ピンチをチャンスに変える
工場でも研究開発
研究開発の力
本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年3月号に寄稿したコラムです.
ピンチをチャンスに変える
工場でも研究開発
研究開発の力
本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年3月号に寄稿したコラムです.
ISO9001の第5章「経営者の責任」5.1「経営者のコミットメント」には,以下の要求事項が書かれている.
(以下略)
このコミットメントをどう解釈されているだろうか.
ISO規格をJIS化する際に「Commitment」という単語を適切に日本語化することができず,そのまま「コミットメント」と訳したのであろう.
英和辞典には「Commitment」以下のように説明されている.
委任,委託,約束,責任;収容(令状);傾倒,献身,コミットメント
グランドコンサイス英和辞典
しかし,何となくしっくり来ない.「Commitment」という概念は日本語にぴったり来る言葉はなさそうだ.
そこで「Commitment」を示す言葉として「命がけの献身」を提案したい.
この言葉を思いついたいきさつがある.こんな故事を読んで思いついた.
(心を育てる月刊誌「ニューモラル」(モラロジー研究所)
No.441(2006年5月発行)より引用)
いささか長文の引用で恐縮であるが,鬼塚青年の命を懸けた献身的行為が「乗客の安全をコミットメント」することそのものだと思う.
経営者のコミットメントは,約束をすることではない.
持てるリソースを全てつぎ込んでも果たすべき「命がけの献身」である.
中国の工場で現場のリーダ達によく「Always the Better」という話をしている.
彼らに「Best」と「Better」とどちらがいいか?と質問する.
現場のリーダと言っても,作業員上がりの班長さん組長さんクラスが主なので学歴も中卒程度で英語で言っても分からない.従って『最好(Best)』と『更好(Better)』とどちらがいい?と中国語で聞くことになる.
彼らは当然『最好(Best)』が良いという.
言葉上は『最好』がいいかもしれないけど,本当は『更好』の方が良いのだと説明している.
彼らは「?」という顔をしているが,改善には『最好』はない,いつも『更好』だ.今日も『更好』明日も『更好』改善には終わりはない.『最好』だと思ったとたんに改善はストップしてしまう.
という話をすると,彼らの顔から「?」が消えて「!」となる.
もちろんこの話をしただけでは現場のリーダ達が「毎日改善」に燃え上がるということはない.さらに実践を通して「毎日改善」『毎天更好』を実感してもらう必要がある.
少しずつでも良いから改善を継続すること.リーダ達の仕事は作業+改善であることを理解してもらう.これが実践できれば強い現場力が手に入るであろう.
原田則夫師の経営手法にはそれぞれユニークな名前がついている.
「金魚鉢理論」もその一つだ.
金魚を飼うためには金魚鉢の水を時々入れ替えてやらなければならない.
それも上から大胆に入れ替えてしまう.
これを組織の人財活用に当てはめたのが「金魚鉢理論」だ.
組織の中の人財は時々入れ替えなければ,組織の停滞してしまう.
それも人財の上のほうからごっそり入れ替えてしまわなければならない.
以前ご紹介したように原田師の工場では,人材登用制度が機能している.
文員(スタッフ職員)に欠員ができると社内公募がかかる.一つの職位に対し数百人の一般作業員が,一斉に応募してくる.
数百人の応募者は試験と面接(原田師は「人民裁判」と呼んでいる)により選考された職員は晴れて文員になることができる.
この仕組みがきちんと機能するためには,常に人材が流動していなければならない.
上位職がいつまでも居座っていると,その組織の2番手3番手の職員は昇進のチャンスがなく,閉塞感を持つ.閉塞間の漂う組織には,より挑戦的な仕事,成果を期待することができない.
組織が停滞してしまい成長が止まってしまう.
金魚鉢の水が古くなり,金魚たちが酸欠状態になるのと同じだ.
このような状況を打破するのが「金魚鉢理論」である.
常に組織の中の人財を上位職から入れ替えてしまう.それにより組織の2番手3番手の職員にチャンスが回ってくる.彼らはよりモチベーションを上げて自己成長に取り組むことになる.
つまり下からどんどん人財が成長してくる.そして上位職が入れ替わることにより更に成長のチャンスが得られる.
職員一人ひとりの成長が組織の成長となり,会社全体の成長を促進することになる.
それをサポートするのが「金魚鉢理論」だ.
2008年の4月に原田師の工場を訪問した時は,副社長を辞めさせていた.
我々は,原田さんが引退された後はこの副社長が社長として経営の舵取りをするものだと思っていた.
しかし彼を別の会社に転出させ,私を大いに驚かせた.
この人事により,
部長職にある人たちはみな「次はオレの番だ!」と張り切る.
転職した副社長はより高い給料を得られる.
転職先の会社は優秀な人財を手に入れることができる.
三方良しの経営手法である.
「品質保証」とは
品質保証部門の仕事を誤解されている人が多いと感じている.
製品の検査.顧客クレームに対する対応.これらも品質保証部門の仕事の一部ではあるが,これが全てではない.
品質とは製品またはサービスを実現する全てのプロセスの品質の総積である.受注から始まり出荷までの各プロセス品質の一箇所でもゼロがあれば,全体の品質はゼロになる.
従って品質保証とは各プロセスを担当する部署がそれぞれにその品質を保証することだ.
品質保証部が製品やサービスの品質を保証するわけではない.品質保証部の仕事は,各プロセスの品質保証の確からしさを保証することである.
品質保証には社内各部署の『和衷共济』が強く要求される.
検査で品質保証?
以前中華系の工場に,不良多発の改善を要求したことがある.このとき経営者は,すぐに高価な自動検査装置を買ってきて,これで不良は無くなると言った.
笑い話のようだが,現実の話だ.ここまで極端でなくとも似たような事例はいくらでもある.
半田ボールがたくさん出るので,外観目視の検査員をたくさん導入して半田ボールを除去する.
組立て後の寸法不良が発生するので,全数ノギスで寸法チェックする.
これらの検査による品質保証は,必ずコストがかかる.その結果,利益が出ないから取引を中止させて欲しいなどといってくるベンダーさえある.
中には,工程内不良が○○ppm以下なので,全数検査から抜き取り検査に移行するというメーカもあった.一見理にかなった発想のように見えるが,○○ppmしかない不良をどうして抜き取り検査で見つけられるというのだろうか.
プロセスで品質保証
前出の例では,半田ボールが出ないようにする.部品の公差設計を見直し,組立てによる工程能力を改善する.などの原因に対する改善をすることにより,各プロセスが品質保証できるようにすることが必要だ.
検査に頼らず,各工程での作り込みによる品質保証を確かにすれば,品質とコストがトレードオフになることは無くなるはずだ.
こういう状態を実現できると,工程内の検査を見直し,更にコストダウンすることも可能になる.
時間がかかる検査を組み合わせ,半自動機を導入する.検査のナガラ化を実現することにより,工程削減し作業員を省人化できる.
過去の事例では三つの検査工程と1つの作業工程を,一台の半自動検査機でナガラ化した.これにより作業員三人を省人化できた.
本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年2月号に寄稿したコラムです.
原田則夫師の経営哲学を実現するためのマネジメントの心得14か条を紹介したい.
こちらもどうぞ
原田則夫さんの工場