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薫蒸処理によるAlコンデンサの容量抜け

薫蒸処理に使われる臭化メチルによってAl電解コンデンサが腐蝕し容量が抜けてしまうと言う不良が発生したことがあります。
1999末に中国に輸入する貨物の木製パレットは薫蒸処理をすることが義務付けられました。当然木製パレットだけ薫蒸処理をすればよいので、パレットに乗っている貨物が薫蒸の影響を受けることはないはずです。通関の際に書類の不備か何かでパレットが薫蒸してないと判断され、貨物の上からジャブジャブと臭化メチルをかけられてしまったのだと思います。
普通こんなことが発生するとは想像もつきませんが、こういうことがあるのが中国なんです。
被害にあったAlコンデンサのメーカは、コンデンサの封止ゴムに含まれる臭素の濃度を外側と内側で比較し、臭素が外から来たことを証明しました。当然臭素で汚染されてしまうと、腐蝕・容量抜けが発生します。これは昔半田フラックスの洗浄剤に含まれる塩素で腐蝕・容量抜けしたのと同じ不良メカニズムです。
この不良は腐蝕が徐々に進行する為、工程内では発見できずお客様に製品が渡った後に不良が発生しています。
この不良は事前に防げなかったのでしょうか?
貨物を受け入れたときに梱包材料が湿っているなどの何らかの兆候があったはずです。受け入れ検査は部品の検査だけではなく、梱包状態も厳重に検査すべきです。梱包材料が湿っているなどの兆候が見られれば、まさか殺虫剤をジャブジャブかけられたとは想像できなくても、潮をかぶった可能性があることくらいは想像できるはずです。この場合、いくつかサンプルを抜き取り105℃96時間くらいの加速試験で問題を検出できたはずです。
また中国でSARSが流行したとき、工場の中に消毒剤をジャブジャブと散布していました。消毒剤にも塩素が含まれるので、部品の保管方法や消毒剤の散布方法を厳重に注意させました。
このような活動により不具合を未然に防ぐことができるのです。

プラスチック材料の難燃剤

すでに旧聞に属するかもしれませんが、LSIパッケージに添加した難燃剤の赤燐が原因でLSI内部でAgのマイグレーションが発生すると言う不良が世界中で大きな問題となりました。
実は1980年代、私がまだシステム製品の周辺装置のエンジニアだったころ同様な不良を経験しました。CRTディスプレイのフライバックトランス(FBT)でも同じようにエポキシの難燃剤として添加された赤燐が原因でレアショートが発生したことがあります。
お客様にシステムを納入してから1年とか2年でCRTディスプレイから煙が出ると言う不具合がぽつぽつ発生しだしました。ディスプレイの中の高圧を発生するFBTがレアショートして煙が出ると言う不良でした。不良として返却されてきたディスプレイからFBTを取り出しレアショートしている部分が見えるようにカットし、原因を探りました。XMAなどを使ってレアショートするようなものが混ざっていたのではないかとかいろいろな角度で調査しましたが、なかなか答えが見つかりませんでした。
結局、FBTの内部に絶縁の為に充填されているエポキシ樹脂に添加されている赤燐がFBT2次巻き線のウレタンを腐蝕させレアショートを発生させていたのでした。当時TVメーカはこの現象を知っており民生用のFBTでは、すでに難燃剤を赤燐から臭素に切り替え済みでした。民生市場のほうが量がたくさん出るので、不具合現象を先に体験することが結構あります。
LSIパッケージの場合は赤燐の存在によりAgマイグレーションを加速し不良に言った至ったわけで、不良のメカニズムが違うのですが、このニュースを聞いて若い頃の経験がよみがえりました。
多分臭素が最近の環境問題で使用できなくなり、赤燐をそのまま使ったのでは危ないので何らかの処理をした上で使おうとしたのだろうと想像しています。最近のFBTの絶縁材料の難燃剤は何を使っているのかちょっと心配なところです。

半田クリープ

プリント基板に挿入された部品リードの半田付け部分が、きれいに割れてしまう不良現象があります。これは工程内では発見できず、市場に出て時間がたってから発生する厄介な不良モードです。半田結合点に残留応力があると長い時間をかけて半田がクリープして割れてしまう現象です。温度で加速されます。
半田結合点が徐々に割れて行き最終的にはオープンになってしまいます。オープンになるだけなので通常は機能不全となるだけですが、深刻な不良モードになることがありえます。例えばACインレットのリード半田結合点が割れると、AC100Vとか200Vの電圧が切断されたり接続されたりするので、ぱちぱちと火花が出ることになり、徐々にプリント基板を焦がして最終的には発火の危険性もあります。
はじめてこの不良モードを経験したのは、プリンタの制御回路に使われているHICのリード半田付け部分でした。このHICは制御回路のプリント基板に半田付けされた上、HICの放熱の為にプリント基板とHICをプリンタ筐体に共締めする構造になっていました。従って半田付け時にHICが少し浮き上がったりすると、共締めする際にちゃんとプリント基板になじみますがリードの半田結合点に応力がかかったままとなります。この状態でお客様に出荷して1年位すると不良が発生しました。予防保全のためにプリンタを回収してHICを筐体に取り付けた状態で再半田付けし応力を逃がして対策としました。
これは作業方法上で半田結合点に残留応力が残ってしまった例です。最終製品だけを見てここに残留応力が残っているのを見抜くのは生易しいことではありません。しかしこの製品を作っているところをじっくり見ていれば、ここが危ないと容易に分かったはずです。
また重量部品を逆さ吊りにプリント基板に実装する、継続的に力がかかっている部分を半田だけで結合する、などなど設計的な要因もありえます。これはじっくり製品や部品を見れば簡単に見抜けるでしょう。
特に上記で述べたACインレットは不良モードが深刻になるので要注意です。ACケーブルの抜き差しによる力がダイレクトに半田結合点に伝わる構造になっていると、クリープだけではなく疲労破壊も心配しないといけません。じっくりと部品の構造を確かめなければなりません。
このように購入する部品や製品の構造をじっくり見る、OEM工場の工程をじっくり見る。自分たちで設計製造する部分も同じ手順でじっくり見る。ということが不具合を未然に防ぐ「予防保全活動」になると思います。
サンプリングで長期間の連続試験をしてみても、労多くしてこの手の不良モードを発見できないことが結構あります。