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衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念したと発表した。電源の太陽電池パネルが根元から分解した可能性が高く、回復は見込めないと判断した。X線を観測してブラックホールなどの詳しい様子を調べる計画だったが、研究も停滞することになる。

 衛星は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、3月26日午後4時40分ごろから地上と通信ができなくなった。機体が複数に分解、回転していることが観測で判明していた。

 JAXAが原因を調べたところ、衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられるという。

 JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとし、パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていた。しかし、電波は別の衛星のものだと判明したという。

 JAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べた。

 X線を観測して宇宙の成り立ちを探るX線天文学は日本のお家芸とされ、ひとみは6代目の衛星。米国などとの共同開発で、日本は打ち上げ費を含め約310億円を負担していた。

(朝日新聞電子版より)

 初代X線天文衛星「はくちょう」以来3代目「ぎんが」の活躍で日本はX線天文学の中心的役割を果たして来た。しかし、4代目「あすか」は制御不能。後継機は打ち上げ失敗。5代目「すざく」も故障。と言うていたらくだ。
しかも問題は「はやぶさ」の様に遥か彼方での探索ではなく、地球周回軌道でオペレーションが出来なかったことにある。今まで多くの技術蓄積が有る分野での失敗だと言うことを重く捉えなければならない。

記事によると、姿勢制御プログラム(もしくはパラメータ?)のミスと、姿勢制御の遠隔操作ミスが重なった為に衛星の回転が加速したようだ。プログラムのバグも操作ミスも、一括りにしてしまえば「人為ミス」だ。

二流の企業であれば対策として「人員の再教育」などいうだろう。
JAXA研究所長は「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」といっている。

私には、この姿勢は正しいと思える。人のミスが原因としてしまえば、対策は困難だ。人のミスを発生しにくくする、ミスを事前に検出すると言う「全体のシステム」を改善しなければならない。

プログラムにはバグが有るのが前提だ。
いかにバグを事前に検出するか、バグが有っても致命故障にならない様に冗長性を持たせるか、と考えるべきだろう。
操作ミスも同様だ。操作ミスが起きる要因(間違えやすい、操作しにくいなど)を極力排除し、ミスが致命傷にならない冗長性を持たせる。

衛星と言う限られた資源の中で冗長性を持たせるのは困難かも知れない。しかしコントロールセンターにシミュレータを置き、操作結果がどうなるか検証してから、遠隔操作のコマンドが送られる様にする事は可能だろう。


このコラムは、2016年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第474号に掲載した記事に加筆修正しました。

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仕事の依頼3ステップ

 部下に仕事を依頼する時にどのようにされているだろうか?
日本の組織では「アレやっといて」で通じてしまう。しかし中国ではこれで上手く行くはずは無い。いや日本で上手く通じると言うのも過去の伝説だろう。仕事を依頼して翌日「アレどうなってる?」と訪ねても、期待通りの返事が返ってくることはまず無い。

「だから中国人は……」とか「今時の若い者は……」と嘆いても、問題は解決しない。問題の原因は自分にあると考えることで初めて解決出来る。

仕事の依頼には3つのステップが有る。
1)仕事の目的を明確にする。
2)仕事のターゲットを明確にする。
3)アウトプットのイメージを明確にする。

ステップ1は今から依頼する仕事は何の為にするのか?と言う目的を知らせると言う意味だ。
仕事を依頼する時に「What」と「How」はきちんと伝えるが、「Why」をきちんと伝えているだろうか?
例えば「生産現場の工具を整頓しておく様に」と指示することは「What」の指示だ。これは「作業」を指示しただけで「仕事」の指示ではない。
例えば自社の存在目的が「生産を通して豊かな社会の実現に貢献する」であることを理解した上で「工具の整頓により工具を探す時間をなくし、生産効率を改善する」ことが目的だと理解すれば、仕事の意義が理解出来る。
又は自社の存在目的が「仕事をとして従業員の成長を計る」であれば、仕事の成果は自分自身の成長となる。
仕事の目的、意義が理解出来れば「やっつけ仕事」ではなく使命感がある仕事となる。

ステップ2は「この仕事の対象は誰か」を明確にすることだ。
先ほどの「生産現場の工具を整理する」と言う仕事の対象は、現場の作業員であり、その結果社会の人々や自分自身が対象となるということだ。
経営会議の資料作成は、仕事を依頼した上司の為にするのではなく、経営会議参加者が対象だ。

ステップ3は、いつまでに、どの程度の品質でと言う仕事の合格基準を明確にすることだ。
「生産現場の工具の整理」がすぐにやらなければならない仕事か、暇を見つけてやっておけば良いのか?現状のまま整頓だけすれば良いのか、より整頓しやすくする改善が必要なのか?と言う合格基準を明確にしなければならない。「どうもウチの部下は気が利かなくて」「いわれたことは出来るが、工夫が出来ない」とこぼしている方は、ステップ3が不十分の可能性がある。「気を利かせること」「工夫すること」が上司の期待であることを明確にすることが必要だ。

上記の3ステップをした上で、以下の3ステップを相手に合わせて実施する。
ステップ1:仕事の手順プロセスを話し合う。
ステップ2:仕事の成果をよりよいモノにする工夫を話し合う。
ステップ3:ホウレンソウのタイミングを決める。
この3ステップは、仕事を依頼する対象の経験や能力に合わせて実施する。
相手が新人であれば、この3ステップは丁寧にやる必要が有る。
しかしベテラン相手にこの3ステップをくどくどやれば、逆効果だろう。


このコラムは、2016年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第474号に掲載した記事に加筆修正しました。

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「2億円以上かけて寄付は2千万円」 蓮舫氏が批判

 子どもの貧困対策のために寄付を募る「子供の未来応援基金」をめぐり、民主党の蓮舫代表代行は2日の参院予算委員会で、費用対効果の悪さを指摘した。2億円以上の税金を使って呼びかけているのに、集まった寄付は約2千万円。蓮舫氏は「2億円を基金に入れれば良かった」と訴えた。

 基金は昨年10月に創設。集まった資金を子どもの支援活動をするNPOの支援などに充てる計画だ。政府はポスターの制作やフォーラム開催のほか、インターネット広報関連などで約2億円使ったが、寄付は今年2月現在で
約1949万円しか集まっていない。

 基金を担当する加藤勝信少子化相は委員会で「(2億円は)広報のみではなく、国民運動としての広報・啓発活動として使っている」と釈明した。

(朝日新聞電子版より)

 2億円の設備投資をして2千万円の利益回収しか出来なければ、企業としては投資の失敗と言わざるを得ないだろう。2億円をそのまま基金とすべきという考えは一見合理的の様に見える。

しかし、ビールを飲んでもすぐに小水になるだけだから、ビールを直接小便器に流す、と考える人は誰一人いないだろう。たとえは悪いが、資金の使い方を短絡的にしか考えていない、と私には思える。

2億円が半年で2千万円のリターンになるならば、年20%の利回りとなる。低金利時代に20%の利回りならば、十分効果があったと考える事も出来る。野党として追求すべきは、2億円が特定の団体だけの利益になっているなどの不正に対してだ(そのような事実が有ったかどうかは知らないが)。

子供は国の未来そのものだ。少子化が進む中、社会が子育てを応援するという活動は、国の未来を保証するものであり、政府がその為の投資をするのは当然だと思う。国の投資は10年20年先を見据えてすべきだろう。

民間企業も将来の人口減を見据え、少人数でも効率よく生産する方法を考えなければならない。ロボット技術も、AI技術もその方向で発展をしている。先頃発表された、バス・トラック企業の自動運転技術の共同開発も運転手不足をにらんだ将来投資だ。

「寄付」と言う文化があまりない日本で、出生率の増加が寄付によって達成出来るかどうか疑問があるが、蓮舫氏の批判で国民が逆に奮起すれば、効果が評価出来るかも知れない(笑)

少子化の進行と言う現象の真の原因を捕え、それに対して正しい解決課題を設定しなければならない。子供を作らないと言う理由は、それぞれの家庭で異なるだろう。この様な「複雑系」の問題は最大公約数だけで解決出来るとは思えない。分析と対策の議論をもっとオープンにし、国民の意識を高める事がより重要だと思う。
野党の議論が、少子化関連の寄付は経費として非課税にせよとか、ふるさと納税の様に寄付者に還元する特典をつけようとか、もっと建設的な方向に向くとよいと思う。人口減で売り上げが減る企業は、もっと積極的に寄付をするようになるだろう。

私たちの生産現場で発生している慢性的問題も複雑系であるが故に慢性化している。少子化問題と同様に議論をオープンにして、従業員全体が問題意識を共有し、解決意欲を高める必要があると考えるが、いかがだろう。


このコラムは、2016年5月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第478号に掲載した記事に加筆修正しました。

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喜ばしい成長、でもヒヤリ 暮らしの中の子どもの安全

 朝日新聞に子供の事故に関する特集記事が掲載されていた。

「小さな命 事故予防を考える」

転落事故。
浴槽の残り湯に落ちて溺死。
異物を飲み込んで窒息死。
ライターによる火災発生。
飲水機によるやけど。

大人にとって何でもない事が、子供には命の危機となりうる。
製品にもそのような危険を回避する工夫がしてある。

使い捨てライターは、子供の力ではレバーを押せない様にデザインする事が義務づけられている。
飲水機のレバーも押しただけでは熱湯が出ない様に設計されている。
車の扉にはチャイルドロックが装備された。
一定以上大きさの包装用ポリ袋は、頭からかぶっても窒息しない様に穴を空けることが義務づけられている。
最近では歯ブラシをくわえたまま転倒しても怪我をしない様に歯ブラシの柄が柔らかい素材で出来ていると記事には出ていた。

しかし考えてみると、私が子供の頃はそのような対策はしてなかった。
おとなしかった(笑)私は、危険な事をして親を驚かせる様な事はなかった。
しかし活発な弟は、さんざん親をはっとさせた。

10円玉を飲み込み、足を持ってぶら下げて吐き出させた。
公団住宅の階段で遊んでいて額を切りしたたか出血をして帰って来た。
近所の犬をからかって股間をかまれる。
三輪車に乗って路地から飛び出し、通りかかった車の後輪にぶつかり転倒。
この時は一歩間違えば命はなかっただろう。
彼は母親が家事をしている最中は廊下の柱に帯ひもでつながれていた(笑)

私が子供の頃は、特に子供の安全を意識して製品開発されていたとは思えない。
当時と現在を比較して子供の怪我が減っているのだろうか?統計データがあるのかどうか分からないが、今の方が子供の命に関わる事故が多い様に思う。

この記事の「子供」を「作業員」に置き換えて読んでみるとどうだろう。
ある工場では頭にガーゼを当てた従業員がいた。この工場では作業員に安全帽の着用を義務づけていない。
他の工場では、安全規則を遵守せず怪我をした従業員に罰金を科したという告知が掲示板に張り出されていた。

記事には、事故予防の「3E」として環境改善(Environment)法規制・基準化(Enforcement)教育(Education)が有効なアプローチだと記してある。

罰金は教育(躾)の一種かも知れないが、それほど効果があるとは思えない。
それよりも「ヒヤリハット事例」を公開し、朝礼などで繰り返し共有する方が有効だと思う。たまたま見つかった安全規則違反に罰金を科料しても、ついてなかったと思うだけだろう。それよりも、管理者が従業員の安全にどれほど心を使っているかと言う、真剣な心配を伝える事の方が大切なのではなかろうか。

私たちの母親は、危ない事をした弟を泣きながら叱った。横で見ていた私の心にも深く刻まれている。私達兄弟が大過なく成長出来たのは、母親の愛情のおかげだと思っている。

事故が起きてから従業員の過失を責めても手遅れだ。ヒヤリハットを起こした従業員を愛情を持って叱るのが、経営者や管理者の役割だと思う。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事に加筆修正しました。

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判断基準を持つ

 本日は品質に関する判断基準について考えたい。

判断のスピードを要求される場合がしばしばある。量産ラインで工程内不良が発生。ライン停止の判断が遅れれば、不良の山を抱える可能性がある。一日の生産が完了し、工程内不良率を計算してから判断したのでは手遅れだ。

工程内不良の波及性の判断を間違えば、顧客に不良品を出荷してしまう。最悪の場合は市場回収が必要になる。

つまり判断の速度と、判断の妥当性を両立しなければならない。
判断を急ぐあまり、判断の妥当性が不足する。判断の妥当性を上げるために、判断の適時性を失う。こういう危険性を回避しなければならない。

例えば、工程内で不良が発生する。その時点ではその不良原因は不明であり、波及性の有無も分からない。この時点でどう判断するか?

安全側に判断をする、という考え方もあるだろう。しかしそのために納期遅れが発生したのでは、顧客に迷惑を与える。
不良原因や波及性がまだ不明な状態で、リスクを最小にする高度な判断が要求される。そのために高い給料を払って品質部長を雇っている(笑)という意見もあるだろう。しかし品質部長が会議中や食事中にもタクトタイムに従って製品は次々と流れている。現場で対応可能な判断基準を持たねばならない。

原因は不明でも、その不良モードが顧客や顧客の顧客(ユーザ)に与える影響で判断する。不良率を計算する前に、単位時間の発生頻度で判断する。などの判断基準を現場が持っていれば、自律的判断でラインを停止し、より高度な判断を待つ事が出来る様になる。

判断基準の原則は、1:安全、2:品質、3:効率、の優先順位を守る事だ。

例えば、顧客やユーザの安全に関わる不良が発生すれば、直ちにラインを停止。不良原因を解析し、他の製品に波及性がない事が分かるまで、生産を停止する。電気製品の生産ラインでは、耐圧試験が該当する。

連続して2個同一不良が発生したらライン停止。
2時間で同一不良が3件発生したらライン停止。(2時間置きに小休止をしていたので、2時間を単位とした)

生産開始時に「初物検査」をするのも同様の趣旨だ。


このコラムは、2016年9月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第494号に掲載した記事に加筆修正しました。

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仁に生きれば餓死するも怨みなし

rǎnyǒu(1)yuē(2)wèiwèijūn(3)gòngyuēnuòjiāngwènzhīyuē(4)shū(5)rényuēzhīxiánrényuēyuànyuēqiúrénérrényòuyuànchūyuēwèi

《论语》述而第七-15

(1)冉有:孔門十哲のひとり。姓はぜん、名はゆうあざなは子有。
(2)ふう:孔子の尊称。
(3)卫君:衛の君主、しゅつこう
(4)伯夷:殷代末期の孤竹国の王・亜微の長男
(5)叔齐:殷代末期の孤竹国の王・亜微の三男

素読文:
冉有ぜんゆうわく、ふうえいきみたすけんか。こう曰わく、だくわれまさこれを問わんとす、と。りて曰わく、はくしゅくせい何人なんぴとぞや。曰わく、いにしえ賢人けんじんなり。曰わく、うらみたるか。曰わく、仁を求めて仁を得たり。又何をか怨みん。出でて曰わく、夫子は為けざるなり。

解釈:
冉有が問う:“夫子は衛の君を援けられるだろうか”
子貢曰く:“よろしい。私がおたずねしてみよう”
子貢は孔子の室に入ってたずねる:“伯夷・叔斉はどういう人でしょう”
孔子曰く:“古代の賢人だ”
子貢曰く:“二人は自分たちのやったことを、あとでくやんだのでしょうか”
孔子曰く:“仁を求めて仁を行なうことができたのだから、なんのくやむところがあろう”
子貢は孔子の部屋を出て冉有に曰く:“夫子は衛の君をお援けにはならない”

この項は、長らく意味がわかりませんでした。渋沢栄一の「論語の読み方」を読んで理解できました。

冉有は当時衛に仕官していた。英霊公の後目を巡って蒯聵かいかいとその息子・ちょう(出公)の親子間で紛争が起きていた。冉有はこの紛争を収めることはできないかと孔子に相談したいが、直接相談せずに子貢に孔子は衛を助けてくれるだろうかと聞いた。子貢は孔子に直接衛のことを聞かず、昔王位継承争いを嫌って国を離れた伯夷・叔斉兄弟のことを訪ねている。伯夷・叔斉兄弟は人里離れたところに隠棲するが餓死してしまう。孔子はこの二人は仁者として生きることができたのだから、何も後悔はしていないだろうと答えている。それを聞いた子路は冉有に「孔子は衛の争いに口出ししないだろう」と言っている。

子路は直接問題を聞くのではなく、今起きている問題を過去の問題になぞらえて孔子に質問し、答えを得ています。さすが子門十哲の一人です。
しかし子路はこの衛の紛争に巻き込まれ殺されてしまうのです。

課題の定義

 先週は切断加工時に端材が出るという問題に対して、どのように課題定義をすれば良いかという事例について書かせていただいた。参照:「端材」

今週は別の事例を紹介したい。
板材をコの字形に曲げる加工がある。ベンディングマシンの稼働効率を上げると言う課題を設定して、2人作業で次の様に加工している。
横長のベンディングマシンの左右に一人ずつ作業員がつき、2人同時に作業する。一カ所曲げて材料を押し込み2カ所目を曲げる。曲げ終わると加工済み置き場におき、次の平板をとりベンディングマシンにセットするという手順だ。

この作業でベンディングマシンの効率は上がる様に見える。
しかし1回目と2回目の曲げ位置が異なるので、位置出しの当て板が使えない。あらかじめ加工位置にケガキ線を入れておく必要がある。二人同時の作業なので取り置き作業が干渉し手待ちが発生する。
ベンディングマシンの稼働率は上がるが、一人当たり生産効率は下がっている。

ベンディングマシンの2カ所に当て板をおけば、ケガキ線を入れると言うムダな作業は発生しない。一人目は材料をセットし、最初のラインを曲げ加工する。同時に二人目は二番目のラインを曲げ加工し、加工済み品を取り置く。加工済み品の取り置きの間に、一人目が加工中の材料を位置替えし未加工材料をセットする。
このように作業すれば、最初と最後の一枚の加工時に一人分の手待ちが発生するが、一人当たりの作業効率は上がる。

もし次工程が要求する量を確保出来るのならば、一人作業も可能だ。
この場合の課題は、加工機の稼働率を上げる事ではなく、一人当たりの加工効率を上げる事だ。


このコラムは、2016年9月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第495号に掲載した記事に加筆修正しました。

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端材

 後工程のために、鋼管部材を切断する作業がある。この作業の班長さんが、端材が出ない様に加工する方法はないかと尋ねて来た。

例えば、1mの鋼管を切断加工して、20cm、30cmの部材を各4本造るとする。
この場合、20cmの部材を4本加工するために1本の鋼管を使い20cmの端材がでる。30cmの部材を4本作るためには、2本の鋼管を使い10cmの端材と70cmの端材がでる。

この端材がもったいないというのだ。
もったいないので、次に加工する時のために端材を保管しておく。しかし次の加工で端材が使われる事はなく、どんどん端材がたまって来るという訳だ。

賢明な読者様ならば、20cmと30cmの部材を一度に加工すれば、1mの鋼管は2本だけとなり、10cm、20cm、70cmの端材は発生しない、とお気づきだろう。

当然質問して来た班長さんも、それは分かっている。
先ず50cmの部材を4本作り、それを20cmに切れば残りは30cmになる。しかし正確にいえば、刃の厚み分だけ30cmの部材は短くなっている。20cm、30cmと交互に切断すれば良いが、そのためには加工位置決めの当て板治具を毎回あわせ直す必要がある。

従ってこの班長さんが解決したい課題は、加工位置決め治具を素早くセットする方法、もしくは複数の位置決めが出来る治具を考える事だ。

課題をこのように整理すると、方法はいくつも考えつく。
課題を整理し単純にする事が改善の第一歩だ。


このコラムは、2016年9月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第494号に掲載した記事に加筆修正しました。

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購入部品の評価

 購入部品の評価が難易度を増している。
昔ながらの部品であれば、部品サンプルで機能や品質を技術的に評価する。
そしてその品質、納期、コストを保証出来る事をベンダー監査により確認する。
この手順で購入部品の評価が出来る。

しかしモジュール部品の場合、機能の大部分は組み込みソフトで実現している。従って、伝統的な購入部品の評価手法だけでは十分とは言えない。
製品の高機能化、小型化が進み、この様なモジュール部品を外部調達する比率が増加しているのが現実であろう。言って見れば自社にないソフトウェア技術を部品として購入している訳だ。

では、自社にないソフトウェア技術をどのように評価したら良いのだろうか?
「バグはもう一つある」というのがソフトウェア業界の常識の様だ(笑)
ベンダーが設計したソフトウェアの信頼性を評価する事は、ほとんど不可能だ。しかもベンダーが組み込みソフトのソースコードを公開するとは思えない。組み込みソフトのコーディング検証が出来るのならば、自社で作ることが出来るだろう。

モジュール部品の検証は「入力」と「出力」を漏れなく洗い出し、全ての入力の組み合わせに対して正しい出力が得られる事を検証することになる。組み合わせだけではなく、タイミングや状態の遷移も検証対象となる。

この様な設計検証がベンダーで正しく行われている事を確認する。
自社製品に組み込んだ場合の検証をユーザの立場で行う。これを妥当性評価という。妥当性評価は自社で実施しなければならない。

妥当性評価を実施する場合、評価計画を事前に作成する事が重要だ。
モジュール部品が完成品に与える影響の致命度により順位付けをし、評価項目、評価順序の計画をあらかじめ作成して評価する。計画を作っておかないと、評価漏れや、重要ではない項目の評価に時間が取られ、評価作業が泥沼状態となる。


このコラムは、2016年9月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第495号に掲載した記事に加筆修正しました。

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社会的促進

 先週のメルマガで「相互学習効果」をご紹介した。教師と学習者1対1、教師と学習者1対nよりも、教師と学習者n対nで双方向の学習(インプットとアウトプット)を行う方が学習効率が上がる、という効果だ。

仕事の効率にも似たような効果がある。「社会的促進」という現象だ。社会的促進は心理学者フロイド・ヘンリー・オルポートの実験により明らかにされた。

社会的促進とは、一人で作業するよりも集団で作業をした方が仕事の成果が上がる、または仕事中に周りに人(観察者)がいると仕事の成績が上がる、という理論だ。

一人で作業するよりも、他人と成果を競いながら作業をした方が成果が上がる、というのは理解しやすいだろう。しかし競争環境になくとも複数の人と作業することで成果が増す。作業をしない傍観者がいるだけでも成果が増す。

戸外での農作業など、皆で歌を歌いながら作業することにより疲労を緩和する、そういう効果もあるだろう。

仲間に対する貢献意欲、仲間からの刺激、観察者からの注目などが作用して仕事の成果が上がるのだろう。ホーソン工場の実験では作業環境の優劣よりも、観察者が自分達に注目していることで作業効率が上がってしまった。
これらが「社会的促進」の要因になっているのだろう。

しかし「社会的促進」には「社会的抑制」がセットになっている。
「社会的抑制」は複数で作業すると成果が落ちる。誰かに観察されていると成果が落ちるという現象だ。

全く逆の現象が出てしまう。
「社会的促進」は、単純作業、慣れている作業、好きな作業で発生しやすい。
「社会的抑制」は、複雑な作業、慣れない作業、嫌いな作業で発生しやすい。
と言われている。

21世紀の中国で、未だに金銭で仕事の成果を制御できると考えておられる方を見受ける。社会的促進・抑制、ホーソン工場の実験が行われたのは20世紀前半だ。

精益生産(TPS)などの表層を追いかけるだけでなく、社会学者や心理学者の成果を経営に活かすことを考えてもよかろう。


このコラムは、2017年8月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第546号に掲載した記事に加筆修正しました。

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