続・顧客工場監査


 先週のコラムで顧客工場監査について書いたら、読者様からメッセージをいただいた。

※F様のメッセージ

いつも有意義な情報をありがとうございます。毎週愉しみにしております。
今回の工場監査の件は目からうろこでした。確かに毎回小職がてきぱき回答していて成功したと思っておりましたが、監査する側の心理を考えておりませんでした。今後は現場リーダの教育機会の側面もあるとの観点から対応します。筆者の方の体験の豊富さがにじみ出ている良い建議でした。重ねてお礼申し上げます。

過分なご評価をいただき、恐縮しております。
私の場合は、顧客監査を受けるだけではなく、仕入先の監査・指導もしていたので、両方の心理が分かっているだけだと思う。

経営者や品証幹部が全て答えるのではなく、現場の作業者が正しく答えることができれば、ちゃんと教育が行き届いていると安心出来る。そしてそれが、たまたま答えられたのではなく、仕組み化してあるのが分かれば、もっと安心していただける。

例えば、倉庫の保管期限を質問された時に、その場にいた作業員がすらすらと答えたら相当安心していただける。そして、新人でもちゃんと答えられるね、と理解してもらえたらもっと安心していただける。この「なるほど」と思っていただくのがコツだ。

倉庫の事例では、倉庫の目立つ場所に保管期限の規定を貼り出しておく。○○類:6ヶ月、△△類:1年、□□類:2年などと倉庫保管期限を貼り出す。別途有効期限がある材料は、直接袋や瓶に書いておく。そして、マニュアルの文書番号も小さく書いておく。有効期限が切れた時の手順を聞かれたらば、この文書番号を頼りに、マニュアルを持って来て説明すれば良い。

マニュアルの内容が覚えられずに、適当に答えてボロを出すのが最悪。
マニュアルに書いてあります、と答えてマニュアルを見せることができれば、合格だが、ここでモタモタする様だと「大丈夫か?」と疑惑が湧く。

マニュアルに書いてあります、と答えるだけではまだ駄目だ。顧客監査官が一目見てどのように管理しているのか分かる様に「見える化」しておく。こうしておけば、現場の作業員がたとえ新人でも、正しく判断出来る。このレベルになれば、日々のオペレーションが安心出来る様になる。これが、監査を通してレベルアップすると言う事だ。

当然作業者は、日本語は理解出来ない。通訳を通して答えさせる訳だが、そこまでやる価値がある。

昔指導していた生産委託先で、顧客監査を受けた際に材料倉庫の管理についてお叱りを受けた。部品が入っている段ボール箱の蓋が、開封したまま開いていたのだ。倉庫担当の課長に対策を検討させたら、毎日班長が自主巡視をして改善する、そして週末は毎日の自主巡視報告書の内容を確認する為に自分で巡視する。と言う改善案を出して来た。
実はこの課長は、どちらかと言うと人の面倒見は良いが、管理が上手く出来るタイプではなかった。その彼が自分で改善案を考えて来た。黙ってやらせてみたが、何週間経っても蓋が開いた段ボール箱がゼロにならない。

毎日の自主巡視報告書には、蓋が開いている段ボールを見つけるたびに、封をしましたと書いてある(笑)これでは改善ではなく処置をしただけだ。蓋の封が出来ない理由を考えて対策をしてごらんと教えたら、キッティング台車にガムテープを乗せる場所を作った。

この改善を生産委託先の工場長にも知らせ、倉庫の課長は成長し始めたから良く見てやってくれとお願いしておいた。その後彼は、隠れていた能力をどんどん開花して行った。今は自分で工場を経営している。

これも監査をきっかけにして、人が成長した事例だ。


このコラムは、2014年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆したものです。

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