このブログの読者様なら皆さん「スマイルカーブ」をご存知だと思う。
1970年代に、反戦の象徴として日本で流行った黄色いスマイルバッチを覚えておられるだろうか?あのニッコリ笑った口元の半円弧カーブをスマイルカーブと呼んでいる。そんな昔の事は知らないぞ、と言う方は、Facebookのスマイルマークを思い出していただきたい。
スマイルカーブの縦方向に価値の高低を示す軸を当てはめる。左右方向には、モノ造りの工程を示す軸を当てはめる。
左端を原料生産をする川上産業、右端を直接消費者と向き合っている川下産業、その中間を川中産業とする。
そうすると川上産業と川下産業の付加価値が高く、川中産業の付加価値が低い、と言うコトを示すカーブとなる。いわゆる下請け企業と呼ばれる川中産業の付加価値が低いと言うのは、納得がゆかないかも知れない。しかし顧客である川下産業からは、無理な納期やコストダウンを迫られてもイヤとは言えない。
仕入先である原材料メーカからは売ってやると言われ、値上げを呑まなければ出荷を停めると脅かされる。
こういう状況から考えると、スマイルカーブ理論はあながち外れている訳ではなさそうだ。
横軸の取り方には、もう一つの説が有る。左端が開発設計、中央が製造、右端がサービスと言う商品実現プロセスの工程順に並べる方法だ。
この場合は、設計、サービスの付加価値が高く、製造の付加価値が低いと言う事になる。
どちらにせよ、川中産業の製造が一番付加価値が低いと言う理論だ。
お客様の大部分が川中産業であり、製造現場の改善をお手伝いしている私としては、余り心地よい理論ではない(苦笑)
なぜこんな話をしたかと言うと、週末に「カンブリア宮殿」で旭硝子を紹介した番組のアーカイブを見たからだ。
以前、バスを生産する中国工場の指導をした事が有る。倉庫に保管してあるバスのフロントグラスが粉々に砕けているのを見た。夏の暑い日に、気温が上昇し強化ガラスが割れると言う。
中国では、建材用の強化ガラスが突然粉々に割れてしまう事故が時々
り、新聞記事になっている。
多分材料の中に不純物が有り、それが原因となり周囲温度が上昇した時に、熱膨張係数の差により応力が一点集中で発生し、粉々に割れるのだろう。
当然世界トップクラスの旭硝子の製品では、こういう事は発生しないだろう。
こういう品質を「当たり前品質」という。良くて当たり前なので、顧客満足は大して高くならないが、品質が悪ければ一気に不満となる。
番組で紹介されていた旭硝子の商品には、厚さ0.05mmのガラスシート、金槌で叩いても割れないガラス、紫外線を遮蔽するガラス、熱を遮蔽するガラス、蒸気を当てても曇らないガラス、反射しないガラスなどが有った。
どれもこれも、消費者としてこんなガラスが有れば嬉しいと感じる商品だ。
旭硝子は、スマイルカーブ理論で言えば左端の川上産業に属する。
旭硝子が提供する原材料は、切断したり、研削したり、研磨する川中産業を経由し、川下産業で製品に組み込まれ消費者に届く。
旭硝子にとって、川中産業は顧客であり、川下産業は顧客の顧客である。
消費者はそのまた先の顧客となる。
付加価値の高い商品を顧客に提供しようと考えたら、顧客の要望を聞いているだけでは駄目だ。顧客の顧客、更にその先の顧客の要望に耳を傾けなければならない。これをCS(顧客満足)チェーンと呼んでいる。
旭硝子の商品開発は、消費者の潜在ニーズを満たす事を目標とし、顧客の顧客に商品提案をすることになる。その結果直接の顧客である、川中企業が売ってくれと言って来る。いわば、顧客の顧客を通り越して、消費者の心をつかんでしまえば、黙っていても顧客は注文をくれる様になる。
部品を生産し、顧客に納品している川中企業でも同じ事が出来るだろう。
顧客からいただいた図面通りに生産するのではなく、消費者の都合を考え部品開発をする。直接の顧客(購買部門)の要求だけではなく、製造部門、設計部門の要望を聞いて、提供する商品・サービスを改善する、こういう事を考えるとCSチェーンが出来上がり、なくてはならない仕入先となるはずだ。
これは「当たり前品質」を越えた「魅力的品質」になるに違いない。
このコラムは、無料メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載したコラムを加筆修正したものです。