しさがあり、その成果が達成感をもたらし更に熱中するはずだ。「楽しさ」を燃料とした止まることがない永久機関となる。


このコラムは、2019年1月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第777号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

宇宙産業

 日経新聞の記事で、アストロスケールの岡田光信氏を知った。彼は、地球の周りに周回している宇宙ゴミ(デブリ)を除去する為の衛星を打ち上げようとしている。

日経新聞記事『NASAも注目、「門外漢」が挑む宇宙の大掃除』

用途済みとなった衛星やその破片をデブリと言う。ソフトボール以上の大きさのデブリは2万個強有ると言われている。それらが秒速8kmで地球の周回軌道を飛び回っている。現役の静止衛星に激突すれば、太陽電池パネルを損傷する位の被害は簡単に与えてしまう。誰も言わないが実は深刻な問題なのだ。

デブリを放置すれば、世界の通信インフラは早晩壊滅する。
衛星TVが見れなくなるくらいならば、我慢出来るだろうが、GPSが機能しなくなる、気象衛星が機能しなくなる、など当たり前になっている社会インフラがなくなるのだ。

地球を周回しているデブリの9割は、ロシア、米国、中国の物だそうだ。寿命の来た衛星を放棄するたびにデブリは増える。そして新たに上げた衛星にデブリが激突する確率は指数関数的に増加する。当然米露中の三国が責任を持って宇宙空間の清掃をすべきだ。しかし今の所宇宙空間を清掃する効果的な方法が開発されていない。

この課題を解決する為に、宇宙産業と全く関係がなかった岡田氏が乗り出した。デブリに抱きついて、大気圏に落ち燃え尽きる、と言う無理心中方式でデブリを片付けて行こうと言う作戦だ。デブリに抱きつく子機を衛星に仕込んで、ゴミだらけの宇宙空間に衛星を打ち上げる為に、日本の中小企業の力を結集しようとしている。

一回衛星を打ち上げれば10億円程の費用がかかる。これらの費用を回収して利益を出す収益モデルは新聞記事からは読み取れなかった。この様な事業をボランティアでやる訳には行かない。ゴミ大国米露中からきちんと費用を回収出来るビジネスモデルが構築出来ることを切に願う。

きちんと収益を上げられる様になったら、責任の所在が不明確な破片デブリを回収する為に、折りたたみ式の粘着版を展開し、小型デブリを一網打尽で処理する「デブリホイホイ」の開発もしてもらいたい。

岡田氏のすごい所は、門外漢でありながらその業界の課題を見つけ、その課題を解決する情熱を持っていることだ。
例えば原子力業界の人達は、使用済み核燃料の処理を諦め、未来に先送りしている(まだ注目されていないが、研究が進んでいると、個人的には信じたいが)そういう業界に向って、いきなり使用済み核燃料処理に取り組む様なモノだ。豆腐業界のオカラ処理とは桁違いの難易度だ。

門外漢の岡田氏には技術力は無い。しかし彼の志しに意義を感じる仲間は、手弁当で集まって来るだろう。このブロジェクトが、ビジネス的にも地球環境整備的にも成功することを切に願っている。


このコラムは、2015年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第427号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

太陽の役割、月の役割

「太陽と月はどちらが偉いか」
「太陽は明るい昼間しか照らさないが、月は真っ暗な夜を照らしてくれる」

なるほどと感心する。明るい昼間を照らしても無駄だ。ならば暗い夜を照らしている月の方が価値がある。

下村湖人の書籍に出てきた言葉だ。
「青年の思索のために」下村湖人著

しかし御巣鷹山日航機墜落事故を題材にした推理小説「クライマーズ・ハイ」にはこうある。
「月は太陽がなければ輝かない。月を輝かせるのが太陽の役割」

「クライマーズ・ハイ」横山秀夫著

太陽が明るい昼間を照らしているのが無駄である、という論は、太陽が明るい昼間を作っているのを忘れている。しかも暗い夜を照らしている月は太陽に照らされて輝いている。

目に見える活躍だけに着目し、本来の役割を見失うと同じような過ちが発生する。

昼行灯のような職員が休暇でいなくなると、急に職場が暗くなる。
老害と思っていた年寄りが定年退職すると、仕事が回らなくなった。
何の役に立っているかわからない部品をコストダウンで外したら不良が増えた。
訳の分からないコードを削除したら、プログラムが動かなくなった。

あなたの周囲にも太陽と月問題が潜んでいないだろうか(笑)


このコラムは、2019年7月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第851号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

濡れ雑巾でコンピュータを拭き掃除

 今週のテーマ「出来るを叱らない」に登場した濡れ雑巾でコンピュータを掃除する女子作業員は,本当に実在した.

このくらいで驚いてはいけない.

現場をきちんと観察し,想像力を高めれば,当然予測できる内容だ.
例えば,作業員たちが終業後の掃除をどうやっているか観察していれば,分かるはずだ.

びしょ濡れのモップで床掃除をすれば,梱包箱が濡れる.ダンボールは一度濡れると,その強度が落ちてしまい,乾燥しても復活しない.また中の部材,製品にダメージを与える可能性もある.
材料,半完成品や完成品が入った箱を床に直置きしてはならないと,何度も指導するのはそのためだ.

SARSが流行っていた時も,宿舎や工場の消毒をしたと報告を受けて,すぐにヤバイと感じた.塩素系の消毒液が,電子部品にかかれば信頼性上の深刻なダメージを受ける.

この様な感性を,現場リーダは持つ必要がある.

事故の影に「ヒヤリ・ハット」がある様に,物事にはすべて,正常・異常・事故の三つの状態がある.
正常な状態からいきなり事故は発生しない.必ずなんらかの異常があり,それが直接原因,間接誘因となり事故は発生する.

リーダは,正常と異常の中間にある「正常ではない状態」を感知する感性を持たせなけらばならない.

つまり掃除をするのも,消毒液を散布するのも「正常ではない状態」だ.
正常ではない状態が,安全,品質,生産性に与える影響を予測できるようにする.これは机上の一般論だけでは教えきれない.
OJTで教え,それを水平展開する力を持たせなければならない.


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第165号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

善きことはカタツムリの速さで進む

 「善きことはカタツムリの速さで進む」ガンジーの言葉だそうだ。

非暴力、非服従で大英帝国から独立を勝ち取ったインド独立の父・ガンジーらしい言葉だ。何度投獄されても,非暴力を貫いた。暴力を持って戦うより,非暴力で戦う方が何倍も勇気がいる。

この言葉を鬼丸昌也氏から学んだ。

「僕が学んだゼロから始める世界の変え方」鬼丸昌也著


鬼丸氏は、学生時代にNPO法人テラ・ルネサンスを立ち上げ,カンボジアの地雷撤去活動,ウガンダで少年兵士の社会復帰支援活動などをして来られた。
彼は「全ての人に未来を造り出す能力が有る」ことを信念としている。
人は微力だが,無力ではない。と言うことだ。

まだ35歳と言う若さだが,素晴らしい考え方と行動力を持った人だ。

原因さえ変えれば,どんなに時間がかかろうとも,必ず結果が変わる。もしも自分自身の中に全ての問題の原因が有ると考えることができれば,自分自身を変える事で、世の中を変えることができる。自分が変革の主体となる事が出来るのだ。世の中を変えるための第一歩は,問題を認識する事だろう。

先日工場の経営者と話をしていて,現場のリーダに当事者意識が薄くて困る,と言う話題になった。
品質保証部は,検査をする事が仕事ではない。お客様に品質を保証するために仕事の一部として検査をしている。品質保証の重要な仕事に,品質改善も有る。
製造部のリーダは,作業員に計画通り生産をさせる事が仕事ではない。作業員が仕事をし易い様に改善することで,品質や生産量を上げる事が仕事だ。

全ての問題の原因は,自分の中に有り,その問題を解決する主体は自分自身だ、と言う事実に気が付けば,毎日の仕事は楽しくなるはずだ。

ただし、善きことはカタツムリの速さでしか進まない,変化の速度が遅いと成果が見えずに心が折れる。自分自身の成長を俯瞰視出来る様な工夫をする。上司は,部下が自己成長に気が付き,より成長を加速する様に手助けをする。

「忍耐」に期待するよりは、この様な工夫や努力が効果を高める。


このコラムは、2014年7月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第369号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

木鶏

© freepik


 安岡正篤「禅と陽明学」を読んでいる。


この本の中に「木鶏」が出てくる。ちょっとご紹介したい。

木鶏の原典は《列子・黄帝篇》だ。
『紀渻子為周宣王養斗鶏,十日而問:「鶏可斗已乎?」曰:「未也;方虚驕而恃気。」十日又問。曰:「未也;猶応影向。」十日又問。曰:「未也;猶疾視而盛気。」十日又問。曰:「幾矣。鶏雖有鳴者,已無変矣。望之似木鶏矣。其徳全矣。異鶏無敢応者,反走耳。」』

闘鶏師・紀渻子が周宣王のために闘鶏を育てる。周宣王は紀渻子にその成長を尋ねる。
紀渻子は以下のように答えている。
十日目:虚驕(きょきょう)にして而して気恃(たの)む。
二十日目:なお影響に応ず。
三十日目:なお疾視(しつし)して而して気を盛んにす。
四十日目:幾(ちか)し。鶏、鳴くもありと雖(いえど)も、已に変ずることなし。之を望むに木鶏に似たり。其の徳全し。異鶏敢(あえ)て応ずるもの無く、反って走らん。

10日目はまだ虚勢を張り、己の気を恃むところがある。
20日目はまだ相手の気勢に応じてしまう。
30日目はまだ相手を睨みつけて気勢を発してしまう。
40日目は相手が威嚇しても応ぜず。木彫の鶏のごとくしている。相手は戦わず逃げ出すだろう。

訓練によりただ所作(技術)を身につけても、強い闘鶏にはならない。徳を全うし初めて最強の闘鶏が完成する。

当然技術を養わなければ、戦えない。戦闘技術を磨いた上で、敵に動揺しないココロを養う。

気迫だけに頼るようでは、相手の戦闘能力が高ければ負ける。
戦闘能力をつけても、相手の気迫に応じて動くようではまだ足りぬ。
相手を威嚇できるレベルになっても、相手の気迫がより強ければ負ける。
威嚇にも平然としていれば、相手が恐れてかかってこない。
ということだ。

本当に力のある者は「泰然自若」としていられる。

安岡師の書籍には「木猫」も出てくる。
木猫がいるだけで、ネズミが逃げてゆく。最強の猫だ(笑)

安岡師はこの話を『知者不言、言者不知』(知る者は言わず、言う者は知らず)という老子の言葉で締めくくっている。

部下の指導

 電子デバイスで読書をする事が増えて来た。すぐに読みたい書籍は電子書籍ならばすぐに手に入る。そうやって購入した書籍が、iPhoneの中に積んドク状態となっている(笑)
電子書籍は隙間時間に読むのに好都合だ。移動中や外出中の待ち時間をつぶすのにもってこいだ。iPhoneの中の電子書籍を数えてみたら67冊あった。これを紙の本で持ち運ぶ事を考えたらぞっとする(笑)

今回はiPhoneの奥底にたまっていた書籍を紹介したい。

「ひとことの力 松下幸之助の言葉」江口克彦著

江口氏はPHP総合研究所社長を務め、23年間松下幸之助の側近として直接経営の神様から指導を受けた人だ。本書を読むと、早朝から深夜まで、公私の分け目無く指導を受け、語り合った姿が目に浮かぶ。最高の師弟関係だと、羨ましく思う。

この書籍の中から一つのエピソードを紹介したい。

ハーマン・カーンと言う米国の学者が昭和43年に来日し、松下幸之助と会う予定になっていた。松下さんは「ハーマン・カーンと言う人はどういう人か知ってるか?」と江口さんに聞かれたそうだ。当然江口さんは,カーン氏との面談予定を知っているので、新聞などでカーン氏の事は調べておいた。それを松下さんにお伝えする事ができた。
しかし翌日もその翌日も、松下さんは同じ質問を3回されたそうだ。

3回とも同じ答えをした江口さんは、はたと考えた。当然松下さんは新聞記事に出ている内容は知っていたはずだ。もっと深い内容を知りたかったに違いないと気がつく。すぐにカーン氏の書籍を買い求め、徹夜で読み上げ要旨をまとめ、その内容をカセットテープに吹き込んだそうだ。

その日も松下さんは,同じ質問をされた。朝までかかって読んだカーン氏の著作の要旨を伝え、テープを渡した。

翌日出社して来た松下さんは江口さんに「君、ええ声しとるなぁ」とひとことおっしゃったそうだ。

普通の上司ならば、二度目に同じ質問をして同じ答えが帰って来た時に、部下を叱っているだろう。一回目の質問に対して、新聞に書いてある程度の答えしか返ってこなくても、よく勉強しているなぁと褒めてやれる。しかしその時、自分の答えに不足はなかったかと勉強するのが、成長意欲の高い人間だ。

私ならば、一度目の質問に対する答えに、よく勉強しているなぁと褒め、こういう点とこういう点をもっと詳しく知りたい、調べておいてくれ、と指示してしまうだろう。

それを黙って3回同じ質問を繰り返し、忍耐強く4回目の同じ質問をする。具体的に指示をする事が必要な時もある。しかし部下が自ら気付きを得て仕事をすれば、成長度合いは大きいはずだ。
ただ仕事をさせるだけではない。それをどう部下の成長に役立てるか、そんな事を常に考えているから、何度も同じ質問をして部下の気付きを促進させる事が出来たのだろう。

そして「君、ええ声しとるなぁ」のひとことに凝縮した部下への賞賛と感謝は、江口さんの言葉によると、身震いするほど感動し、この人のためならば死ねる、と思ったそうだ。

こういう部下が一人でもいれば、私の人生は無駄ではなかったと言い切る事ができよう。

index_s「ひとことの力 松下幸之助の言葉」著者:江口克彦 出版社:東洋経済新報社


このコラムは、2015年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第447号に掲載した記事です。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

トイレ掃除の効能

 相前後して2人の友人から「そうじ資本主義」と言う本を紹介された。

そうじ資本主義
書籍名:そうじ資本主義
著者:大森信
出版社:日経BP

紹介してくれた友人の一人は、本人も中国工場でトイレ掃除をしている。初めは従業員から『精神病』と言われたそうだ。しかし継続しているうちに、中国人幹部が手伝う様になり、全従業員で掃除をする様になった。
その結果、生産性は4倍となった。最近は、掃除を見せて欲しいと、他の工場から見学に来る人までいる。

トイレ掃除と言えば、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏が有名だ。
鍵山氏は創業時から社長自らトイレ掃除をしている。最初の10年間はだれも手伝わなかったそうだ。社長がトイレ掃除をしている横で、用を足して行く職員すらいたと言う。それが今では「鍵山トイレ掃除道」は社内のみならず、公衆便所を清掃する会ができ、国内から全世界に広まっている。

鍵山氏は、哲学者・ショーペンハウエルを引用し、物事が成功するまでには3段階あると言っておられる。
第1段階は「嘲笑される」
第2段階は「反対される」
第3段階は「同調する」

初めは従業員から『精神病』とバカにされる。それでも継続しようとすれば反対する。やらない理由を探す方がずっと楽だ。たいていの人はこの辺りで挫けてしまう。それでも継続すると周りから、同調する者が出て来ると言う。

大森氏の「掃除資本主義」では、欧米企業の経営観は「目的志向」と説明している。利益を上げることが企業の目的であり、目的に合致しない作業を減らし、目的に合致する作業を増やすと言う合理主義が貫かれる。従って掃除は外部に委託することになる。
一方日本的経営観は「手段志向」と位置づけている。掃除や5Sを大切にする。
掃除は直接目的に貢献はしないが、大切な事だから一生懸命にやる、と言う姿勢だ。

目的志向の合理的経営は、利益を上げるためにはリストラも辞さない。むしろリストラをすれば、株主から評価され株価が上昇したりする。しかしこの合理主義が万能であるかと言うと、そうでもない。前出の友人の工場は、総経理自らトイレ掃除をすることにより、生産性を4倍にし結果的に利益に貢献している。多くの日本的経営の企業も同様の成果を上げている。この成果は、合理主義では説明がつかない。

では、なぜ手段志向型経営で成果を出すことができるのか?
経営者、経営幹部から末端の作業員までが、掃除と言う一つの作業を毎日共有する。手段を共有することにより、目的を共有する土壌も出来上がっているのではないだろうか。

目的志向型経営が合理的に見えても、全従業員が目的を共有しなければ無意味だ。手段志向型経営で、全従業員が手段を共有していれば、自然と目的の共有が出来るのではないだろうか。

当然企業には、社会的な存在目的や経営理念は必要である。これは「目的志向」だ。しかしそれを支えているのは「手段志向」による経営者と全従業員の連帯と考えれば、日本的経営の素晴らしい側面が見えて来ると思える。

index_s「そうじ資本主義 日本企業の倫理とトイレ掃除の精神」


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】