部下の素質


 部下の好ましい素質とは何か?そんな事を考えてみたい。

学歴や経験を重視する方もある。知り合いの日本人経営者は、中国人幹部職員は大学卒の学歴が必要と言っておられた。彼は学生生活で学んだ知識より、思考能力を重視しておられる。
別の台湾人経営者は経験を重視していた。台湾人経営者にはこの傾向が強い様に感じる。しかもピンポイントの経験を重視するので、同業者からの引き抜きや転職が多い。

ある日系企業の中国人副総経理と面談した事がある。話し方、立ち居振る舞いから知的な印象を受け、素質の高い人だと言う印象を受けた。面談後に彼女は作業者から抜擢され副総経理にまで昇格した人だと教えられた。
学歴も経験も無いところから力を身につけて昇格して来たのだろう。

こういう人に出会うとうれしくなる。なぜならば、私は部下の素質は学歴とか経験ではなく、別のところにあると考えているからだ。どんな素質かと言うと、はたと困ってしまう(笑)言葉にするとなんだか陳腐に思えるが、とりあえず「情熱」と言っておきたい。

昔指導していた台資工場で品証部門のQE(品質エンジニア)グループのリーダをしていた男の例で説明したい。QEグループの主な仕事は顧客クレーム対応だ。

当時、日系中国工場に納入する製品の工程内直行率が長らく1.6%前後で推移しており、なかなか1%を割る事ができなかった。顧客企業は、工程内直行率が1%を割るまでは生産のたびに検査員を派遣して、最終工程で全数再検査をする事になっていた。しかも顧客日本本社の品質指導者まで何度も出張に来ていた。そんな状態が1年以上続いており、プロジェクトチームを作って改善する事になった。

プロジェクトチームには、製造、生産技術、品証の各部門からリーダクラスを参加させた。生産のある日は、チームのメンバーは現場に張り付き、毎日生産終了後に当日発生した不良の原因と対策を検討した。

この活動の中で、いろいろな作業が発生する。
その作業の担当者を決める時に、メンバー全員にこの仕事は誰がやる?と質問する様にしていた。メンバーの中で「それは僕の仕事です」と答えるのはQEリーダだけだった。率先して手を挙げる者がいない時は「これは製造の仕事じゃないの?」と誘導する必要があったが、彼だけは別だった。
どの部門に属する仕事か曖昧な場合は「僕にやらせてください」と言える男であった。

彼以外のメンバーは自分の仕事の範囲を制限し、それは自分の仕事ではないと考える。「これ君やってみない?」と振ってみると、労働契約の規定まで持ち出し、それをやるなら給料も改定してもらいたい、とまで言う者までいた。

こういう人たちは、自分の仕事の範囲を制限する事により、経験のチャンスを捨てているとしか考えられない。自分に与えられた役割を、パフォーマンスよくこなす事で評価を得ようと言うつもりなのだろう。しかしこれでは、いつまで経ってもリーダのままだ。一つ上の仕事にチャレンジするから、経験値が増え、能力が増す。その結果職位も給料も上がる。

部下の一番重要な素質は、これ誰がやる?と言う上司の問いに、0.5秒で手をあげる事だと考えている。その結果仕事の範囲が広がり、経験、能力が身に付く。これを「情熱」と言う言葉にまとめてしまうと通じないかもしれない。
しかしこういう期待をきちんと部下に伝える事が重要だと考えている。


このコラムは、2015年11月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第448号に掲載した記事に加筆したものです。

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