工程の可視化


 新聞を読んでいたら「研究中の遺伝子組み換え植物、外で育つ 名大、急ぎ回収」と言う記事が目に入った。

遺伝子組み換えの研究で作った植物が、実験室の外の自然界に漏出してしまい大騒ぎになった、と言うニュースだ。遺伝子を操作した自然界にはあり得ない植物が、実験室と言う管理された場所から漏出すると何が起こるか分からない。
不測の事態を予防するために、遺伝子操作をした植物や生物は、外界に漏出しない様に厳重に管理しているのだろう。

実験植物の種子がゴミや培養土壌と一緒に、外界に出てしまう可能性が有る。そのため、植物も土壌も高温高圧で死滅処理をしていると言う。

多分この死滅処理の過程に何か問題が有ったのだろう。
(1)死滅処理をしていない土壌を廃棄してしまった。
(2)死滅処理はしたが、設備に不調が有り、十分な死滅処理が出来なかった。
設備の不調には、設定ミス、故障、停電などによる障害などが考えられる。

(1)の潜在不適合は、我々製造業では「工程とばし」と呼んでおり、いくつも事例がある。
金属加工の熱処理が代表的な例だろう。熱処理前の製品と熱処理後の製品は見分けがつかない。
特性検査で見つけることができれば良いが、通常は破壊試験となり全数保証はできない。熱処理が寿命特性に影響が有る場合は検査に時間がかかり過ぎ、問題を見つけた時は出荷済み、と言う事態になりうる。

熱処理前、熱処理後を可視化することにより工程とばしを防ぐことができる。

「熱処理待ち」「熱処理済み」などの看板を使う、バーコードなどを使い工程管理をコンピュータ化する、などの対策が有る。
しかしこの対策が有効なのは(1)の場合だけである。

(2)の対策として設備のメンテナンスや稼働状況を見える化を実施している。熱処理投入時と完了時に設備の稼働状態を確認、チェックリストに記入などと言う作業がこれに当たる。

もっと簡単に出来る方法は無いだろうかと考えてみた。
一定温度以上になると色が(非可逆的に)変わってしまう塗料をテストピースに塗布し、製品と一緒に熱処理する。具体的には、熱処理に投入する時にテストピースを一緒に入れておく、熱処理完了後にテストピースの色が変わっているのを確認する。ロットごとにテストピースを保管すれば、品質記録になる。
塗料の変色閾値を温度×時間で調整出来ると万全だ。

こういう塗料が開発出来れば、相当需要があると思う。少なくとも名古屋大学は買ってくれるだろう(笑)

ところで名古屋大学は、今回の事故で全ての漏出実験植物を回収するため、市民にも協力を求めている。

しかしその前に、死滅処理がなぜ正しく行われなかったのか?(1)なのか?(2)なのか?を突き止め、それが波及している範囲を特定する必要がある。
死滅処理が正しく行われなかったのが、今回限りと判明すれば、今の処置で十分だ。もし設備の故障により死滅処理が正しく行われていなかったとすると、故障が発生した時を特定(いつまで正常だったかを特定)しなければ波及範囲が膨大になってしまう。

品質保証のためには、メンテナンス記録(品質記録)が重要だ、と言うのはこの様な万が一の事故が起きた時に損失コストを押さえることができるからだ。


このコラムは、2015年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第425号に掲載した記事に加筆しました。

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