先週のメルマガにも書いたが、最近サムスンがリチウム電池、スマホの爆発問題、韓国大統領に絡んだ収賄容疑などで、注目を集めている。
そんな折りにサムスンに関する書籍を読んだ。
「サムスンの決定はなぜ世界一速いのか」吉川良三著
サムスンと言うと、日本メーカに勤める現役の半導体、液晶エンジニアを週末に韓国に招き日本の技術を盗み取ったという印象があり、個人的には好きになれない。この書籍を読むときも、どちらかと言うと著者の李健煕(イゴンヒ)会長(今収賄容疑で話題となっている李在鎔(イジェヨン)の父親)礼賛が鼻に付き気持ちよく読めなかった(笑)
確かに韓国企業にしろ中国企業にしろ、成長著しい企業の意思決定速度は速い。それらの経営トップは即座に意思決定し、事業の舵を切る。一方日本企業は、稟議書を何度も書き直し、結局何も決定せず、行動を起こさない。そんな印象がある。
サムスンは大企業とはいえ、オーナー経営者の企業だ。比較される日本企業はサラリーマン経営者の企業だ。意思決定の速度の違いはある程度やむを得ない、と考えながら読み進めていた。
しかしサムスンを内部から観察した著者の指摘には納得出来る部分が多くある。
「品質は顧客が決める」李健煕会長の言葉だ。
日本品質を誇りに感じるが、それが売れなければ意味はない。開発途上の市場には、その市場にあった品質、価格がある。ここで言う品質とは、工程内品質の事ではない。顧客要求品質の事だ。
工程内品質は、高ければ高い程コストは安くなるはずだ。しかし顧客要求品質を高めれば、コストが上がり販売価格も上げざるを得ない。顧客が要求する品質に対しては、コストをかけるべきだが、顧客が要求していない品質にコストをかけても意味はない。
世帯収入が月額1万円程の家庭で子供に100円のボールペンは買わないだろう。
書き味や最後まで使える様な品質を実現しようとすれば、ペン先端の鋼球の加工精度や、インクのグレードを上げなければならないだろう。それらを犠牲にしても1本10円で買えるボールペンを作らねば市場は取れない。
マーケットイン、ニーズオリエントという言葉はさんざん聞くが、我々は日本品質という呪縛から逃れられないのではなかろうか?
マーケットインとは、市場に合わせた製品を生産する事だ。そのためには多品種少量生産をする事になる。サムスンが生産する携帯電話モデルは数万品種あるらしい。多品種少量生産は本来日本的モノ造りの得意技だったはずだ。
マーケットインが可能になるのは、市場の要求を理解する事がスタートだ。サムスンはターゲットの国々に社員を深く潜入させる。中国に赴任している韓国人の多くは家族帯同で地域に根ざして生活をしている。サムソン電子に電源を納入している企業の指導をしていた事があるので、何人もサムスン電子の社員を知っている。殆どの人は韓国語以外に複数の外国語を話す。(水原のサムスンを訪問したときは韓国語しか話せない人もいたが・笑)
中国は既にローコスト生産国ではない。市場として捕え、マーケットインの製品を生産しなければならない。そのためにサムスンのスタイルを研究する価値はありそうだ。
このコラムは、2017年1月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第512号に掲載した記事です。
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