遠きを見て計る


200年程前の日本に二宮尊徳と言う農業指導者がいた。
子供の頃から働きながら勉学に励み、指導者となった人だ。日本の小学校には、薪を背負って歩きながら本を読んでいる二宮尊徳少年の銅像が必ず有った。

今回は、二宮尊徳の
「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」
と言う言葉を紹介したい。

目先の利益を追う者は困窮し、将来を見据える者は富む、と言う意味だ。
秋の収穫を見据えて、春に種を蒔くのと同じ様に、数年先を見据えて品種改良に取り組む。100年先を見据えて植林をする。と言うのが二宮尊徳が説いた考え方だ。

私の年長の友人は、永らく中国で金属加工の仕事をされて来た。
多くの日系企業と同じ様に、安価な労務費と豊富な出稼ぎ労働者を活用するために中国に進出された。しかし彼は、中国の発展とともに経営環境が変化するはずだと考え、十数年前に経営幹部を集め新規ビジネスの検討を始めた。
当時始めた飲料水の製造販売が、今大きなビジネスに育っている。

労働者の最低賃金が400元台の頃だ。最低賃金が当時の4倍以上になっている。当時と同じ経営をしている人達は、撤退、もしくはより労務費の安い国に転出せざるを得なくなっている。

中国は、マーケットとしての魅力がある国となった。上述の飲料水ビジネスを任されている友人は、更に次のステップを見据えて仕込みをしている。

別の角度で説明しよう。
車の運転が上手い人と、たびたび事故を起こす人の違いは、どこにあるだろう。
運動神経の良い人が運転が上手いと言う訳ではない。前方を走っている車を見て運転している人と、2台先、3台先を走っている車を見て運転している人の差が、運転の上手い下手を分けていると、私は考えている。より前方の車の動きを見ていれば、その先にある危険を予知出来るはずだ。

そう考えると、乗用車より座席の高いワンボックス、更に高いバスやトラックの運転手がより有利となる。つまり視線が高い者が有利となる。

時流に乗ったビジネスをしている人は、運が良かった訳ではない。高い視線を持ち遠くを見ていた人が、準備をすることができる。チャンスは平等に来ている。準備ができていない人はそのチャンスを活かせない。準備ができている人だけが、チャンスを運に変えられる、と言う事だ。

高い視線を持ち、遠きを見て計る、経営者として大事な姿勢だ。


このコラムは、2014年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第374号に掲載した記事に加筆したものです。

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