警報スピーカーにトイレ紙 運転士が音量絞る? JR西


警報スピーカーにトイレ紙 運転士が音量絞る? JR西

 JR西日本は6日、列車の緊急時に自動で非常ブレーキがかかる「緊急列車停止(EB)装置」で、運転席に設置されたスピーカーに紙を挟み、音量を絞る「細工」をしていたケースが計10両で見つかったと発表した。同社はスピーカー音をうるさく感じた運転士がかかわった可能性が強いとみており、
再発防止に向けて指導を徹底する。

 JR西によると、EB装置は2005年4月の宝塚線(福知山線)脱線事故を機に設置が義務づけられた。列車の運転席に設置され、1分間にわたって運転操作が行われないと警報音が鳴る。その際に運転士が確認ボタンを押すか運転操作をしないと、5秒後に非常ブレーキがかかる仕組みになっている。

 スピーカー音を小さくする「細工」が発覚したのは、山陰線で8月31日に発生したトラブルが発端だった。

 島根県東出雲町のトンネル内で、普通列車のEB装置が作動し、非常ブレーキがかかり停止した。運転士が「スピーカーの警報音が小さく気づかなかった」と報告。車両基地で調べた結果、スピーカー(直径約7センチ)のふたと本体の間にトイレットペーパーが挟まれていた。

 JR西が同じスピーカーの構造を持つ1594両を一斉点検したところ、山陰線のほか、和歌山線や山陽線、呉線などの車両9両でも同様の細工を確認。各路線の運転士約1300人から事情を聴いたが、だれが細工をしたのかは判明していないという。

 8月18日には、24両の電車で自動列車停止装置(ATS)の作動を知らせるスピーカーにテープが張られていた問題が判明したばかり。JR西は「安全に重大な影響はないが、運転室内の機器類の適切な取り扱いについて指導を徹底する」としている。

(asahi.comより)

 先週はメンテナンスのミスで事故が発生した事例をご紹介したが、今週のニュースはもっと深刻だ。まだ事故にはつながっていないが、今回の場合は「ミス」によるものではなく、「故意」によるものだからだ。

このニュースを見ると、かなり根が深そうだ。
今年3月31日に発生した事故から時系列に並べてみるとこうなる。

3月31日:JR西日本が、運転士が意識を失うなどした際に自動的に非常ブレーキをかけるEB(緊急列車停止)装置が働かない状態で、列車を運行していたことが31日わかった。2年間で少なくとも4件あり、このうち1件は装置そのものが取り外されたまま18日間運行していた。

8月4日:JR西日本が、運転士に急変があった場合に自動で非常ブレーキをかける緊急列車停止(EB)装置の電源が切れた状態で電車を運行していた
ことがわかった。定期点検時のミスが原因とみられる。今年3月にもEB装置を取り外したまま運行するなどの不備が4件発覚し、再発防止策を講じたはずだった。

8月16日:ATSは、ブレーキをかける必要性などを運転士に知らせ、必要な操作をしないと、自動的にブレーキがかかる。6月に運転士から「ATSの音が小さい」と申告があり、該当する320両を調べたところ、103系24両で、スピーカーにテープが張ってあるのが確認された。

JR西日本はこの事件に対して、真剣に再発防止を考えていないとしか考えられない。

3月31日の問題発見時に、ナゼ今回のスピーカの音量調整を防げなかったかが、問題だ。EB装置の電源が入っていないという事故から、EB装置の作動を知らせるスピーカにも「未然対策」を広げるべきである。

EB装置に電源が入っていない(EB装置そのものがない)という状況によって失われる機能は、

  • 警報音を発生する
  • 4秒後に緊急ブレーキをかける
    • である。

      これら失われる機能に対しどう対策をするのか、という視点が必要だ。
      素人である私にも、スピーカの点検は、3月の時点で行うべきものと分かる。

      8月16日になって、スピーカにテープが張ってあることに気がつき、再点検をしている。しかし9月4日にスピーカにトイレットペーパーがはさまれているのが発見されている。

      8月16日に見つかったのはATSのスピーカであり、9月4日はED装置のものだ。
      スピーカが違うので8月にはED装置のスピーカの点検は出来なかった、というのでは情けない。機能から類推すれば、容易に水平展開できたはずだ。

      こういうのをもぐら叩きと言う。

      もぐら叩きとなってしまう真因はかなり深いところにあると見ている。
      そもそもED装置が導入されたのは、2005年4月の宝塚線(福知山線)脱線事故を機に06年、国土交通省が省令を改正しED装置の設置を義務づけたからだ。

      ED装置、ATSともに運転手がブレーキ操作をしなかった場合に、自動的に緊急停止をかける機能を持っている。そのため毎回事件を発見した際の記者会見では「ATSがあるので事故にはつながらない」とJR西日本は釈明している。

      このような考えが根底にあり、毎回の対策が本気になっていないと推測して
      いる。

      例えば、ED装置が実装されていない状態で運転したという不具合が見つかった時に打った対策は、

      • メンテナンスで取り外す時は文書で報告する
      • 運転席天井にあるED装置の電源スイッチを確認するだった。
      • その対策は現場では守られず、8月4日にも再び、ED装置の電源が入っていない状態で運行していたのが発覚している。

      本気で対策するならば、作業者や運転手の注意力に頼るのではなく、ED装置が動作していなければ運転が出来ないように改造すべきだ。
      当然それにはコストがかかる。コストがかけられなければ、運転台にあるED操作スイッチのそばに、ED装置の電源と連動したパイロットランプを付けておくだけで、運転手の負担を増やさずに点検をすることが出来たはずだ。

      たぶん現場の全員が、国土交通省が出してきたED取り付けという宝塚線脱線事故の対策を信じていないからだろう。現場からかけ離れた「空論」で作られた対策は、効果がないばかりか、現場の統率も得られない。

      あなたの工場に、

      • なかなか改善できない不良。
      • 何度対策を打ってももぐら叩き状態になっている不良
      • 客先報告のため苦し紛れに再発防止を作ったが作業員が従わない。

      そんな問題があれば、ぜひ見直していただきたい。


      このコラムは、2010年9月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第170号に掲載した記事に加筆しました。

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