無印良品のムジグラム


 文房具やガジェット好きの私は、日経トレンディと言う雑誌のPodcast番組を毎週聞いている。私の趣味の話しをこのコラムでは紹介する事はないが、先週の番組は、このコラム読者様にもシェアする価値があると思える。

先週の番組は珍しく、スタジオにゲストを招いてインタビュー形式だった。
そのゲストが、良品計画の松井忠三会長だ。
松井会長は、赤字転落した良品計画の社長に就任して1年でV字回復させた経営者だ。良品計画の業務マニュアルとして有名な「ムジグラム」を作り上げた人だ。

ムジグラムは、現在13分冊2,000ページになると言う。
業務ごとに、店舗ディスプレイ、接客、レジ清算などに分冊化されており、レジに近づいて来るお客様に、どの位置で挨拶をするか、目線は相手の目を見る、手にされている商品に目をやらないなど、事細かに書かれている。

こういうマニュアルは、人事部門の教育担当や、現場を離れた管理職が書ける物ではない。現場一線にいる人の気付きで出来上がったマニュアルだ。

松井会長が、このマニュアルが出来上がった経緯を話されている。
元々無印良品の社員は、先輩の仕事ぶりを見習って成長すると言う「経験主義」の育成を受けていた。そのため100人の店長がいると、100通りの店舗が出来る。
そしてその店長の指導を受けた人が店長になると、また少し違ったスタイルの店舗が出来る。

中には抜群のセンスを持った店長がいて、顧客に愛されるすばらしい店舗を作ることができる。しかし一方で、平均点以下の店舗しか作れない店長もいる訳だ。全員100点でなくても良い。まずどの店舗も80点以上にする。そのために「標準」を作る。それがムジグラムの始まりとなった。

私も常々言っているが、標準とかマニュアルは進歩を止める物だ。今日一番良い方法が、標準作業となりマニュアルに書かれる。従って標準作業、マニュアルが明日も一番良い方法であるとは限らない。むしろ日々改善が行われ、明日は更に良い方法に変わって行かねばならない。

ムジグラムは、現場からの要求で常に改訂されているそうだ。2,000ページの内20ページは毎月改訂される。毎月1%、一年で12%変わることになる。
多分初版のままのページは1ページもないだろう。

こういうマニュアルが有れば、人財の流動は怖くはない。
新人が即戦力となる。ノウハウが人ではなく組織に残る。この様な状態に到達すると、店舗間の異動、職種の異動を大胆にすることができる様になる。

松井会長は、人事異動が人を育てると言っている。仕入れ担当だった役員と、販売担当の役員を入れ替える、などと言うコトを簡単にやってしまう。
これは人の成長ばかりではなく、組織の風通しを良くする役割も有る。
例えば製造部門一筋で出世して来た部長と、営業部門一筋の部長は、大概仲が悪い(笑)各々が部門の利益を代表しているから、部門間の調整などが上手く行かなくなる。部長を入れ替えてしまえば、双方の都合が理解出来、お互いに助け合うことができる。

我が師匠・原田師も、社内のジョブローテーションを制度化していた。
役職者はその職位によって一定期間しか同じ職位にいられない様になっている。
つまり製造係長は3年しかその職位にいられない。3年以内に別の部署に異動するか、課長職に昇格しなければならない。課長職も部長職も同様だ。
こうする事によって、中国人組織にありがちな部門の壁は一切なくなる。

松井会長のもう一つの人財育成のコツは「修羅場」だ。
たった一人で海外店舗に赴任した者は、異文化環境の修羅場の中で必死に経営をする。この経験が人を一回りも二回りも大きくする。帰任した時に、周りの同僚・部下からも尊敬の眼差しを受ける。これによって、周囲の人財も修羅場に飛び込んで行く覚悟が出来る。

ぜひ松井会長のお話を参考にされていただきたい。私は既に5回聞いた(笑)

週刊日経トレンディ
第367回「ゲスト登場!『無印良品の、人の育て方』とは?」2014/10/6

こちらは松井会長の書籍。

『無印良品の、人の育て方 “いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす』

『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』