トイレ掃除の効能


 相前後して2人の友人から「そうじ資本主義」と言う本を紹介された。

そうじ資本主義
書籍名:そうじ資本主義
著者:大森信
出版社:日経BP

紹介してくれた友人の一人は、本人も中国工場でトイレ掃除をしている。初めは従業員から『精神病』と言われたそうだ。しかし継続しているうちに、中国人幹部が手伝う様になり、全従業員で掃除をする様になった。
その結果、生産性は4倍となった。最近は、掃除を見せて欲しいと、他の工場から見学に来る人までいる。

トイレ掃除と言えば、イエローハット創業者の鍵山秀三郎氏が有名だ。
鍵山氏は創業時から社長自らトイレ掃除をしている。最初の10年間はだれも手伝わなかったそうだ。社長がトイレ掃除をしている横で、用を足して行く職員すらいたと言う。それが今では「鍵山トイレ掃除道」は社内のみならず、公衆便所を清掃する会ができ、国内から全世界に広まっている。

鍵山氏は、哲学者・ショーペンハウエルを引用し、物事が成功するまでには3段階あると言っておられる。
第1段階は「嘲笑される」
第2段階は「反対される」
第3段階は「同調する」

初めは従業員から『精神病』とバカにされる。それでも継続しようとすれば反対する。やらない理由を探す方がずっと楽だ。たいていの人はこの辺りで挫けてしまう。それでも継続すると周りから、同調する者が出て来ると言う。

大森氏の「掃除資本主義」では、欧米企業の経営観は「目的志向」と説明している。利益を上げることが企業の目的であり、目的に合致しない作業を減らし、目的に合致する作業を増やすと言う合理主義が貫かれる。従って掃除は外部に委託することになる。
一方日本的経営観は「手段志向」と位置づけている。掃除や5Sを大切にする。
掃除は直接目的に貢献はしないが、大切な事だから一生懸命にやる、と言う姿勢だ。

目的志向の合理的経営は、利益を上げるためにはリストラも辞さない。むしろリストラをすれば、株主から評価され株価が上昇したりする。しかしこの合理主義が万能であるかと言うと、そうでもない。前出の友人の工場は、総経理自らトイレ掃除をすることにより、生産性を4倍にし結果的に利益に貢献している。多くの日本的経営の企業も同様の成果を上げている。この成果は、合理主義では説明がつかない。

では、なぜ手段志向型経営で成果を出すことができるのか?
経営者、経営幹部から末端の作業員までが、掃除と言う一つの作業を毎日共有する。手段を共有することにより、目的を共有する土壌も出来上がっているのではないだろうか。

目的志向型経営が合理的に見えても、全従業員が目的を共有しなければ無意味だ。手段志向型経営で、全従業員が手段を共有していれば、自然と目的の共有が出来るのではないだろうか。

当然企業には、社会的な存在目的や経営理念は必要である。これは「目的志向」だ。しかしそれを支えているのは「手段志向」による経営者と全従業員の連帯と考えれば、日本的経営の素晴らしい側面が見えて来ると思える。

index_s「そうじ資本主義 日本企業の倫理とトイレ掃除の精神」


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】