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福島第1の原子炉調査ロボ停止 回収の見込み立たず

 東京電力は10日、福島第1原子力発電所1号機の原子炉の調査のために同日、原子炉の格納容器内に投入したロボットが、何らかのトラブルにより途中で停止したと発表した。停止前に得られたデータは取得できるが、ロボット本体の回収の見込みは立っていないという。

 東電によると、10日午前9時すぎにロボットによる調査の作業を開始。格納容器内への投入に成功し、内部の金網製の踊り場で調査していたところ、午後2時すぎに走行不能になった。操作用のケーブルが障害物に引っかかったことなどが原因とみられるが、詳細は不明という。

 格納容器内の画像や温度、放射線量などの情報について、東電は当初予定の3分の2程度は収集できたと説明している。溶けた核燃料があるとみられる地下階につながる入り口などが観察できたもよう。これらのデータはロボットからの通信により取得できる見込みで、週明けにも公開する。

 東電は13日にも格納容器内の違う場所の調査を計画していた。ロボットはもう1台あるが、予定通り作業を実施するかどうかは改めて検討するとしている。

(日本経済新聞電子版より)

 記事にあった調査ロボットの写真を見ると、研究開発のエンジニアが実験室で手造りした様なシロモノだった。これではミッション開始後僅か5時間で動作停止してしまうのもムリは無い。
勿論、調査ロボットは量産の工業製品ではない。1台、2台しか生産しない極微量製品を機械化生産ラインで生産することは不可能だ。手造りとなるのは当然だ。しかし実験室だけできちんと動作しても意味は無い。

研究開発者と生産設計者の役割は違っている。
極端な言い方をすれば、研究開発者は極力制約を取り払って、自由な発想で新機能を作り込む。生産設計者は、現状の制約条件の中で、不良無く効率よく生産出来る様に設計する。

大企業の場合は、これらの役割が分業化されていることが多い。
つまり研究開発者は、出来るだけ制約条件を取り払った状態で、機能・性能の実現を目指す。それを受けて、製造部門の生産設備などの生産能力に合わせて生産可能にするのが生産設計だ。通常研究開発者と生産設計者との間で擦り合わせをすることにより、製品としての完成度が上がる。

しかし、中堅・中小企業の場合は往々にして、一人のエンジニアが開発と生産設計の任務を担うことになる。更に工程設計もこなす、スーパーエンジニアであることが期待される事が多いはずだ。
大企業と言えども、今回取り上げた事例の様に、極微量生産の場合は一人のエンジニアが二つの任務を担うことはままある。

私は前職時代、世間的には大企業と言われる会社に勤務していた。しかし私が所属していた部門は、ビジネス規模が小さく、小規模の弱小事業部だった。
その結果、我々の組織には開発設計と生産設計の区別は無く、エンジニアは全員両方の役割をになっていた。

しかも、量産投入後垂直立ち上げを要求される製品だったため、短期間で生産を安定化させなければならない。製造部門(外注生産委託先工場)に引き渡した後は、ただただ生産すれば良いレベルにしておかねばならない。

そのために私たちがやっていたことは、設計レビューの徹底とノウハウの蓄積だ。これらを運用すると相乗的にレベルが上がって来る。つまり設計レビューのレベルを上げると、ノウハウの蓄積が加速する。ノウハウが蓄積されると設計レビューのレベルが上がる。

その結果、受注してから量産第一ロット出荷まで1ヶ月で終えて、お客様に感謝していただいたこともある。既存機種のモデルチェンジではない。顧客の新規製品に合わせて設計した専用製品だ。

設計部門は無く、日本本社やお客様から設計図面を受け取って生産をする工場も、この発想を持つことが重要だと思っている。試作段階から設計に関与し、量産までに生産や設計の問題を潰しておく。製品ライフサイクルがどんどん短縮されている。生産工場も製品投入リードタイムの短縮に貢献しなければならない。

私たちの設計部門では、直系生産子会社の生産技術者が常時1、2名一緒に仕事をしていた。設計業務が出来る訳ではないが、設計補助作業をやりながら、新製品の製造上の問題点や開発の進捗などを把握することができる。子会社の経営者からすれば、ムダなコストをかけていることになるが、若手生産技術者の育成効果や、開発状況の把握に利点があると考えていたのだろう。


このコラムは、2015年4月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第419号に掲載した記事です。

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グーグルでないと作れない日本語入力ツールを作った

 グーグルが12月3日に公開した文字入力支援ツール「Google日本語入力」が、大きな注目を集めている。Googleがクロールした大量のウェブデータ元にした豊富な語彙と、変換語を提案するサジェスト機能が目玉だ。

 開発を担当したのは、Google検索で検索語の誤変換を指摘する「もしかして」機能の日本語版を開発した、グーグルソフトウェアエンジニアの工藤拓氏と、同じくソフトウェアエンジニアの小松弘幸氏だ。2人は「20%ルール」と呼ばれるグーグルの社内制度を使い、勤務時間の20%を使ってGoogle日本語入力の開発を始めた。

(CNET Japanより)

 グーグルが日本語入力ツールを作るというのは意外だったが、考えてみればグーグルの強みである「検索」を活用した見事な発想だ。

グーグルでは毎日気が遠くなる量の検索が行われており、そのたびに日本語が入力されている。インターネットをくまなくサーチした日本語キーワードの蓄積がある。これらが日本語変換辞書のリソースとして役に立つ。

また検索時の「あいまい検索機能」も日本語入力ツールには有効だ。
例えば「クオリティーマインド」とか「クォリティマインド」などで検索をかけてみて欲しい。それらの検索結果には「クオリティマインド」という私のホームページがヒットするはずだ。

それよりも注目したいのは「20%ルール」という制度だ。
詳しくは記事だけでは分からないが、業務時間の20%は業務以外の「アンダーベンチ開発」をしても良いというルールだろう。業務以外の創造的な仕事を就業時間中にすることを許す「企業文化」がすごい。このような「遊び」からとんでもないヒット商品が出てきたりするものだ。

有名なところでは、3Mのポストイット、Sonyのウォークマンもエンジニアのアンダーベンチから出てきた製品だ。

こういうことができるのは研究開発・商品開発の部署だけではないはずだ。
工場の中のエンジニア、管理職も同じように業務以外の創造的な時間を確保すべきだ。

私が尊敬している経営者は、管理職の職位にあわせ一日のうちで、部長は4時間、課長は2時間というように「業務をしてはならない時間」を決めている。この工場では、その時間を利用して作られたマニュアル類が膨大な量となり従業員が次々と育つ環境の土台となっている。

今日のニュースからの気付き

  • 会社の資産を新しい目的に再利用できないか
  • 従業員に創造的な「遊び」をすることを推奨しているか

あなたの会社ではいかがだろうか?


このコラムは、2009年12月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第130号に掲載した記事です。

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設計ノウハウの蓄積

 最近,設計部門を持つ顧客の指導をする事が多くなった.
中国企業の指導が多くなった事も理由の一つだが,日系企業も製造部門だけではなく,開発部門を持つ工場が増えているように思う。

中国の低価格な労務費を期待して,製造コストダウンのために中国に進出した日系企業が多い訳だから,元々設計部門は日本の本社にしかなかった.それでも,日本向けの製品を製造する,日本で生産経験のある製品を中国で製造するだけならば,特に難しい事はない.

しかし,中国の市場向けの製品を開発・生産したい,日本国内では生産経験がなく中国で試作・量産をする,など生産の形態がどんどん変わっている.中国工場にも開発設計機能が必要になって来た.

中国企業同様,日系企業も中国での開発設計の品質保証に苦労をされている.設計で決まってしまう機能・品質・コストは,製造部門では改善しようがない.

設計ミスがあれば,品質・コスト・納期ともに深刻な影響を受ける.製造がちょっと頑張って残業をしたくらいでは,取り返しがつかない.

当然設計部門は,図面が製造部門に渡る前に,検証・レビューをしている.しかし現実的には,設計部門の責任者が,図面の承認欄にサインをした所で設計品質を保証出来る訳ではない.全ての設計品質を,責任者が確認出来る訳でもない.
設計者自身が設計品質を保証出来ていなければ,設計検証は,設計のやり直しと同じ時間を必要とする.

実は自分も,設計エンジニアだった頃同様な問題に直面していた.
開発初期には,ソフトウェア開発者のデバックのために,試作ハードウェアを提供しなければならない.我々ハードウェア開発チームは,試作機を提供し維持しなければならない.
「維持」とは奇妙な言い方かもしれないが、次のような事情による。
開発初期に設計したプリント基板には,いくつかミスが含まれている。ソフトウエアの開発スケジュールを確保するため、ミスはプリント基板への手加工で修正される.手修正箇所が原因となり,ソフトウェア開発中に試作機がしばしば故障する(苦笑)
その度に我々が呼び出され,故障箇所を見つけ修理をしなければならない.こう言う作業を繰り返していると,自分たちの開発作業の時間が無くなる,と言う悪循環に陥る.

こう言うネガティブサイクルから抜け出すために,我々がとった対策は,DRC(コンピュータによるデザインルールチェック)と設計チェックリストだった.チェックリストなどと言う超アナログ手法だが,大いに効果を発揮した.

技術試作機のミスが初版からほとんど無くなり,ハードウェアエンジニアの試作機の「お守り」作業がほとんど無くなった.その結果設計検証に十分時間をかけても開発期間は短くなった.ネガティブサイクルは,一気にポジティブサイクルに変換された.

設計チェックリストそのものが,設計ノウハウの蓄積となる.
この仕組みを上手く回すためには,チョットした工夫が必要だが,効果は高い.設計部門をお持ちの方はぜひ試していただきたい.


このコラムは、2013年5月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第308号に掲載した記事に加筆修正しました。

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