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工場の匠を引き出す設計

 Tech-On!に連載されたGT-Rの開発ストーリィが最終回を迎えた.

無から新たにモノを作り出す.その過程にはいくつも感動がある.
この連載にも,私の心にぐっとくるところがたくさんあった.

連載コラムの中にあった「工場の匠を引き出す設計」という考え方を紹介したい.

GT-Rは以前のスカイライン派生車種としての位置づけを離れ,独自の車として開発された.
トランスアクスルレイアウト,デュアルクラッチ搭載のトランスミッション等,走ることに特化した車としてデザインされている.

通常量産車は,工場での生産性を考慮して設計される.
つまり工場での造りやすさに配慮し,公差を大きくしたロバスト設計をする.しかし走行性能に妥協を許さず,組み立て精度±0.5mmを要求したのだ.

顧客が感じる価値「走る楽しさ」を実現するためには,コストをかける.従来の同一規格大量生産の考え方とは方向性が異なる.

そこには工場への信頼があった.
GT-Rを従来にない突出した車とするために,工場の「匠」的要素を盛り込む設計をした.工場の潜在能力を引き出す.工場で働く人々の能力を信じ,それを極限まで生かすことが,設計者の使命であり,本来のモノ造りの姿だ.

コモディティ化した車を量産することは,売り上げの確保に貢献するだろう.売り上げが確保できれば,雇用も守れる.しかし価格競争から自由ではいられない.常にコストダウンの努力が強いられる.
モノを造れば造るほど貧乏になる.

しかし顧客の価値観に基準をおいた製品は,高額であっても顧客が喜んで購入する.ランボルギーニと言う会社は年間1,600台の車しか販売していないが,売り上げは348億円だ.高品質高付加価値の製品を少量だけ造る.

薄利大量生産のモノ造りは,設備投資に大きな資本が必要となり,損益分岐点が高くなる.景気の変動によりあっという間に赤字転落することになる.

GT-Rは量産車スカイラインのラインで混合生産されている.従って,2分のタクトタイムで生産しなければならない.この要求にきっちり応えたのが,工場の匠の力だ.


このコラムは、2012年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第260号に掲載した記事です。

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