人材と組織力


 先日中国ローカル企業の経営者と話をする機会があった.1時間余り話をした.彼は日本の技術に興味があり,いろいろなことを質問された.

彼は,
台湾企業が日本的経営をよく理解しており,中国企業の先を進んでいる.
中国人,台湾人,日本人の違いは何か.
と言うことに興味があるようだった.

残念ながら,私は台湾人経営者で日本的経営を本当に理解している人にはお目にかかったことが無い.
私が知っている台湾人経営者達は,必要な能力・人材は外から調達すれば良いと思っているフシがある.確かにその方が即効性があり,企業の力を増すことが出来るかもしれない.

しかし本当にこのやり方で組織の力を高めることが出来るであろうか?

営業力,技術力,管理力を買われて外から「金の力」で招聘された人材は,確かに高い能力を持っているだろう.しかしその能力は個人のものであり,その人材を雇っても組織力の向上にはならない.

なぜなら,その人材が持っている能力は彼の労働市場価値を差別化し,高給を得るための源泉だ.彼にとっての「金のなる木」を簡単に別の人間に与えることは無い.

例えば,営業能力を高めるためにどこかのトップセールスマンを引き抜いたとしよう.彼は自分が持っていた人脈を活用し,短期的に営業成績を上げることができるだろう.しかしその人脈は組織の力にはならない.新たに職を得た会社で更に彼の「個人人脈」を拡大し,また別の会社に出てゆく.

つまり「金の力」で得た人材は「金の力」で他に買われてゆくのだ.

台湾人経営者は,優秀な人材を雇用している間に得た売り上げ利益と,彼に支払った報酬の差額がプラスであれば良いと諦観しているように見える.しかし彼が退職する時には元からあった顧客ごと,出てゆく可能性もある.

この様なことを繰り返していても,組織の力は一向に強くならない.
即戦力を期待して雇った人材は,戦力は発揮するが組織力は高められない.

経営理念をしっかり定め,人材を育成することにより組織力を高める経営を目指さなくては,いつまで経っても優秀な人材を探すことしか出来ないだろう.


このコラムは、2010年5月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第154号に掲載した記事に加筆しました。

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