先週のコラム「まず信頼する事」にお二人の読者様からメッセージをいただいた。今週は続編を書いてみる。
松下幸之助は、従業員に対する「信頼」が重要だと説いた。
些細な言葉上の問題だが、私は従業員に対する「信用」が重要だと思っている。
「信頼」という言葉を分解してみると、「信じて頼る」となる。一方「信用」は、「信じて用いる」だ。つまり従業員や部下を信じて頼ってしまうのではなく、従業員や部下を信じて用いると言う事だ。
たびたびご紹介している私の工場経営の師匠・原田師は「犬の散歩」といっていた。犬を散歩に連れ出すと、好奇心に任せてあちらこちらと歩き回る。飼い主は、リードを持って犬が行きたい方向に任せ、後ろからついて行く。危ない場面でリードをちょっと引っ張ってやれば良い、と言う意味だ。
犬はどうも不当な評価を受けている様で、「○○の犬」とか「犬死に」などとネガティブな意味の表現で用いられる事が多い。「犬の様に働く」と言うと、主人の言いつけに従い盲目的に働くと言うニュアンスがある。しかし犬は好奇心を持ち、色々な事を調べながら散歩をしている。そしてそれを大いに楽しんでいる。仕事もこのように取り組めば、成果を上げる事が出来、仕事を通して成長する事が出来るはずだ。
極論すれば、従業員や部下に失敗させ、そこから学ばせる事が上司の役割だ。
しかし致命的な失敗をさせてしまうと、部下の心が折れてしまったり、会社に大きな損失を与える事になる。そう言う局面で後ろからリードをそっと引いてやる。これが「犬の散歩」の意味だ。
それを可能にするのは、上司が部下を信じて用いる事だ。
部下を信じる事が出来ず、失敗を恐れれば、全てを上司自身で仕事をせざるを得ないだろう。部下が数人しかいない時はそれでも何とかなる。しかし職位が上がり、部下が増えれば不可能になる。
部下を信用出来るのは、常より部下を育成しその能力を高めているからだ。育成とは座学ではなく、仕事を与え成果を出させる事だ。この過程で部下は、能力と自信を高める。部下が失敗するかも知れないと心配していれば、この境地には到達出来ない。
しかしむやみに部下を信用する事は出来ない。部下を育成出来ていると言う自分に対する自信がなければならない。つまり部下を信用すると言う事は、自分自身を信じる事だ。
従業員や部下を信用し、仕事を任せ能力と自信を高める。その先に「信頼」の境地がある、と考えている。
このコラムは、2017年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第539号に掲載した記事です。
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