旭化成建材、現場責任者の3割偽装 出向が大半、調査難航


 35都道府県の266件でデータ偽装を確認したと、旭化成建材が13日に発表した。残る確認作業を急ぎ、原因解明に努めるという。横浜市のマンションで傾きが発覚してから1カ月。偽装が次々に明らかになり、各地の関係者に不安が広がるなか、新たに別の大手業者の偽装も判明した。

記事全文

(朝日新聞電子版より)

 杭打ち工事のデータ偽装に関して、当初は特定の現場責任者の問題という論調で説明されていたが、予想通り業界全体に波及する問題だったようだ。今の所、データ偽装がどの程度あったのかを中心に報道されている。報道の受け手である一般市民の関心は「ウチのマンションは大丈夫か?」と言う所にあるのでやむを得ないとは思うが、なぜデータ偽装が行われたかと言う点を調査し、業界全体が改善しなければ安心は出来ない。

杭打ち工事の現場責任者は下請け企業からの出向者であり管理が困難、という論調の記事が目立つ。「管理が困難」と言うのはデータ偽造の原因ではない。
「現場監督者が出向者だから管理が困難」と言うのは因果関係としては成立する。しかし管理が困難だからデータが偽造される、と言うのは論理的に成立しない。

このような原因調査は、原因を個人の問題にするのと同様に、有効な再発防止対策の検討を難しくする。

「なぜデータを偽造しなければならなかったのか」と言う点に迫らねば、真の原因は分からず、有効な再発防止対策を打つ事は出来ない。

データの記録に時間がかかる。
測定器の誤差が大きく、測定データに信頼性がない。
データ測定が難しく、測定し損なう事がある。
などの具体的な理由があるはずだ。そのため以前のデータを再利用される。

しかし個人的な想像では、もっと構造的な所に原因がある様に考えている。
マンション建設と言うプロジェクトは、土地の取得から始まり、基礎工事、建設、内装工事、入居開始となる。その間に平行して、分譲の宣伝広告、営業。自治体への認可申請。などなど非常に多岐にわたるビッグプロジェクトだ。

多分杭打ち工事の様な基礎工事は、プロジェクトのクリティカルパスになっているはずだ。杭打ち工事が遅れれば、プロジェクト全体が遅れる事になる。杭打ち工事の現場責任者には相当のプレッシャーがかかっているはずだ。

例えば、事前の地層調査に間違いや誤差があり、納品された杭では長さが足りない。こんな事が現場で発生したらどうなるだろう。杭を再発注すれば工期が遅れ、後工程を担当する親会社や元請けに迷惑をかける事になる。こんな事になれば、零細下請け業者は明日から仕事が無くなる。建築物の方は、マージンを加味した設計になっているはずなので、今日明日どうと言う事はない。しかも現実何事も起こらなかった。
このような経験を積み重ね、杭を再発注して工期を遅らせるよりは、データを偽装した方が利口だ、と言う業界文化が出来上がっていたのかもしれない。

日本的文化では、真相は明らかにならずとも当事者に自浄作用が働き、何事もなかったかの様に収まってしまう事もあり得るが、うやむやに解決しておくと対策は次の世代に引き継がれない。時代をへて繰り返し再発する事になる。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】