月別アーカイブ: 2015年10月

手段と目的

 コラム「トイレそうじの効能」「そうじ資本主義」という書籍を紹介した。

この書籍の中で著者の大森氏は、日本の経営者は「手段志向型」欧米の経営者は「目的志向型」だと指摘をされている。

手段志向型の組織は、同じ手段(例えばそうじ)を共有することにより、全員の一体感を高め、組織に対する貢献意欲の高い組織になる可能性がある、と私は考えている。

しかしマイナスの側面もある。
例えば、製品開発時にシーズ優先で商品企画を進めてしまう。
製品実現技術という手段ありきで商品企画をすることにより、技術者の独りよがりになってしまう。その結果、機能も品質も一流なのに売れない。
日本の企業が業績不振に陥っている原因が、ここいらにありそうな気がする。

例えば日本の家電製品は、こんな技術もあんな技術も盛り込んで、すばらしい機能と品質を実現している。しかし開発途上国の人々にとっては、米を炊く、衣服を洗濯する、という目的に対して高機能は必要ない。

中国人の日本製炊飯器の爆買いが話題になっているが、残念ながらそれは「マスマーケット」ではない。米食市場におけるシェアは、韓国、中国の企業にとられているのではないだろうか?
(中国では美的が50%、アジア全体では中国企業が80%というデータがあった)

日本人にとって「おいしく米を炊く」は目的になりうるが、中国や東南アジアの国々の人にとっては「手軽に米を炊く」が目的になっているのだろう。
私が中国で使っている炊飯器は10分もあれば炊きあがる(笑)

手軽に米を炊くことを目的にしている人々にとっては、米を炊くのに30分以上かけ、しかも二桁値段が高い炊飯器は必要ない。

目的と手段の混同は製品開発ばかりではない。生産現場の改善活動にも、目的と手段の混同が見られる。

多くの中国人経営者が「日本的生産システム」を教えてほしいという。
彼らが言う日本的生産システムとは、コンピュータシステムのことではない。
具体的に何がしたいのかを問うと『精益生産系統』(トヨタ生産システム)を導入したいのだと言う。

本来何らかの「目的」があって「手段」としてトヨタ生産システムを導入する、というのならば理解できるが、いきなりトヨタ生産システムだ。

目的を達成するために、解決課題を設定し、そのために必要な手段を選択する。
これが正しいプロセスだと思う。

以前指導した台資企業は、『精益生産系統』を教えてほしいと言われ工場を訪問した。工場内を案内してもらいながら、具体的に何に困っているか質問した。倉庫が狭くて困っている、という。社内では足りずに社外に倉庫を借りており、その支払いが5万元/月だという。

この企業の改善目的を精益生産系統導入ではなく、倉庫経費の削減と定義すれば、より具体的かつ実現可能な手段がいくらも出てくるはずだ。


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トイレ掃除の効能

 相前後して2人の友人から「そうじ資本主義」と言う本を紹介された。

そうじ資本主義
書籍名:そうじ資本主義
著者:大森信
出版社:日経BP

紹介してくれた友人の一人は、本人も中国工場でトイレ掃除をしている。初めは従業員から『精神病』と言われたそうだ。しかし継続しているうちに、中国人幹部が手伝う様になり、全従業員で掃除をする様になった。
その結果、生産性は4倍となった。最近は、掃除を見せて欲しいと、他の工場から見学に来る人までいる。

トイレ掃除と言えば、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏が有名だ。
鍵山氏は創業時から社長自らトイレ掃除をしている。最初の10年間はだれも手伝わなかったそうだ。社長がトイレ掃除をしている横で、用を足して行く職員すらいたと言う。それが今では「鍵山トイレ掃除道」は社内のみならず、公衆便所を清掃する会ができ、国内から全世界に広まっている。

鍵山氏は、哲学者・ショーペンハウエルを引用し、物事が成功するまでには3段階あると言っておられる。
第1段階は「嘲笑される」
第2段階は「反対される」
第3段階は「同調する」

初めは従業員から『精神病』とバカにされる。それでも継続しようとすれば反対する。やらない理由を探す方がずっと楽だ。たいていの人はこの辺りで挫けてしまう。それでも継続すると周りから、同調する者が出て来ると言う。

大森氏の「掃除資本主義」では、欧米企業の経営観は「目的志向」と説明している。利益を上げることが企業の目的であり、目的に合致しない作業を減らし、目的に合致する作業を増やすと言う合理主義が貫かれる。従って掃除は外部に委託することになる。
一方日本的経営観は「手段志向」と位置づけている。掃除や5Sを大切にする。
掃除は直接目的に貢献はしないが、大切な事だから一生懸命にやる、と言う姿勢だ。

目的志向の合理的経営は、利益を上げるためにはリストラも辞さない。むしろリストラをすれば、株主から評価され株価が上昇したりする。しかしこの合理主義が万能であるかと言うと、そうでもない。前出の友人の工場は、総経理自らトイレ掃除をすることにより、生産性を4倍にし結果的に利益に貢献している。多くの日本的経営の企業も同様の成果を上げている。この成果は、合理主義では説明がつかない。

では、なぜ手段志向型経営で成果を出すことができるのか?
経営者、経営幹部から末端の作業員までが、掃除と言う一つの作業を毎日共有する。手段を共有することにより、目的を共有する土壌も出来上がっているのではないだろうか。

目的志向型経営が合理的に見えても、全従業員が目的を共有しなければ無意味だ。手段志向型経営で、全従業員が手段を共有していれば、自然と目的の共有が出来るのではないだろうか。

当然企業には、社会的な存在目的や経営理念は必要である。これは「目的志向」だ。しかしそれを支えているのは「手段志向」による経営者と全従業員の連帯と考えれば、日本的経営の素晴らしい側面が見えて来ると思える。

index_s「そうじ資本主義 日本企業の倫理とトイレ掃除の精神」


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