儲かる工場」カテゴリーアーカイブ

華南マンスリーコラム連載を終えて

一年間続いた華南マンスリーのコラム【儲かる工場の作り方】が2010年5月号で終了した.
毎回四文字熟語をネタに,儲かる工場に関するコラムを書いた.
考えてみれば無謀なことをしたもんだ(笑)
成語とか四文字熟語などほとんど知らない.頼りになったのは手元にある学生用の成語ポケット辞典だけである.
しかも,初めにきちんと準備をしておくような,計画性は持っていない.毎月締め切り間際にコラムを書いていた.
物書きというのは,締め切りに終われて作品をひねり出しているものだという,私のステロタイプな思い込みがそういう行動を取らせているようだ.
コラムを書いている時だけは,いっぱしの物書きの気分を味わって,楽しんでいた(笑)
今回の連載は,筆者の写真がとかく物議をかもした.
似ていない,というのはいい方で,「あちら系の人でしたか」と口の前に手のひらをかざして言われたりもした.
ついに男色系コンサルというブランディングまで出来てしまった.
ところで,毎回四文字熟語を「あるルールに従って」紹介していくという綱渡りがすっかり気に入ってしまい,メールマガジンではすでに62回続いている↓
http://archive.mag2.com/0000103084/index.html
華南マンスリーにはまた一年コラムを書かせていただくことになった.
既に新連載「伝説の経営者・原田則夫の”声”を聞け 工場再生指導バイブル」が開始している.
また一年間ご愛読をお願いします.

【儲かる工場の作り方】第十二話「ゼロエミッション」

Title12
動脈産業・静脈産業

モノ造りをすれば、多かれ少なかれ環境に影響を与えることになる。与えた影響を浄化しなければならない。生態系を人体に例えれば、モノ造りは動脈。市場に製品(酸素)を供給し、活動エネルギーとする。廃棄物(二酸化炭素)を回収するのが静脈だ。
これからの産業は動脈と静脈を併せ持っていなければならない。リデュース(削減)リユース(再利用)リサイクル(再生)の究極の姿がゼロエミッションだ。
原材料、エネルギーをいただいたら、返礼すべきだ。自分ばかりが儲かることを考えてはいけない。地球環境に「礼尚往来」の礼を尽くさねば、企業は市場から淘汰されることになる。

環境にやさしくコストダウン

原材料・エネルギーを節約するのが、リデュース。使えるモノを捨てないで再利用するのがリユース。使えなくなったものを再生利用するのがリサイクルだ。これらを活用して、静脈をしっかり持たなければならない。
資源を使わせていただくことに感謝し、リデュース・リユースをすればコストダウンにもなる。リサイクルにはコストがかかるが、トータルで考えればコストダウンになる。
例えば発泡スチロールの梱包材を再生する小型プラントを、工場や倉庫に持つ。かさばる梱包材を運搬せず、原材料の形で運搬すれば輸送費が節約でき、その分の二酸化炭素排出も削減できるはずだ。

究極のゼロエミッション

 究極のゼロエミッションは、生産に投入した原材料は全て使い切り、廃棄物をゼロにすることだ。
例えば従業員食堂で発生した残飯もリサイクルする。残飯から堆肥を作り、その堆肥で再び食材を育てる。食の安全が懸念されている今、無農薬・有機肥料で栽培した食材を使えば、従業員の健康にも貢献できる。
実はこの方面も日本の環境技術は大変優れている。小さな堆肥プラントを導入すれば、工場内で完結するゼロエミッションが実現可能だ。
堆肥プラントを併設した農場を消費地の近郊に作る。都市型農園だ。この様な環境調和型のビジネスが盛んになれば、中国の食の安全問題は、大幅に改善できるのではないだろうか?
早いもので、この連載を初めて1年が経った。12回のコラムにお付き合いいただいた読者の皆様に感謝したい。
すでにお気づきの読者様もおありかも知れないが、毎回ご紹介した四文字熟語は中文読みで尻取りになっている。ぜひバックナンバーをご確認いただきたい。
ではまたどこかでお目にかかりましょう。

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年5月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第十一話「省エネ」

省エネ
不況に勝つ「省エネ」

環境問題に対する取り組みとして「省エネ」の重要度は高くなっている。儲かる工場の観点では、省エネはコストダウンだ。電気、ガスなどのエネルギー源を節約することによりコストダウンになる。

まずは計測すること。どこにエネルギーのムダがあるか調べ、省エネ目標を作ることだ。動力系ばかりではなく、照明なども調査対象とする。小さな節約量でも、チリも積もれば大きな量となる。

人材もエネルギー源

工場の一番大きなエネルギー資源といえば「人材」だ。人材を「工数」として捉えては、エネルギー源という発想は出てこない。人は他のエネルギー源では代替が利かぬ「情熱」というエネルギーを発生する。

品質も生産性も最終的には「人質」の勝負だ。人質を上げるためには従業員一人ひとりの情熱エネルギーが必要だ。従業員の情熱エネルギーを効率よく発生させることが、儲かる工場の「省エネ」だ。

ではどうすれば従業員が情熱エネルギーを発揮するようになるか?残念ながら知識や技能は教えられるが、情熱は教えられない。初めが肝心である。まず情熱のある人を選ぶ。そして一人ひとりが仕事を通して夢を実現するよう、正しく指導することだ。

与えられた仕事では情熱エネルギーは発揮しにくい。自らの夢の実現のためならば、情熱エネルギーは自然と発揮される。

初めに手間をかける

ゼンマイ駆動の玩具自動車を想像して欲しい。まずゼンマイを巻き上げ、駆動力を与える。そして目標に向かって正しく方向付けし手を離す。スタート地点のほんの僅かな誤差が、目標から大きくずれることになる。間違った方向に進めば、すぐに方向を修正する。

仕事も同様である。まずはその意義を説明し、情熱エネルギーという駆動力を与える。そして正しく目標を与える。後は任せる。

しかし、任せたままにしてはだめだ。特にスタート直後はフォローが大切だ。目的・目標を正しく理解しているか?やり方を間違えていないか?きちっとフォローする。順調にスタートしたら、後は任せる。

往々にしてこの逆をしている上司が多い。簡単な説明で仕事をスタートさせる。そして締め切りの間際になって、正しく仕事が行われていないのを知り、あわてて方法論まで指導してしまう。

これでは余計に手間がかかるばかりではなく、部下の情熱エネルギーを発揮しにくい。部下を信頼(信じて頼る)するのではなく、部下を信用(信じて用いる)することにより情熱エネルギーを引き出すことができる。

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年4月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第十話「研究開発」

研究開発
ピンチをチャンスに変える

ピンチはチャンスだ.チャンスは時としてピンチの仮面をかぶってあなたの前にやってくる.
経済危機,顧客嗜好の多様化など工場の外で発生していることを,業績不振の理由にしてはならない.工場の外で発生していることは,いくら経営努力をしても改善することはできない.
ピンチをチャンスに変えるためには工場を変えなくてはならない.工場を変える力,変化に対応する力を産むのが研究開発だと考えている.

工場でも研究開発

研究開発というと,世の中にない素材を開発する基礎研究,新しい商品を創造する商品開発を思い浮かべるかもしれない.そのためには優秀な人材を多く集め,莫大な時間と資金の投資が必要だ.従って研究開発を資金力のある大企業の専売特許のように考えている方が多いのではないだろうか?
工場には,商品設計をする機能はない.中小企業は優秀な人材も資金力もない.しかし研究開発はできる.普通の人でも,お金と時間をかけずに,儲かる工場に変身する努力ができるはずだ.
世の中にない素材,商品,技術を開発することだけが研究開発ではない.自社にない素材,商品,技術を自社に取り込むことも研究開発といってよいはずだ.それによって同業他社にない力をつけ,競争優位に立つ.顧客との主従関係を脱却し,パートナー関係となることができる.

研究開発の力

では工場の研究開発とは具体的にはどんなことか,事例を紹介したい.
生産をより高付加価値商品にシフトする.ある工場はCDラジカセの廉価品をOEM生産していた.その当時から市販品のDVD機器を分解し,どのように生産したらよいか検討していた.今では高級ホームシアターシステムを生産している.顧客の商品戦略にいち早く追従できた結果だ.
生産をよりフレキシブルにする.あるネジメーカでは,独自に生産改革を行い,ネジを1本から受注生産し翌日には納品する体制を整えた.業界の常識を超えたリードタイムを実現することにより,価格競争に巻き込まれない優位性を確立できた.
生産効率を極限まで高める.ある電子部品工場では10年来の生産方式を革新し,生産効率1.5倍,スペース効率2倍を達成した.作業改善をし,簡単な半自働機を導入しただけだ.
製造業だけではない.サービス業でも研究開発は有効だ.ある飲食業はたった二つのことをしただけで売り上げが倍増した.笑顔とお客様を名前で呼ぶ,たったこれだけだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年3月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第九話「品質保証」

和衷共济
「品質保証」とは
品質保証部門の仕事を誤解されている人が多いと感じている.
製品の検査.顧客クレームに対する対応.これらも品質保証部門の仕事の一部ではあるが,これが全てではない.
品質とは製品またはサービスを実現する全てのプロセスの品質の総積である.受注から始まり出荷までの各プロセス品質の一箇所でもゼロがあれば,全体の品質はゼロになる.
従って品質保証とは各プロセスを担当する部署がそれぞれにその品質を保証することだ.
品質保証部が製品やサービスの品質を保証するわけではない.品質保証部の仕事は,各プロセスの品質保証の確からしさを保証することである.
品質保証には社内各部署の『和衷共济』が強く要求される.
検査で品質保証?
以前中華系の工場に,不良多発の改善を要求したことがある.このとき経営者は,すぐに高価な自動検査装置を買ってきて,これで不良は無くなると言った.
笑い話のようだが,現実の話だ.ここまで極端でなくとも似たような事例はいくらでもある.
半田ボールがたくさん出るので,外観目視の検査員をたくさん導入して半田ボールを除去する.
組立て後の寸法不良が発生するので,全数ノギスで寸法チェックする.
これらの検査による品質保証は,必ずコストがかかる.その結果,利益が出ないから取引を中止させて欲しいなどといってくるベンダーさえある.
中には,工程内不良が○○ppm以下なので,全数検査から抜き取り検査に移行するというメーカもあった.一見理にかなった発想のように見えるが,○○ppmしかない不良をどうして抜き取り検査で見つけられるというのだろうか.
プロセスで品質保証
前出の例では,半田ボールが出ないようにする.部品の公差設計を見直し,組立てによる工程能力を改善する.などの原因に対する改善をすることにより,各プロセスが品質保証できるようにすることが必要だ.
検査に頼らず,各工程での作り込みによる品質保証を確かにすれば,品質とコストがトレードオフになることは無くなるはずだ.
こういう状態を実現できると,工程内の検査を見直し,更にコストダウンすることも可能になる.
時間がかかる検査を組み合わせ,半自動機を導入する.検査のナガラ化を実現することにより,工程削減し作業員を省人化できる.
過去の事例では三つの検査工程と1つの作業工程を,一台の半自動検査機でナガラ化した.これにより作業員三人を省人化できた.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年2月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第八話「自働化」

人机协和
「自働化」の定義

ニンベンの付いた自動化として「自働化」という言葉は広く知られている.その定義は豊田式自動織機の豊田佐吉にまでさかのぼる.
当時の自動織機は経糸が切れてもそのまま生産を続けた.つまり不良を造り続けてしまう.
豊田式自動織機は異常が発生すると直ちに停止する機能を持つ.機械が停止することにより,経糸のつなぎが可能となり不良を造り続けることはなくなった.
これが「自働化」の始まりであり,定義だ.しかし今時の機械で異常が発生しているのに不良を作り続ける機械はないだろう.
異常を検知し自動停止するというだけでは「自働化」を説明しきれない.人と機械が調和を持って仕事をする.そのための仕掛けの一部が自動停止の機能だ.
自働化の概念を表す新四文字熟語「人机协和」を作ってみた.

人と機械の調和

人の作業にも自働化は適用可能だ.コンベアで流れ作業をしている作業員一人ひとりが異常を発見したらラインを止めて,問題解決・改善をする.この改善を継続することにより,ラインストップのロスより大きな生産性向上メリットが得られる.
このように,自働化の発想は機械設備だけに適用されるわけではない.
生産機械の能力を目いっぱい引き出すために,作業員が機械に奉仕する.昔チャップリンが映画「モダンタイムス」で工場の歯車になる工員を風刺したが,現代版「モダンタイムス」では自動生産設備に仕える工員の悲哀ということになろう.
自働化の根本理念は,人が人としての尊厳をもって生産活動をするということだ.人が機械に知恵と工夫を与え,機械が人の働きを助ける.こういう発想が自働化だ.

自働化の導入

自働化の導入で重要なことは,まず生産の流れを看える化することだ.分断した生産の流れをそのまま自働化してしまうと,ムダも一緒に機械化してしまう.
例えば子部品・前加工などまとめ生産して組立てラインに投入しているのを,そのまま機械化してしまうとムダが解消されないままとなる.まずは生産の流れを一気通貫生産とする.その上で機械化の検討をすれば,過剰な生産能力の設備に投資することもないだろう.
全自動の生産設備は目指さない.人と機械が調和を持って生産できる自働化機械を目指す.
非常に単純なメカニズムだがマイコンの力で複雑な動作が可能.作業台に乗るサイズの半自動機が立派な自働化機械となる.
こういう装置を昔のカラクリ人形に習い,カラクリ自働機と称している.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年1月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第七話「リードタイム短縮」

一気通貫生産
才気より調和

『才气过人』とは秦末期楚の武将項羽のことを指して言う.史記によると項羽は身の丈八尺,重い鼎を楽々持ち上げる.才気がぬきんでていた人物だった.
戦闘では非情な強さを示し,『破釜沈舟』の戦いも有名だ.しかし才気だけでは国は治められない.調和を持って人心をつかめなかった項羽は四面楚歌の元自殺するという最期を遂げている.
国の統治には,人と人,国と人,国と国の調和がなければならない.

工場の調和

工場も同様に,人と人,会社と人,会社と社会の調和の元に経営されなければならないだろう.
その上でQCDのパフォーマンス調和が必要だ.品質(Q)コスト(C)納期(D)を顧客の期待を越えた高いレベルで調和させることが必要だ.
例えば納期,顧客の指定納期どおりに出荷するというのではまだ足りない.業界の常識を超えた生産リードタイムを実現して,フレキシブルな納期対応を顧客に提案する.これが実現できればコスト的に不利な状況でも,競合に勝つことが可能となる.
あるネジメーカは,寿司バーコンセプトを実現させ,ねじ1本から受注生産し即納する体制を構築した.つまり握り寿司のカウンターと同様にお客様が必要なときに,必要なだけ生産して供給することができる.
このネジメーカが生産するのは汎用ネジではない.しかし特殊ネジだから実現可能,汎用ネジでは実現は不可能と考えたら絶対に実現することはできない.考えようによっては,汎用ネジを本当に1本発注する人はいないわけだから,汎用ネジのほうが実現が容易ともいえるだろう.

一気通貫でリードタイム短縮

非常識な生産リードタイムを実現するためには,まずは工程ごとのまとめ生産をやめることだ.部材投入から出荷梱包までの工程を一気通貫で生産する.
一気通貫生産をすることで,工程ごとの滞留がなくなる,工程間での取り置きの無駄がなくなる,問題発生時の後戻りを最小に抑えられる,というメリットがある.
プラスチック部品を生産しているある工場で,工程ごとのまとめ造りをやめて一気通貫生産に切り替えた.切り替えの初日から十数日かかっていたリードタイムが,一日半になった.
一気通貫生産にする.そして問題が発生したらすぐにラインを止める仕組みを作る.
ラインの停止が改善のチャンスになる.まとめ造りをしていたときには気がつかなかった問題点が見えてくる.これを次々に改善してゆくことで非常識なリードタイムを実現できる.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年12月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第六話「レトロフィット」

レトロフィット
見栄えより工夫

仕事柄工場を見せていただく機会が多くある.見栄えの良い立派な社屋や最新の設備よりも,独自の工夫,独自のスタイルを持っている工場のほうが感銘深い.
以前学生の工場見学に付き合ったことがある.NPS生産方式を取り入れた自慢の工程を案内した.学生の反応は「最新オートメーションの工場を想像していたが,手作り風の生産ラインで意外だった」という感想だった.
私に言わせれば最新の創意工夫を凝らした生産ラインだが,この手のすごさは外見では分からないのだろう.
中国にも創意工夫を凝らした工場がある.その生産現場を一目見て思わずうなった.旧式生産設備をぴかぴかに磨いて使っている.そして古さを自慢するように年式を示すプレートまで付けてある.
しかもそれぞれの機械に最新の創意工夫がしてあるのが分かる.「温故知新」という言葉がしっくりする工場だ.

古きを使いこなす現場力

ただ古ければよいというわけではない.古い設備を徹底的にメンテナンスして,新品同様に使いこなす.並みの現場力ではできないことだ.
中華系のある工場は最新式の設備をドンと並べている.しかしその設備を見ると,肝心のところがきちんと清掃されていない.きっとメンテナンスどころか修繕もできていないだろう.
設備に不具合が発生した場合,それを修復するのが修繕だ.修繕では足りない.原因を突き止めて修理することが必要だ.そして不具合が再発しないように改善をしなくてはならない.それを維持するのがメンテナンスだ.

現場力を磨くレトロフィット

若い中国人設備エンジニアを指導していてがっかりすることがたびたびある.圧縮空気で動作している機械の動作が緩慢になっている.それを指摘すると,空気圧のバルブをちょっと調整して直りましたという.これでは修繕以前の対処療法だ.
彼らを鍛えるには,徹底的に原因を追究させること.修繕ではなく修理をさせることだと考えている.そのためには古い設備を使い込むことだ.
わざわざ中古の設備を日本から持ってくることはない.中古設備の輸入には手間がかかる.
まずは手元にある古い設備をレトロフィットして甦らせてはどうだろうか.古い設備をきちんと維持して使いこなす.古い設備に創意工夫を追加する.これが現場の改善魂を鍛える.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年11月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第五話「ポカよけ」

儲かる工場の作り方
「熟视无睹」

人間の視覚,注意力というのは驚くべき性能を備えている.フォーカスした部分に関しては実に詳細に観察する事ができる.しかし裏を返せば,興味の無い部分や注意力が落ちれば,殆ど何も見ていないのと同じになってしまう.

例えば,いつも見ている腕時計を見ずにそのデザインを詳細に描ける人は少ないだろう.これは時計を見るという行為が,時間を知るという目的にフォーカスされているため,時計のデザインはマスクされてしまっているためだ.

同様に市場を俯瞰しても顧客一人ひとりの顔は見えてこない.
工場の中で不良率を見ていても,不良原因は見えてこない.不良原因が見えなければ,不良を減らす事ができない.

常にモノを見るという行為の目的を意識していなければ,いつも目にしているモノから何も見えてこないことになってしまう.

品質は工程で作りこむ

1:10:100の法則というのがある.部材の時点で不良を発見できた場合の損失を1とすれば,工程内で発見した場合は10倍,顧客まで流失した場合は100倍の損失になるという意味だ.
従ってモノ造りの工程の中では,作業員一人ひとりが異常(いつもと違う)に注意力を払い,不良を作りこまないようにしなければならない.

これができていれば出荷保証検査をする必要は無いはずだ.しかし出荷検査という「ムダ」も100倍の損失というリスクを考えれば「ムダ」とはいえないだろう.

「ついうっかり」には「ポカよけ」

工程での品質作りこみができれば不良が発生する余地は無いはずだ.しかし不良は発生する.人がやる作業には「ついうっかり」というのが付きまとう.

「ついうっかり」による不良が発生するたびに,「作業員に注意しました」「作業員に再教育をしました」という改善対策書を書いていないだろうか?このような対策では「ついうっかり」は永遠になくならない.
ここで登場するのが「ポカよけ」だ.治工具を工夫することにより,不良を作れない,不良が次工程に流れなくする仕組みだ.

ここでも「熟视无睹」に気をつけねばならない.こだわりがあれば「ポカよけ」は思いつかない.また他所でやっている「ポカよけ」を取り入れることもできない.

例えば旅客機が登場口を開閉する際に乗務員がやっている「ドアモードの変更」作業に組み込まれている「ポカよけ」を観察してみていただきたい.きっとあなたの仕事にも応用できるはずだ.

ドアモードの変更はこちらを参照ください.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年10月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第四話「省人化」

人海戦術
兵法「人海戦術」

 安価な労働力が大量に確保できる.こんな魅力で中国が世界の工場といわれるまでに発展した.
 多くの日系企業も,生産コスト削減のために中国に進出したと思う.農村出身の女工さんを大量に並べ,モノ造りをしてきた.

 しかし状況は大きく変化した.最低賃金は毎年十数%上昇.中国政府は労働集約型工場に対する優遇政策を徐々に縮小してきている.

 また無尽蔵と思われた内陸部からの人材供給も陰りが見えている.必要な人数だけ工員を集められる工場はまれだ.
 既に中国の生産現場では人海戦術は通用しなくなっている.

変種変量・多品種少量生産へ

 同時に市場の要求も変化している.今までのように規格商品を大量に生産しても売れない.モノ造りも少品種大量生産から,変種変量・多品種少量生産に変化しなければならない.究極の姿は鮨屋のカウンターだ.お客様が食べたいモノを食べたいだけ食べたい時に提供する.

 このような生産を人海戦術で対応しようとすれば,無駄が多すぎる.では完全自動で作業員を極限まで削減すればよいかというと,これも違う.少品種大量生産では力を発揮するが,変種変量・多品種少量生産には向かない.

 大きな投資をすれば,設備の稼動率が気になる.稼動率を気にすれば売れないモノを大量に生産することになる.稼動率を決めるのは工場ではない.顧客の需用だ.

省人化改善

 量の拡大を目指す改善ではなく,少ない人数で作る改善をする.量の改善がなくても生産性が改善されれば良いはずだ.同時に生産スペースを縮小すれば,工場の潜在生産能力は向上する.これで変種変量・多品種少量生産への柔軟性が手に入る.

 例えば800台/時間の加工ができる機械をフル可動させるために前準備に2人投入する.3人の作業員で機械はフル可動できる.しかし1人で出来る量だけ可動させれば,500台/時間生産できる.量が減っているが,2人で生産すれば1000台/時間が可能だ.省人化改善を目指して量の改善も手に入れられた.一番大きいのは受注に合わせて生産能力を無駄なく可変できる柔軟性だ.

 省人化とは一人ひとりの生産付加価値を上げさらに高い生産効率を得ることだ.言ってみれば省人化は活人化だ.

 省人化の鍵は「抜苦与楽」.作業のムダ・ムラ・ムリを省く.作業が楽になれば結果的に効率は上がるはずだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年9月号に寄稿したコラムです.