潜在不適合のキーワードをリストアップしようと思い、過去の不具合事例を調べてみた。こういう調査には、製品評価技術基盤機構の事故情報のデータ
ベースが役に立つ。
独立行政法人・製品評価技術基盤機構:ホームページ
昨年の第四四半期の事故情報レポートには233件の事故情報が報告されている。
このうち難燃材料・赤リンによる事故が41件ある。電気製品の事故件数は119件なので、電気製品の事故の40%は難燃材料・赤リンによる事故だ。
プラスチックに添加した難燃剤・赤リンによる金属マイグレーションで電極間短絡が発生し、発煙事故に至っている。
実は赤リンによる発煙事故は、随分前から断続的に発生していた。
TV受像機、コンピュータのCRTディスプレイモニターには2万ボルト前後の電圧を使っている。高電圧の発生にはフライバックトランスという昇圧トランスを使用する。フライバックトランスは絶縁のためにエポキシ樹脂を充填する。エポキシ樹脂の難燃性を上げるために、赤リンを使用していた。
赤リンが吸湿すると、巻線の絶縁を劣化させ高電圧がショートする。
通常フライバックトランスがショートすれば、保護回路が働き火災などの事故には至らないが、TV受像機内に堆積した埃などに類焼し火災になることもある。火災にならなくとも発煙などがあり、大問題となる。
1980年代にはこの問題を解決するために、各メーカは難燃剤を赤リンから臭素に変更した。しかしその後、環境規制(RoHS規制)により臭素が使えなくなり、赤リンが復活する。さすがに昔と同じように赤リンを使ったわけではない。赤リンをアルミ化合物でコーティングし、吸湿を防いでいる。
絶縁特性を要求しない用途には、このような処置は不要であり、従来通りの赤リン難燃剤もまだ生産している。従来通りの赤リン難燃剤を誤用した最初の大トラブルは、富士通製HDDの事故だろう。HDDに内蔵した制御用のLSIの封止材料に通常の赤リン難燃剤を使用し、回収事故を起こしている。2002年の事だ。
10年スパンで、同じ問題を起こしているような気がする。
「ほとんどの問題は再発問題だ」と言った人がいたが、なかなか失敗から学ぶことができないようだ。
このコラムは、2017年6月26日配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事です。
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