犬から学ぶ


 私は食べ物に関しては,好き嫌いが全くない.唯一食べられないのは犬の肉だ.美味しくないから食べない訳ではない.騙されれば食べてしまうだろう.しかし犬の肉を食べた事を一生後悔することになると思う.私にとって,犬の肉を食べるという事は,人の肉を食べる事と同じだ.許されない行為なのだ.

生まれる前から犬と一緒だった.記憶にはないが,犬と一緒に縁側に座っている赤ん坊の頃に撮影した写真がある.それ以来私たち家族は,ずっと犬と一緒に生活してきた.

犬死,犬のように働く,○○のイヌなどなど,犬は不名誉な例え方をされる事が多いが,昔「犬に学ぶ仕事術」という本を読んで,得心したことがある.犬は何事にも興味を持ち,楽しんでいる,という著者の見解はすごく納得出来る.つまり犬のように働くというのは,楽しんで働くという事だ.

単身赴任の身では,犬を飼う事は出来ない.よその犬を見て楽しんでいる.オフスから見える中庭には,いろんな犬が散歩に来る.
その中の一頭の小型犬は,外に出してもらうと,一目散に走る.ただただ走る事が楽しくてしょうがないという風情で,爽快に走る.その走る姿を見ている私まで楽しくなる.

こんな風に仕事ができたらと思う.部下の誰かが,こんな風に仕事ができたら最高だが,まずは自分が楽しむ事だろう.自分が仕事を楽しんでいる姿を見て部下が楽しそうだと思ってくれたら,部下も変わるはずだ.眉間にしわを寄せて仕事をしていたのでは,誰も真似したいとは思わない.

最近昼休みに食事に出ると,散歩中のゴールデンレトリーバとよく出会う.彼女は,飼い主の言葉がわかるようだ.飼い主が歩道橋の階段を上がれ,と言うと一目散に駆け上がり,飼い主を歩道橋の上から見下ろしている.降りてこい,というとまた一目散に駆け下りて来る.
信頼関係があるから,言葉を越えたコミュニケーションでお互いの気持ちを理解し合っているのだろう.

犬と人間の間にも信頼関係が出来る.同じ人間同士ならば,話す言語が違っても信頼し合えるはずだ.

この一人と一頭の散歩には,もう一頭連れがいる.まだ生まれて2,3ヶ月の子犬だ.この子は,車の通行が激しい商店街をちょろちょろと歩き回る.ハラハラして立ち止まって見ていると,ゴールデンレトリーバが,さっと寄って来て子犬を歩道の方に導く.子犬をあやしながら,帰り道の方向に導いて行く.飼い主はその二頭を見ながら後ろからゆっくり付いて行く.

ゴールデンレトリーバと子犬は母子ではない.しかし彼女には,子犬を守るという意識がしっかりあるようだ.

しばし立ち止まって,犬たちを見ているだけで,いろんな事を教えられる.


このコラムは、2012年9月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第276号に掲載した記事に修正・加筆したものです。

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