学力など、いわゆる知識能力を認知能力と言う。人の認知能力の高低と成果は、正の相関が有ると考えて良かろう。つまり認知能力の高い人は、仕事の成果も高い。従って公平に評価されれば、認知能力の高い人が所得も高くなる。
一般論としては余り疑問の余地のない方程式の様に見える。
しかし就学前の子供達に行った実験によると、必ずしもこの常識通りではない、と言う結論が出ているそうだ。アフリカ系米国人の子供123人をランダムに2組に分け、就学前教育有無の効果を40年間追跡調査した実験がある。就学前教育を受けた組は、学歴、収入、犯罪歴などで、教育を受けなかった組と比較して全ての項目で良い結果を示した。しかし認知能力を示すIQへの効果は、小学校低学年で消滅したそうだ。
ではこの2組の違いは何が影響したのか?実験の結果は「非認知能力」の高低が、その後の人生を左右したと推定している。
非認知能力と言うのは、自制心、忍耐力、気概などと呼ばれる「態度」に関連する能力だ。いわゆるプロセス能力と言われる能力だ。
仕事の成果も、知識能力とプロセス能力の掛け算と考えることができる。
この様な社会科学系の実験調査と、理工学系の実験とは多少の違いが有る。
理工学系の実験は、条件を統一することができれば再現性は高い。
社会科学系の実験では、条件を統一する事が非常に困難だ。従って多くの要因による影響が含まれてしまう。偶然によるバラツキと、コントロール要因による変動を切り分ける必要があり、統計的処理が必要になる。
教育経済学の分野で、統計数学を応用した研究をしている学者がいる。
例えば「子供を全員清華大学に合格させた」と言う成功談は、参考にはらない。
この体験談をただ真似をしたところで上手く行く訳がない。成功に結びつく主要因は何か、阻害要因は何かと言う分析をしなければ、全てを真似せざるを得ない。再現性に乏しい。
それよりも統計的に有為である事を抽出し、それを実践した方が良い。
例えば、
・子供をご褒美で釣ってはいけない。
・褒めて育てた方がよい。
・ゲームをすると暴力的になる。
これらの常識は統計的には有意ではないそうだ。
しかし別の研究者によると、幼稚園児に絵を描いたらご褒美を与える、と言う実験ではご褒美により内発的動機付けが損なわれ、絵を描かなくなったと報告している。
この辺が非自然科学系の実験の難しさだろう。要因以外の外乱を制御するのが難しいためだろう。
統計的な検定をしても、そのデータを得る実験がきちんと制御出来なければ、答えの信頼性は低くなる。統計検定の結果が「常識」と余りにかけ離れているときは、一旦実験の過程やデータ処理に問題が無いか検討する慎重さが必要だ。
データに相関関係があるだけで、それを因果関係と即断してしまうと言う過ちにも気をつけなければならない。
例えば男子生徒と女子生徒の成績を比較した場合、女子生徒の方が成績が良い、と統計的に判断出来たとしよう。これはただ相関関係があるだけで、因果関係がある訳ではない。因果関係であるとすると、頭が良いのは女性だから、と言うおかしな結論になる。女子生徒は男子生徒と比べて成績が良い、と言う相関関係があるだけであり、因果関係は、女の子は家事の手伝いをするから、非認知能力が高く、学習の努力が継続出来ると言うことになるだろう。
このコラムは、2015年9月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第440号に掲載した記事に加筆したものです。
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