今週は「ヒヤリハット」に続いてミスについてもう少し考察してみたい。
ミスにはいくつかタイプが有る。
- 無知ミス:知らない事により発生するミス。
- うっかりミス:知っているのに何らかの理由で発生するミス。
- 確信ミス:間違った理解により確信を持って起こすミス。
- 過信ミス:能力を過信することにより、回避不能となり発生するミス。
良いネーミングが思い浮かばなかった。ご容赦願いたい。
無知ミスやうっかりミスに関しては、上述したヒヤリハットの様に、有効な対策が有る。作業を定型化したり、ポカよけを入れることにより予防可能だ。
厄介なのは、確信ミスや過信ミスだ。間違った理解や過信により、基本動作を無視してしまうミスだ。チェルノブイリの原子炉メルトダウンは過信ミスによるモノだと言われている。臨界点を越えているのに、まだ制御可能と過信したために手遅れとなった。
30年前のJAL機御巣鷹山墜落事故は、圧力隔壁に修理時に確信ミスが有ったと、事故調査委員会は考えた様だ。
事故機の圧力隔壁交換修理時に、ボーイング社の指示書通りの修理がされず、上下の隔壁をつないだ箇所のリベット留めが不十分で強度が足りない状態になっていた。修理担当者の証言が得られず、調査報告書には記載出来なかったが、事故調査委員の見解は、修理作業員の確信ミスと判断した様だ。
つまり、作業担当者が指示書通りではパーツ間に隙間ができるため問題だと思い込み、隙間ができないように継ぎ板を切断したのではないか。その結果、リベット留めの強度が不十分になった、と推定した。
以前指導したメーカでは、コストダウンの為に保護回路を取ってしまった。
元エンジニアのオーナ経営者の「過電圧保護など必要ないだろ」の一言に誰も反論出来なかった。しかし寿命設計が不適切であり、部品の寿命により過電圧が発生。保護回路がない為に周辺を巻き添えにして破損すると言う市場不良が多発してしまった。この時点で相談を受けても手遅れだ(苦笑)
これらの事例には共通点が有る。局所的な問題点を、全体を理解せずに対処してしまうと、この様なミスが発生する。これは当人が確信を持ってミスを犯しているので、防ぐのは困難だ。
修理にはしばしば「現物合わせ」と言う異常行為が行われる。
ボーイング社の修理事例では、現物合わせをしなければならない理由を検証していれば、飛行中に圧力隔壁が吹き飛んでしまうなどと言う事故は発生しなかったはずだ。
設計変更は本来、変更による影響を検証しなければならない。上述の例では過電圧が発する可能性を漏れなくあげていれば、過電圧保護回路を取ると言うコストダウンはせずに、不適切な寿命設計を発見出来ていただろう。
この寿命設計ミスを修正して初めて、過電圧保護を取ると言うコストダウンが可能となる。ちなみに過電圧保護機能を外しても、2,3点の部品を減らす事が出来るだけだ。金額にすれば数円だ。
いずれの場合も、正規の手順から外れた場合に「標準手順」を愚直に実施する他に事故を回避する手段はないと考えている。
このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に修正・加筆しました。
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