韓非子は性悪説という先入観念があり,今までまったく興味を持たなかった.しかし日本に帰国した折に,何も考えずに韓非子に関する文庫本を買った.長らく放って置いたが,最近ぺらぺらと眺めている.
韓非子の言葉にこんな説があった.
下君は己の能を尽くし
中君は人の力を尽くし
上君は人の智を尽くす.
自分の能力に頼るのは,下級のリーダ
人の力を活用するのは,中級のリーダ
人の智恵を活用するのが,上級のリーダ
ということだろう.
自分で何でもやってしまえば,部下が育たない.いくら高い能力を持っていたとしても,部下10人分の力を発揮できるリーダはいないだろう.従っていくら能力が高くても,それに頼っているうちは本当のリーダとは言えない.
部下の力を活用して,成果を挙げて初めてリーダと言えるだろう.
しかし韓非子はこのレベルでは中級のリーダだと言っている.
つまり部下にいくら力があっても,リーダの指示に従わせるだけでは,たいした働きはしない.命令・指示に従う部下のモチベーションは高くはない.部下の能力を,いかにしたら100%引き出せるかと,悩むことになる.
上級のリーダは,部下に自ら考えさせる.
自ら考えることにより,部下は成長する.そして命令・指示で動くよりは,自らの考えで動いた方がモチベーションは高くなる.この場合は,いかにすれば100%以上の能力を部下が発揮するかを,考えることになる.
この話をクライアントの中国人幹部たちに話してみた.
一人がこの話に異を唱えた.彼曰く;
100しか仕事が出来ない人に150の仕事を与えたら,仕事の質が落ちる,本人は疲弊する.良いことはない,と言う主張だ.
もっともに聞こえる主張だが,仕事に対する能力は仕事を与えることによってしか成長しない,と言うことを忘れているようだ.
100の能力の者に200も300も仕事を与えたらば,彼の指摘のようになるだろう.しかし少しがんばれば達成出来そうな目標を与える,そしてそれを達成することにより,部下は成長するはずだ.
その時に150の仕事をこなすための方法をこと細かく教えてしまうと,中級リーダと同じことをしていることになる.
このコラムは、2010年8月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第168号に掲載した記事に加筆しました。
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