自分を変える


 5Sを指導している工場で,久しぶりに経営トップとお話をした.いつもは,5S事務局を任されている品質部のトップと仕事をしている.

この工場は5Sを導入した時には,従業員が皆一生懸命やってくれグループ会社の中でもトップクラスの工場になった.しかしそれから暫くして,徐々に管理状態が崩れてきており,いくら発破をかけても導入当時の状態には戻らなくなってしまった.というのがこの経営トップの悩みだ.

各部署のトップの真剣度がまだ足りない.彼らのやる気を変えましょうという話をした.しかし彼は,いくら言っても変わらなければ,取り替えるしかないという心境になっているようだ.

もちろん経営者の方針について来れない人を,無理やり組織に残しておくのは,双方にとって良いことは何もない.

しかし私にはまだ経営トップ自身にも変わらねばならない余地があると思える.5Sが経営の基本であり,その結果業績という数字が出てくる.ということは理解しておられるようだが,まだ心底腑に落ちてはいないようだ.その証拠に,6回の指導でまだ一度も現場指導に立ち会っておられない.今回も指導前の30分ほど話をした程度だ.当然経営者としてしなければならないことはたくさんあるはずだ.しかし5Sが経営の基本だというのならば,5Sの指導に立ち会えないほど重要な仕事とは何であろうか?

「他人を変えることは出来ない.まず自分が変わらなければならない」
という話をさせていただいた.

人を変えれば,組織は変わる.しかし他人は変えられない.だから自分を変えなければならない.
この矛盾をはらんだ議論はなかなか理解し辛いであろう.

「読むだけで「人生がうまくいく」48の物語」という本にこんなエピソードがある.

首を痛めてずっと天井を見たままの患者のために,窓際のベットの病人が毎日窓の外の様子を話して聞かせていた.外を見ることが出来ない患者は,窓際の男が毎日語る話を楽しみにしていた.

ある日窓際の男が退院し,自分が窓際のベットに寝ることになった.
早速窓際の男から聞いていた窓の外の風景を見るのだが,そこには隣のビルの壁があるだけだった.

窓際の男は,自分を変え「絶望」(ビルの壁)の向こうに「希望」を見続けていた.それが隣に寝ていた患者の心にも希望を与えたということだ.

窓際の男は,他人を変えようとしたのではない,自分自身が見ているものを,絶望ではなく希望だと思うように,自分の心を変えたのだ.その結果首を痛めた患者も変わった.

経営者というのは,嵐の日でも雲の上に太陽あることを信じ,それを従業員に語って聞かせることが仕事なのだと思っている.


このコラムは、2011年7月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第212号に掲載した記事に修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】