B787、遠のく空 原因特定難航


 ボーイング787型機のバッテリートラブルは、運航停止命令を受けて世界中の同型機が1カ月近く飛べなくなる異例の事態になった。日米両国が調査を続けているが、原因は不明だ。国内2社の欠航は約2千便に上り、「夢の飛行機」と呼ばれた最新鋭機の視界は晴れない。

 「認可時の想定より不具合の発生率が高い」

 米国家運輸安全委員会(NTSB)の7日の会見で、ハースマン委員長はこう指摘した。ボーイングは、バッテリーが発煙する確率を1千万時間のフライトで1回以下と想定していた。だが実際は、就航から10万時間以内に日本航空機と全日空機でトラブルが2回起きた。

 NTSBは、日航機の出火は電池内部のショートが発端だとしている。電池のプラスとマイナスがつながってしまう現象だ。ショートで発生した高熱が電池の化学反応を促し、さらに高温になる「熱暴走」が起き、並んでいる電池に広がった。ただ、ショートの原因はわかっていない。

 高松空港に緊急着陸した全日空機のバッテリーでも熱暴走があったことがわかっている。日本の運輸安全委員会は、製造元のGSユアサ(京都市)に持ち込んで分解を続けるが、詳細な調査は難航している。

 熱暴走の原因は何か。東京理科大の駒場慎一准教授(電気化学)は「過充電を挙げる。リチウムイオン電池は容量を超えて充電すると、溶けた金属リチウムが内部でとげ状になり、プラスとマイナスの電極をつないでしまってショートを引き起こすという。

 リチウムイオン電池は国産充電池の7割を占め、電気自動車やノートパソコンにも使われている。燃えやすい有機溶媒を使っているので過充電を防ぐ保護回路があるのが一般的だ。駒場准教授は「保護回路がうまく機能しなかったか、保護回路の限界を超えた瞬間的な電圧がかかった可能性がある」と指摘する。

(asahi.comより)

 メルマガ293号で取り上げた,B787機のバッテリー焼損事故の続報だ.

焼損事故の原因究明は相当難しい.

出火元(バッテリィ)の特定は比較的簡単だが,なぜバッテリィが出火元となったかを,現物の解析から特定するのは,困難な場合が多い.「陽極と陰極がショートし,熱暴走が発生した」と原因特定が出来た様に見えても,ではなぜ陽極と陰極がショートしたのか?と更に原因特定を進めようとすると,証拠が残っていないことが多い.全てが燃えてしまっている.

つまり陽極と陰極がショートしたというのは,まだ現象レベルであり,原因ではない.

電池内に残留または混入した金属粉によるショート.
電池内の絶縁セパレータの絶縁不良によるショート.
充電電圧が高いことにより,リチウム金属が析出することによるショート.
などショートが発生する原因の他にも,電池の短絡による内部温度上昇による焼損も,事故後には見分けがつかなくなっていることが多い.

例えば,電源コードを束ねている結束帯「ねじりっこ」の芯は金属製の方が作業性がずっとよい.しかしプラスチック製の芯材を使った物が一般的だ.それは,万が一火災事故が発生した場合に,金属芯を使った結束帯の場合は針金だけが燃え残るからだ.燃え残った現物調査で,電源コードの結束帯が火災の原因と特定されては困るので,作業性が悪くてもプラスチック芯の結束帯を使う.

焼損してしまった物から,事故の真因を分析するのは困難な作業となる.
通常は,可能性のある原因を列挙し,再現実験またはシミュレーション実験をすることになる.

例えば充電回路の不良が原因であっても,焼損を受けており,特定するのは難しい.

製造時の検査記録から機能的に問題がないと分かっても,出荷後に問題が発覚することはままある.例えば,出力電圧を決定する部品が,出荷後劣化し電池に高電圧がかかっても,証拠はすべて焼けてしまっている.

今回の事故は,電池,充電回路,保護回路のメーカがそれぞれ別のメーカになっている.これも原因解析を難しくする要因となる.


このコラムは、2013年2月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第296号に掲載した記事に加筆しました。

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