月別アーカイブ: 2011年4月

第十章:記録する文化

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル

強い組織を作るためには,まず強い個人を育てる必要がある.そして個人の経験,能力を個人だけに帰属させるのではなく,組織に蓄積させなければならない.マニュアルはそのナレッジマネジメントのひとつだ.
SOLID社のマニュアル文化
SOLID社には,膨大なマニュアルがある.これらのマニュアルは,原田氏の指示で作られたものでも,専門のマニュアル作成者が作ったものでもない.
従業員がそれぞれに,仕事を通して得た成果の記録が,マニュアルとなっている.原田氏は,日々の仕事の成果をまとめ,記録することを教え,それを組織風土としただけだ.
仕事をまとめる作業により,仕事の意義・成果を再確認することが出来る.つまりもう一度仕事を追体験することになる.追体験により,仕事中には得られなかった,気付きを得ることもある.記録をすることにより,2度以上仕事をしたのと同じ効果が得られる.
仕事による成果・自己成長を記録することにより,自己成長を可視化出来る.可視化することにより,目標に対する自分の現在位置が明確となり,更なる成長への計画と準備を持つことが出来る.
各自が仕事を通して得た暗黙智を,記録することにより形式智とする.この形式智の集まりがマニュアルとなる.
会社への貢献よりも,自己成長を重要視する企業文化により,各自が競って自分の成果をまとめる.そのようにして,実際に仕事をしている従業員がマニュアルを作成している.ISOのために準備したマニュアルよりも,ずっと血の通ったマニュアルになる.
原田総経理指導語録
SOLID社には,総経理秘書が,2代にわたって原田氏の指導内容を記録した「原田総経理指導語録」がある.これも原田氏の指示で作ったものではない.秘書自らの意思で記録したものだ.
原田氏が何をどう指導したかをまとめることにより,その意味をより深く考察することになる.そして指導現場に立ち会っていない者も,その知識を共有することが出来る.個人の知識,経験を組織の知識,経験として蓄積することになる.
始まりは日記
この様な記録する文化を組織風土とするために,新入社員は,毎日日記を書くことが義務付けられている.ただ日記を書きなさいと指示をしても,簡単には出来ない.毎日継続させるために,日記を直属の監督者に見せることになっている.
日記を書くことにより,新しく覚えた仕事,心の変化を記録することになる.日記を書く作業は,自己成長を確認することだ.
そして監督者は,新人の日記に対し必ずコメントを書く.このコメントは,新人が正しい方向に成長することを促進し,その成長を承認することになる.
この交換日記を3ヶ月続けることにより,日記を書くことが習慣になる.ただ日記を書くだけの習慣ではない.一日の仕事を振り返り,明日の計画を考えると言う習慣が身に付く.ただ漫然と日々を過ごすのではなく,成長を促進する習慣だ.
日記に書く内容には,ルールがある.嫌なこと,他人・組織に対する不満は書いてはいけないことになっている.不満を押さえつけるためではない.不満がノートに残り,潜在意識に残るからだ.
人は意識・潜在意識にあることしか達成できない.組織や他人に対する不満は他責だ.原因を他責とすれば改善することは出来ない.ただ言い訳をするだけになる.成長とは,自分が変わることだ.自分に起こる事全ての原因を自責とすることにより改善が可能となり,自分を変えることが出来る.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2011年5月号に寄稿したコラムです.
原田式経営哲学勉強会を開催しています.
詳細は,ブログ:原田式経営哲学をご参照ください.

第九章:看える化

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル

問題を解決するためには,まず問題を特定しなくてはならない.つまり問題解決能力と共に,問題発見能力が必要だ.再生が必要な工場は問題点が山ほどあるが,それが従業員に見えていない状態となっている.
ボーリングと仕事
原田氏の部下指導には独自の切り口があった.例えば「看える化」を教える時に,「ボーリングと仕事のどちらが楽しいか?」と質問する.当然ボーリングの方が楽しいに決まっている.ではなぜボーリングの方が楽しいのか?この問に明確に答えられる人を,私はまだ見たことがない.
原田氏の指導はこうなる.
ボーリングはその成果が,スコアとして直ちに見えている.自分の得点が今何点で,相手が何点.相手に勝つためには後何点取れば良いか.こういうことがスコア表の中に全て見えている.
しかし仕事の方はどうだろう.往々にして,仕事の成果は時間が経たなければ見えない.今日やった仕事が成果として見えるのは,一ヵ月後と言うことがよくある.
従業員の立場からすれば,毎日こつこつと働いて,ようやく年に一回の考課で評価され,給与が上がる.こういう状況では,なかなかモチベーションを維持することが難しい.楽しいとはいえないだろう.
しかし毎日の仕事の成果を看える様にする.そうすれば,毎日仕事の達成感がある.またはその日に達成できなかったことを,次はどう改善し達成するか挑戦できる.この様に毎日の達成感と,挑戦意欲を看える化によって引き出せば,仕事もボーリングと同じように楽しいはずだ.
何でも看える化
原田氏が経営するSOLID社では,何でも看える化してあった.
購入部品の価格を看える化することにより,部材購入担当者と,納入業者の癒着を防止する.同時に価格を公開することにより,新規納入業者からの提案が多く集まる.事実SOLID社は,OEM顧客が羨ましがる様な,ベンダーリストと,その価格表を持っていた.
全従業員の給与も看える化してある.これにより,公平感・公正感が高まる.むしろ逆に,全従業員の給与を公開しようと決めた瞬間に,不公平・不公正な処遇は出来なくなる.
設備の営繕が行われている時も同様に看える化をする.作業現場には,誰がどんな仕事をしていて,いつ完了するか,必ず看板が出ている.
「原田則夫指導語録」にも,看える化に関する指導が記録されている.総務部においてあるカラープロッターが故障しているのを見つけた原田氏は,すぐ関連メンバーを集め指導をした.カラープロッターの横には,故障中であることと,修理完了見込みの日にちを書いた貼り紙があった.これだけでは足りないと言うのが原田氏の指導だった.
カラープロッターを使おうと,総務部まで来た人は,貼り紙を見てカラープロッターが使えないことを知り途方に暮れる.カラープロッターは社内に1台しかないからだ.貼り紙に,プロッターを持っている近隣の印刷屋さんの電話番号を書いておけば,途方に暮れることはない.
要は「看える化」も,相手の要求を理解し,サービス精神を発揮しなければならない.
看える化は見える化にあらず
ところで既にお気付きと思うが,私は「看える化」と表記している.「見える」「視える」「観える」「診える」ではなく「看える」と書いている.それは,一生懸命観察したり,注視したりしなくても,対象の方から看板の如く目に入って来る様にする,と言う意味をこめたつもりだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2011年4月号に寄稿したコラムです.
原田式経営哲学勉強会を開催しています.
詳細は,ブログ:原田式経営哲学をご参照ください.