トヨタ自動車・豊田社長は「今の日本(の労働環境)を見ていると雇用をずっと続けている企業へのインセンティブがあまりない」と指摘し、「現状のままでは終身雇用の継続が難しい」と発言している。
この発言に対し河合薫さんはご自身のメルマガ「社会の窓」で、終身雇用は悪とするのは三流経営者だと酷評しておられる。
ところで終身雇用という制度は本当に存在したのだろうか?
昔は大店の番頭さんとか、武家の家臣などは終身雇用で働いていたように思う。しかし大部分の雇用は期間限定の「年季奉公」だったのではなかろうか?
現代にも本当に「終身雇用制度」はあるのだろうか?
少なくとも私が就職した折に、会社から雇用契約書を提示された記憶はない。ただ、「違法行為、または会社に著しい損失を与えた場合は解雇要件になる」という誓約書にはサインした。逆に考えれば、会社に迷惑をかけなければ定年まで働かせてもらえる、というお墨付きとも考えることは可能だ。しかし、終身雇用というのは「制度」ではなく「慣行」と言った方がよかろう。
もともと日本では「人は育てて使う」という考えの経営者が多かったと思う。
それが、バブル崩壊以降人材をリソース(資源)と考え、材料費と同じ変動費として考える経営が急増した。
本来の日本的経営は人財をキャピタル(資産)として扱ってきたはすだ。設備などの資産は減価償却によって価値はどんどん下がる。一方人財という資産は仕事の経験を通して価値はどんどん上がる。
このように発想すると、長期間雇用(終身雇用)が有利に働く。
しかしバブル崩壊後に企業の考え方が変わっただけでなく、労働者の考えも変わってしまった。就職氷河期と卒業年次が重なった若者は、非正規雇用に甘んじるしかなく、自らの資産価値は自ら磨かなければならなくなった。優秀な人財は1社でじっくり成長するより、手っ取り早く企業を渡り歩きキャリアを身につけようとするだろう。
このような労使両面の経緯で終身雇用慣行が少なくなっているように思う。
しかし中国の労働市場は、終身雇用とは無縁と考えた方が良い。優秀な人ほど自らの資産価値を上げるために転職していく。優秀な人財が流出し、そこそこの人材ばかりが滞留するようでは困るが、ある程度の流動性があった方が組織は活性化すると思うがいかがだろう?
豊田社長の発言は「トヨタはもう終身雇用慣行をやめる」と言っているのではなく「労働市場の変化により終身雇用慣行を維持できなくなっている」と言いたいのではないだろうか?
いずれにせよ、優秀な「トヨタマン」が日本の産業界に転職すれば、国益に資するはずだ。
このコラムは、2019年5月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第825号に掲載した記事に加筆修正しました。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】