【儲かる工場の作り方】第六話「レトロフィット」


レトロフィット
見栄えより工夫

仕事柄工場を見せていただく機会が多くある.見栄えの良い立派な社屋や最新の設備よりも,独自の工夫,独自のスタイルを持っている工場のほうが感銘深い.
以前学生の工場見学に付き合ったことがある.NPS生産方式を取り入れた自慢の工程を案内した.学生の反応は「最新オートメーションの工場を想像していたが,手作り風の生産ラインで意外だった」という感想だった.
私に言わせれば最新の創意工夫を凝らした生産ラインだが,この手のすごさは外見では分からないのだろう.
中国にも創意工夫を凝らした工場がある.その生産現場を一目見て思わずうなった.旧式生産設備をぴかぴかに磨いて使っている.そして古さを自慢するように年式を示すプレートまで付けてある.
しかもそれぞれの機械に最新の創意工夫がしてあるのが分かる.「温故知新」という言葉がしっくりする工場だ.

古きを使いこなす現場力

ただ古ければよいというわけではない.古い設備を徹底的にメンテナンスして,新品同様に使いこなす.並みの現場力ではできないことだ.
中華系のある工場は最新式の設備をドンと並べている.しかしその設備を見ると,肝心のところがきちんと清掃されていない.きっとメンテナンスどころか修繕もできていないだろう.
設備に不具合が発生した場合,それを修復するのが修繕だ.修繕では足りない.原因を突き止めて修理することが必要だ.そして不具合が再発しないように改善をしなくてはならない.それを維持するのがメンテナンスだ.

現場力を磨くレトロフィット

若い中国人設備エンジニアを指導していてがっかりすることがたびたびある.圧縮空気で動作している機械の動作が緩慢になっている.それを指摘すると,空気圧のバルブをちょっと調整して直りましたという.これでは修繕以前の対処療法だ.
彼らを鍛えるには,徹底的に原因を追究させること.修繕ではなく修理をさせることだと考えている.そのためには古い設備を使い込むことだ.
わざわざ中古の設備を日本から持ってくることはない.中古設備の輸入には手間がかかる.
まずは手元にある古い設備をレトロフィットして甦らせてはどうだろうか.古い設備をきちんと維持して使いこなす.古い設備に創意工夫を追加する.これが現場の改善魂を鍛える.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年11月号に寄稿したコラムです.