衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か


 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念したと発表した。電源の太陽電池パネルが根元から分解した可能性が高く、回復は見込めないと判断した。X線を観測してブラックホールなどの詳しい様子を調べる計画だったが、研究も停滞することになる。

 衛星は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、3月26日午後4時40分ごろから地上と通信ができなくなった。機体が複数に分解、回転していることが観測で判明していた。

 JAXAが原因を調べたところ、衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられるという。

 JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとし、パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていた。しかし、電波は別の衛星のものだと判明したという。

 JAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べた。

 X線を観測して宇宙の成り立ちを探るX線天文学は日本のお家芸とされ、ひとみは6代目の衛星。米国などとの共同開発で、日本は打ち上げ費を含め約310億円を負担していた。

(朝日新聞電子版より)

 初代X線天文衛星「はくちょう」以来3代目「ぎんが」の活躍で日本はX線天文学の中心的役割を果たして来た。しかし、4代目「あすか」は制御不能。後継機は打ち上げ失敗。5代目「すざく」も故障。と言うていたらくだ。
しかも問題は「はやぶさ」の様に遥か彼方での探索ではなく、地球周回軌道でオペレーションが出来なかったことにある。今まで多くの技術蓄積が有る分野での失敗だと言うことを重く捉えなければならない。

記事によると、姿勢制御プログラム(もしくはパラメータ?)のミスと、姿勢制御の遠隔操作ミスが重なった為に衛星の回転が加速したようだ。プログラムのバグも操作ミスも、一括りにしてしまえば「人為ミス」だ。

二流の企業であれば対策として「人員の再教育」などいうだろう。
JAXA研究所長は「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」といっている。

私には、この姿勢は正しいと思える。人のミスが原因としてしまえば、対策は困難だ。人のミスを発生しにくくする、ミスを事前に検出すると言う「全体のシステム」を改善しなければならない。

プログラムにはバグが有るのが前提だ。
いかにバグを事前に検出するか、バグが有っても致命故障にならない様に冗長性を持たせるか、と考えるべきだろう。
操作ミスも同様だ。操作ミスが起きる要因(間違えやすい、操作しにくいなど)を極力排除し、ミスが致命傷にならない冗長性を持たせる。

衛星と言う限られた資源の中で冗長性を持たせるのは困難かも知れない。しかしコントロールセンターにシミュレータを置き、操作結果がどうなるか検証してから、遠隔操作のコマンドが送られる様にする事は可能だろう。


このコラムは、2016年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第474号に掲載した記事に加筆修正しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】