まず信頼する事


 「まず信頼すること」松下幸之助の言葉だ。
松下幸之助が親族3人で自宅で電球ソケットの生産を始めた時に、2名の従業員を雇った。新たに雇った従業員に電球ソケットの材料のつくり方を教えた。誰でも手に入る材料を混ぜているだけだ。他に漏らせば、競争相手がふえる。それでも身内ではない従業員に教えている。

まず従業員を信頼する事。人は自分を信頼してくれている人を騙したりしない、と松下幸之助は言っている。

出典:「人生心得帖」松下幸之助著

従業員を信頼すれば、それに応えてくれる。
従業員が悪い事をすると心配すれば、その通りになる。

マクグレガーのX理論、Y理論が一般に知られる様になったのは、1960年刊行の“The Human Side of Enterprise”(邦題「企業の人間的側面」ダグラス・マクレガー著)による。

松下が電球ソケットを作り始めたのは、1917年だ。心理学者より40年も早く人の本質に気がついていたと言っても良かろう。

未だに従業員を信じる事が出来ない経営者を何人も知っている。

有る日系の工場では、中国人従業員の管理を全て香港人幹部に任せていた。彼らの工場の出入り口には、従業員が製品を不正に持ち出さない様に常に保安係を配置している。この工場は従業員の規律が乱れており、中国人幹部クラスも日本人幹部の言う事を聞かなかった。

別の日系工場は、日本から持ち込んだ生産設備をコピーされるのを恐れ、設備の図面を中国工場にはいっさい置いていない。

電子部品を作っている中国企業は、材料の混合比を秘密にしており、作業要領書にも混合比率は書いていない。材料の製造工程も二つに分け、二人の作業員が混合した物を混ぜ合わせて完成させる、と言う徹底ぶりだった。実はこの工場の経営者は、日本の工場に勤め、材料比率を盗んで来た。そのため自分の従業員も信じる事が出来なかったのだろう。


このコラムは、2017年7月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第536号に掲載した記事に加筆しました。

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