日本企業では、従業員の職務分掌が曖昧になっている、と言うのが特徴だと思う。曖昧になっているだけではなく、社内に職務分掌なる文書がない場合もある。ISO9001の要求事項にそって、各部署の任務と権限を決める規定はあるが職務分掌と言えるレベルにはなっていない。
心当たりのある方も多いと思う。
これが、駄目だと言っている訳ではない。むしろ職務分掌を明確に決めないことにより、組織の境目の仕事を、皆でフォローすることができていた。つまり仕事に垣根を作らないことにより、問題を発見した人が素早く対応する、そう言う体制が出来ていた。これがうまくいっていた時の日本流の仕事術と言ってよいだろう。
欧米企業の様に職務分掌がきっちりあると、他人の仕事に手を出せなくなる。問題を見つけても自ら手を出すのではなく、責任部署に連絡をすることになる。こう言う仕事の仕方をしていると、暇な部署、忙しい部署が出来てしまい、従業員は単能工化する。
しかし「日本流」が上手く行くのは、日本と言う特殊環境に依存している。つまり日本社会では、均一である事を要求され、多様性が排除されて来た。そう言う環境では職務分掌がなくても、阿吽の呼吸で各自が互いに補いあう事が出来る。
従って日本以外の国では、この方法は上手く行かない。
中国では、職務分掌をきちんと決めてやらないと、何をしてよいか分からない、職務分掌以外の仕事を依頼すると、給料を改定してくれと言ってくる。
こう言う経験をした事のある方も多くおられると思う。
きっちり職務分掌を決めてしまうと、組織間の境界に落ちてしまう業務を誰もやらない。しかし職務分掌を決めておかないと、職員たちは何をしたら良いか分からない。
こう言うジレンマに対して、以前私は、組織間の協調をのりしろの様にして職務分掌を広げてしまう事を何人かの経営者にアドバイスしたことがある。
職務分掌の中に、○○部門と協調して□□業務を行う、と入れてしまう。
また組織内も、課長を補佐して△△業務を行う、と言う具合に職員間の協調も入れてしまうのだ。
最近更に良い方法を考えついた。
「職務分掌を自分で書いてもらう」と言うアイディアだ。
突拍子もない様に見えるが、他人から与えられた職務分掌よりは自分で決めた職務分掌の方が、実施の意欲が高いはずだ。
自分で決めると言っても、好き放題に作れる訳ではない。会社の目的・目標、組織の目的・目標をブレークダウンしたモノになっていなければならない。しかしゼロから職務分掌を構築する必要はない。通常やらなければならない定常業務はあるはずだ。定常業務はそのまま職務分掌に入れる。組織間、担当者間に落ちてしまうような業務を自ら設定してもらう。
例えば、顧客クレーム対応の職員は、最低限やらねばならない仕事は、顧客クレームの管理(件数や回答納期の管理)と報告書の作成だ。しかしここに、製造部や技術部と協力して、再発防止対策の検討も入れられれば、この担当者は相当成長するだろう。
こう言う設定が自分で出来てしまう職員には、高い給与を与えても良かろう。
普通の職員にはいきなり自発的に職務分掌を定義せよ、と言ってもムリだ。こう言う場合は、上司と相談する中で誘導してやれば良い。
自分自身の職務分掌のできばえや、実際の業務達成度などを考課対象とする。
こう言うアイディアを「自主職務分掌精度」と名付けてみた。
一言で言えば、目標管理制度と職務分掌が一体化したような形だ。
この制度の一番の狙いは、職員の自主性をひき出し、パフォーマンスを上げることだ。
このアイディアを試してみた方は、ぜひ効果をご報告ください。
このコラムは、2013年8月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第321号に掲載した記事です。
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