京浜東北線脱線再発防止対策


 先週のニュースからに、京浜東北線で発生した工事用車両と回送列車の衝突脱線事故をご紹介した。

同様の事故は

  • 1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも発生。作業員5人が死亡。
  • 2003年10月、JR京浜東北線の大森─大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。

このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。典型的な「うっかりミス」による慢性的再発問題だ。再発防止対策が有効ではないため、期間をあけて慢性的に再発することになる。

この事故に対する有効な再発防止対策を検討する事を、先週のメルマガで読者の皆様に提案をした。お考えになっただろうか?残念ながら私に対策をメールして下さった読者様はお一人しか居なかった。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。
  • 工事用車両は車輪に非電導ため自動列車制御装置(ATC)が効かない。(ATCシステムは左右の線路を電気的に短絡することにより、車両の位置を750m間隔で確かめることができる)

この条件で、再発防止対策を考えてみよう。

このような問題が発生すると、一番気の毒なのは下請け業者だ。
事故で亡くなるのは下請け業者の社員であり、事故によってその下請け業者は指名業者から外されたり、一定期間出入り禁止となったりする。その結果倒産廃業となる事もあるだろう。
国鉄時代からの風習で下請け業者は、お上には逆らえないと言う体質が受継がれている様に思う。

以前の事故に伴い「点検を厳格にする」と言う対策をとってもJR職員は現場にすら居なかったと報道されている。

「うっかりミス」がきちんと防げないのは、なぜうっかりしてしてしまうのかにメスを入れずに、単純に点検を厳格にするなどとするからだ。うっかり点検を忘れる、と言うミスもあり得るはずだ。

点検で「うっかりミス」を防ぐためには、点検動作をしなければ、次の工程に進まない様にするくらいやらねば有効とは言えない。

本事例には上手く適合出来ないかも知れないが、一世代前のボーイング社の旅客機の扉には「うっかりミス」防止対策がしてあった。(先週乗ったB787にはこの仕掛けがなくなっていた)

航空機の扉は、着陸後開ける時にマニュアルモードにしなければならない。オートモードのまま扉を開けると、脱出用シュートが出てしまうからだ。そして離陸する前に扉を「うっかり」マニュアルモードのまま締めてしまうと非常事態の時に扉を開けても脱出シュートが出ない。
マニュアル・オートの切り替えをうっかり忘れない様に、扉の開閉レバーを操作する時に必ずマニュアル・オート切り替えレバーに付いているピンを抜く動作が必要になっている。こういう仕組みが点検動作による「うっかりミス」防止だ。製造現場では「ポカよけ」と呼んでいる。
ただ点検を厳格にすると言っても有効とは言えない。

しかし本事例の本質的対策は、点検ではない。ATCを有効にすれば良いのだ。トラックを改造した工事用車両だから、左右の車輪間で電気的導通がない、だからATCが効かない。その通りだろう。しかしATCが効かない理由を考えても意味はない。ATCさえ効けば、今あるシステムで衝突回避は出来るはずだ。

トラックのタイヤのままでは、左右の車輪で導通を取るのは難しいだろう。
しかしタイヤは、鉄道用の車輪に変更されている。チョットした工夫で左右の車輪の導通が取れ、ATCのシステムが働くはずだ。

※上海のN様の再発防止対策。
ポイントは「下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した」という部分かなと思いました。

つまり、「うっかり手順を間違えてしまった場合」でも事故が起きないような対策を取る事がポイントです。なぜなら「下請け業者」というのは自社ではないので、場合によって変わる可能性があります。

現下請け業者へ対策を講じても、何かの原因で下請け業者が変わってしまい、仮に今回の事故の教訓が伝わらないようなことがあれば再び事故が起きてしまうからです。

私が注目したのは、「ATC」です。本来ATCはうっかり手順を間違えた時に作動する装置のはずです。それが工事用の車両だけ対象外になっていることが問題だと感じました。

「ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外」
この対象外を対象内にする改良を加える事を義務化すると再発防止に繋がるのではと思いました。

満点をさし上げてよい回答だと思う。
私も(多分)N様もJRの仕事をした事はないので、ピントがずれているかも知れないが、今あるシステムで上手く行く方法を考えるのが良いと思う。
問題が発生するたびに個別に対応する再発防止対策を考えると、再発防止対策だらけとなり、管理しきれなくなる。例外処理を作らない様に再発防止を考えるのが肝要だ。


このコラムは、2014年3月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第352号に掲載した記事に加筆しました。

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