見えない不良


 最近大規模な市場クレーム・リコール問題が多く発生している。
昔と比較して日本企業の技術力が低下しているのではないだろうか?私自身もこの様な危惧を抱いていた。技術力と言うのは設計技術ばかりではなく、生産に関わる現場の技術も含む。

バブル崩壊後、日本の製造業の多くが米国流の株主最優先の経営に傾倒し短期業績を追求した結果「現場力」を失ってしまったのが最大の原因と考えていた。つまり現場の職能工を、派遣社員や臨時工に置き換え人件費を変動経費化する事により経営を建て直そうとした。しかしその結果、現場に有ったモノ造りの力が消散してしまったのが原因と考えていた。

しかし、長谷部光雄氏の『「品質力」の磨き方』と言う書籍を読んで得心した。

『「品質力」の磨き方』長谷部光雄著

長谷部氏はリコーで複写機の開発をして来られた方だ。
彼の主張では、リコールの増加は技術力の低下ではなく、社会的要求の変化だ。

市場クレームやリコール問題が発生する製品は、製造過程では良品であった。工程内検査も、出荷検査も全て合格品だった訳だ。(この書籍が執筆されたのは2008年であり、昨今の検査データ改ざんなどの品質問題には触れていない)
出荷後の使用環境(温湿度や経年変化だけではなく、ユーザの使い方、期待等)の変化を予め想定出来なかった「見えない不良」がリコールの原因だと、彼は主張している。つまり現場力の低下が問題ではなく、開発設計力が市場要求の変化に追従できていない事が、リコール問題の根本原因だと言う。

設計の確からしさ、妥当性の確認が不十分だと言う事だ。もちろん設計評価に十分時間をかけていただろうが「見えない不良」(潜在不良)の想定が時代の変化に対して不十分だったと言う考え方だ。

「見える不良」「可視化で切る不良」は製造現場の力で排除出来る。しかし「見えない不良」を解決出来るのは開発設計工程だけだ。長らく開発設計に携わって来た技術者としての見識だろう。私も開発、品証を経験して来た者として、得心を得た。

書籍から判断すると、長谷部氏は「品質工学」(田口メソッド)に精通した方の様だ。近いうちに『「品質力」の磨き方』から得られた知見をシェアしたいと考えている。


このコラムは、2017年8月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第552号に掲載した記事です。

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