受け入れ検査の偽造


 第337号のメールマガジンで、JR北海道のデータ改ざんニュースから、工場内の同様な事例を紹介した。

先週は、顧客監査時の顧客指摘事項に対する改善対策として決めたルールが守られない、と言う事例をご紹介した。

今週は、受け入れ抜き取り検査で、規定通りに検査が行われていなかったと言う問題について、どう改善したかをお伝えしたい。

受け入れ検査部門の問題点は以下の通りだった。
板金部品の受け入れ検査記録を見てみると、いわゆるAQL検査による抜き取り検査をしているはずだが、各ロット2個分のデータしか記録されていない。
作業員に理由を聞いてみると、記録用紙に抜き取りサンプルのデータを書くスペースが無いので、代表値(最初のサンプルと最後のサンプル)だけを記録していると言う。
その説明を聞いて気が付いたが、作業員一人で検査出来る物量以上のサンプルを検査しなければならない様になっていた。作業員は、AQL基準には従わず、各ロット2個だけ検査して作業を間に合わせていた。

デスクトップPCに内蔵される電源ユニットの金属シャーシの受け入れ検査だ。物が大きいので、生産に合わせて一日に3回分割して納入される。しかも毎日10品種ほど納入される。従って、抜き取り検査は毎日30回ほど実施することになる。一ロットから80個とか120個を抜き取りサンプルして測定する。
各ロットのサンプル数を平均100個とすれば、3,000個のサンプルをそれぞれ、受け入れ検査手順書に指定された測定ポイントが平均10カ所とすれば、測定は全部で30,000ポイントとなる。一日10時間検査をしたとして、1ポイントを1.2秒で測定しなければならない。作業は測定だけではなく、外観目視検査、検査結果の記録、サンプルを取りに行くなどもあり、絶対に不可能だ。

シャーシの寸法が不良で、工程内で不良となる事は無かった。
工程内で問題になるのは、ほとんど変形による組み込み不良だ。
受け入れ検査でロットアウトになるのは、品番間違いなどの問題だけだ。

実際には、受け入れ検査を手抜きしていても何も問題は発生しない。しかし、組織の中に不問律のダブルスタンダードがある事を許してはならない。これを是としてしまえば、品質管理は無力となる。

この問題を改善するために、検査員を増やすと言うのは現実的ではない。
金属シャーシの受け入れ検査員だけで10人必要と言うのはナンセンスだ。

寸法を測定するのが仕事ではない。少ない人数でも、部品の品質を保証出来る様にすれば良いのだ。

・受け入れ検査の測定ポイントを見直す。
・AQL方式の検査方法を見直す。

シャーシは板金プレスで出来上がっている。ほとんどの寸法は、金型が正確に設備にセットされていれば、問題ないはずだ。正しく金型がセットされている事を確認するための測定ポイントととする。

AQL検査方式が万能である訳ではない。受け入れ検査のサンプル数を5,6個とし工程管理図方式で管理する様にした。

ベンダーの工程を確認し、最初のロットで工程能力指数を確認する。こういう事をやれば、受け入れ検査の抜き取り個数や、測定ポイントは減らす事が出来るはずだ。
こうして時間を節約する事が出来れば、しばしば工程内で問題が発生する別の部品の受け入れ検査を強化する事も可能になる。


このコラムは、2013年12月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第339号に掲載した記事に加筆しました。

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