トヨタ「カイゼン」1銭単位 車1兆円改革の現場


トヨタ「カイゼン」1銭単位 車1兆円改革の現場

 国内自動車メーカーの業績が回復している。理由は円高修正だけではない。
貢献度が大きいのは“お家芸”でもある原価低減だ。自動車7社の2013年3月期の原価低減額は総額で約9500億円、営業増益額の65%を占めた。円高や石油危機など逆風に直面するたびにコスト競争力を磨き、復活を遂げてきた日本車メーカー。「カイゼン」の現場を追った。

 トヨタ自動車が昨年末、宮城県で稼働させたエンジン工場は一風変わっている。目を引くのはラインの「小ささ」だ。通常の生産ラインに比べ設置面積はわずか半分。業界ではエンジン生産の採算の目安は月1万8千基とされるが、同工場は1台の設備が複数作業をこなすことで約9千基でも成り立つ。トヨタは業界の常識を覆した。

 トヨタが前期に実施した原価低減は約4500億円。自動車7社の総額のほぼ半分を占める。「カイゼンはトヨタの魂」と言い切る豊田章男社長は、小規模・効率志向を世界各地の工場に広げる考えだ。

■ライン長さ可変

 昨年夏以降、稼働を始めたブラジルやインドネシアの車両工場では「アコーディオン・ライン」が活躍する。楽器のアコーディオンのように需要に応じてラインの長さを変えられるため、常に高い稼働率を維持できる。

 姿勢転換の契機は08年秋のリーマン・ショックだ。それ以前はまず大きな工場を構え徐々に稼働率を上げるやり方だった。だが需要が縮小に転じると固定費が重くのしかかる。09年3月期に4600億円もの営業赤字を出した原因となった。緊急事態を受けて生産担当の新美篤志副社長が全社に発した指令が「小さく生んで賢く育てよ」。その結果生まれたのが宮城県やブラジルなど
一連の新工場となる。

 デンソーやアイシン精機など数万社に及ぶ取引先も1円あるいは1銭単位で一斉にコストを削った。ときにはトヨタの担当者が入り込んで徹底指導した取り組みは「部品メーカーのコスト構造を変える一種の産業革命」(トヨタ幹部)だったという。

 グループ総出の努力で積み上げたコスト削減は今期見通しを含め5年間で約1兆5千億円。トヨタの国内生産はピーク時の07年(422万台)の8割程度だが、前期には5期ぶりに単独営業損益が黒字となった。

日経新聞電子版より

 まとめて沢山造れば、効率が良くなってコストダウン出来る。
こう言う発想の改善が通用したのは、消費が右肩上がりである事が保証された時代だけだ。同一規格製品を量産すれば、次々と売れた時代はもう終わった。今同一規格製品を量産すれば、同時に貧乏も量産することになる。

必要なモノを、必要なだけ、必要な時に造れる。
生産効率よりは経営効率、稼働率よりは可動率が求められている。

以前指導していた工場では、450本単位で電源ケーブルを生産していた。
この工場に、1本ずつ加工する生産方法を指導した。その結果、より利益率が高い産業機器用のケーブルを受注することができる様になり、新しい利益の柱を作る事が出来た。

電子部品工場では、ベルトコンベアで生産していたラインを分解再構築し、1/2のスペースで作れる様になった。その結果多くの品種を同時に生産できる事となり、今まで断っていた少量の受注も生産出来る様になった。

機構部品の工場では、工程ごとに作業エリアを分けていた。この工場では、生産の流れが見える様に一気通貫の生産ラインとした。その結果15日かかっていた生産リードタイムが、変更した初日から1.5日となった。

こう言う改善が、生産効率よりは経営効率、稼働率よりは可動率の改善だ。
今の時代、製造業に求められているのは、同じ物を大量に造る事ではなく、必要な物を、必要なだけ、必要な時に、フレキシブルに作る事だ。


このコラムは、2013年6月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第314号に掲載した記事です。

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