「コト」造りによる組織活性化


コト造りの力

書籍名:コトづくりのちから
著者:常盤 文克
出版社: 日経BP社



2009年にホンダはF1から撤退した.F1で培った車体設計や駆動制御などの技術を中・大型クラスのハイブリッド車や1000ccクラスの小型ガソリン車、小型ディーゼルエンジンなどの開発に生かすのが目的という.
ホンダファンとしては少し残念な決定だが,これでまた何かやってくれそうな予感がしている.
ホンダは68年にF1を「休戦」,経営リソースをマスキー法対応に絞り込んだ.
その結果米国のビッグ3に先駆けて低公害エンジンCVCCを開発した.

経営リソースを次世代環境対応車に集中することにより,今回もまた新しい地平を切り開いてくれることになるだろう.

「経営戦略とは捨てることである」とドラッガーは言った.
今要らないモノは捨てて明日のために経営リソースを集中する.
5Sの整理の考えかただ.

更にホンダは「祭」によりメンバーのモチベーションアップをするという組織文化がある.
つまり日々の業務「日常」の中に「祭」を持ち込むことによりメンバーの結束力ややる気を高める.
このような企業文化がホンダの中には「楽しい事をやろう」という合言葉で組織に浸透している.

ホンダに勤めている私の後輩は以前ソーラーカー開発プロジェクトに参加し,オーストラリアのレースにも参戦してきた.このようなプロジェクトが起きると,俺もやりたいと手を上げ職場を離れてプロジェクトに参加できる.

このプロジェクトで得られた技術も次世代環境対応車に活かされるのではないだろうか.
基礎研究を「コツコツ」やるのではなく,「祭」に仕立て上げて楽しくやる. 
技術の蓄積だけではなく,こういう企業文化の側面からの効果も大きい.

元花王会長の常盤文克氏は「コトづくりのちから」という著作の中で,「祭」を「コトづくり」と定義している.コトづくりによるモノ造り経営を説いておられる.

  • 刃先の幅が0.005mmで,溝入れが0.03mm間隔で可能という世界一幅の細い超精密切削工具(アライドマテリアル)
  • 一辺が0.3mmの世界最小の真鍮製サイコロ(入曽精密)
  • 厚さ0.05mmのアルミ板に,直径0.008mmの穴を連続45箇所開ける技術(田中製作所)
  • 電子回路を金型とインクジェットシステムで作る技術(クラスターテクノロジー)

これらの会社に共通しているのは,精密加工の切削成型,研磨,溶接などそれぞれの分野で世界一小さい,軽い,細い,薄い,……に挑戦する“コト”をモノ造りの中心におき,職人や技術者を勇気付け,鼓舞していることである

常盤氏の三部作は,経営者,経営幹部必読書だ.

「モノづくりのこころ」

「ヒトづくりのおもみ」

「コトづくりのちから」