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天才と凡人の違い

 天才と凡人というと少し大袈裟だが、仕事ができる人と普通の人程度の差と考えていただきたい。

例えば改善のアイディアを考えている場合で比較してみよう。
天才:101個目に偉大なアイディアが出るのを知っている。
   →天才はアイディアを量産する
凡人:1個目から偉大なアイディアが出ないのを恐れている。
   →凡人はこれもダメ、あれもダメと最初の1個のアイディアが出ない

天才:たくさん失敗することがうまくいくコツと知っている。
   →何度も試してうまくいく方法を見つける。
凡人:失敗を恐れてうまくいく方法を考え続ける。
   →何も成果が出ない。

天才:失敗したアイディアを自慢する。
   →周りからアイディアを提供される。
凡人:失敗したアイディアを隠す。
   →誰もアドバイスできない。

天才:できる方法を実行して証明する。
   →すぐ結果が出る。
凡人:できる方法を探して説明する。
   →説明だけなので結果は出ない。

天才:できない理由を覆すのに燃える。
   →当然結果につながる。
凡人:できない理由を説明するのが得意。
   →できない理由を説明しても結果は出ない。

私たちが実践しているQCC道場では、メンバーのブレインストーミングで活動テーマを決めたり、原因分析、改善対策のアイディア出しを行います。
「天才」がメンバーをリードしているサークルは問題ありませんが、「凡人」が仕切っているサークルは少しだけ我々が介入する必要があります。


このコラムは、2021年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1194号に掲載した記事です。

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アリの社会

 アリの社会には「2:6:2の法則」があるそうだ。全体の2割のアリが、食料の8割を集めて来る。これはパレートの法則だ。「2:6:2の法則」はよく働くアリは全体の2割、普通に働くアリが6割、遊んでいるアリが2割、と言う比率になっていると言う法則だ。興味深い事に、働かない2割のアリを排除してしまうと、残った8割のアリがまた2:6:2の比率となり働かないアリが2割出て来ると言う。

ひょっとするとこれは人間社会にも共通の事かも知れないと気がついた。
つまり、組織の中で業績に貢献していない2割の社員を解雇しても、再び2割の社員が業績に貢献しなくなる。つまり遊んでいる社員2割は必要悪であり、首にしてはいけないと言う事になる。興味がわいて来て文献を調べてみた。

昆虫学者の研究によると、アリは仕事に対する閾値を持っており、目の前の仕事の緊急度が閾値を越えると行動を起こすそうだ。この閾値は個体ごとに違っており、閾値の低いアリが2割おり、彼らは非常に一生懸命働く。閾値が高いアリも2割おり、彼らはよほどの事がなければ行動を起こさない。残りの6割が普通に働くのだそうだ。

そしてこの閾値は、疲労によっても変化する。つまり疲れてしまったアリは、仕事に対する閾値が上がり働かなくなる。つまりさぼっているのではなく、疲労を回復するために休憩している、と言う事になる。彼らが休んでいる間に二番手の2割のアリ達が一生懸命に働くと言うのである。

もし全てのアリが同じ閾値であれば、皆がワァーと一生懸命に働く。経営者(女王アリ?)にとってはありがたい事かも知れないが、その結果全員が一気に疲労してしまう。これではアリの社会全体が機能しなくなる。閾値が違っており、頑張ったアリから順番に休憩に入る、と言うメカニズムになっているのだそうだ。

これは人間の組織でも同様なメカニズムが働くのではないだろうか?
トップ人財の貢献度が落ちて来ると、二番手の行動閾値が下がり頑張り始める。アリの社会ほど単純ではないかも知れないが、人間の組織でもこういう現象はあり得るだろう。

経営者としては、二番手三番手の社員の可能性を信じて、一番手を積極的に休ませる。休んでいる間に、二番手三番手が経験を積んで能力も上がるはずだ。


このコラムは、2017年6月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第531号に掲載した記事に加筆しました。

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日陰の日時計

 “日陰の日時計が何の役に立つか”ベンジャミン・フランクリンの言葉だ。
今時日時計で時間を知ろうと考える者はないだろう。従って日時計は日陰にあろうが日向にあろうが問題はない。

この言葉の本来の趣旨は、知識や能力は活用して初めて意味がある、という事だろう。
もう一歩踏み込んで考えれば、日時計は日向に起きさえすれば時刻を表示する。
知識や能力は、ただ日向に置いても役には立たない。知識や能力を活用し行動して初めて役に立つ。

この違いは、日時計の機能が「受動的」なモノであり、知識や能力は「能動的」なモノだと言う事だろう。日時計は太陽の光によって機能する。しかし知識や能力は本人が行動しなければ機能しない。

共通点は、どちらも正しい方向に向けなければならないと言う事だ。
日時計は正しい方向に向けなければ正確な時刻を示さない。
知識・能力は正しい方向に向けて活用しなければ思い通りの成果は得られない。

日時計の方は時計としての機能の他に骨董品、美術品として鑑賞価値がある。
しかし知識・能力はそれだけでは、何の価値もない。


このコラムは、2019年6月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第834号に掲載した記事に加筆修正しました。

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社会的促進

 先週のメルマガで「相互学習効果」をご紹介した。教師と学習者1対1、教師と学習者1対nよりも、教師と学習者n対nで双方向の学習(インプットとアウトプット)を行う方が学習効率が上がる、という効果だ。

仕事の効率にも似たような効果がある。「社会的促進」という現象だ。社会的促進は心理学者フロイド・ヘンリー・オルポートの実験により明らかにされた。

社会的促進とは、一人で作業するよりも集団で作業をした方が仕事の成果が上がる、または仕事中に周りに人(観察者)がいると仕事の成績が上がる、という理論だ。

一人で作業するよりも、他人と成果を競いながら作業をした方が成果が上がる、というのは理解しやすいだろう。しかし競争環境になくとも複数の人と作業することで成果が増す。作業をしない傍観者がいるだけでも成果が増す。

戸外での農作業など、皆で歌を歌いながら作業することにより疲労を緩和する、そういう効果もあるだろう。

仲間に対する貢献意欲、仲間からの刺激、観察者からの注目などが作用して仕事の成果が上がるのだろう。ホーソン工場の実験では作業環境の優劣よりも、観察者が自分達に注目していることで作業効率が上がってしまった。
これらが「社会的促進」の要因になっているのだろう。

しかし「社会的促進」には「社会的抑制」がセットになっている。
「社会的抑制」は複数で作業すると成果が落ちる。誰かに観察されていると成果が落ちるという現象だ。

全く逆の現象が出てしまう。
「社会的促進」は、単純作業、慣れている作業、好きな作業で発生しやすい。
「社会的抑制」は、複雑な作業、慣れない作業、嫌いな作業で発生しやすい。
と言われている。

21世紀の中国で、未だに金銭で仕事の成果を制御できると考えておられる方を見受ける。社会的促進・抑制、ホーソン工場の実験が行われたのは20世紀前半だ。

精益生産(TPS)などの表層を追いかけるだけでなく、社会学者や心理学者の成果を経営に活かすことを考えてもよかろう。


このコラムは、2017年8月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第546号に掲載した記事に加筆修正しました。

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人材の活用

 私が住んでいる辺りは,東莞政府庁舎があり,オフィス街,商業地区だが,一歩路地を入ると,昔からの零細製靴工場が密集している地域がある.

しばしば通りかかるこれらの零細工場の門口には,工員募集の赤紙が貼り出されている.その貼紙を見ると細分化された工員の募集になっている.

開料,車面,介面,折面,界皮など靴製造の一工程と思われる単位で工員の募集をしている.
全部で2,30人の工員がいればこの辺りでは,大手工場という規模だ.零細工場が工程を細分化して,職人を募集する.非常に非効率なことに思えて仕方がない.

私は靴製造業界には詳しくないが,想像するに,日本の小さな靴工場は親方を中心に弟子何人かと靴を造っている.弟子は初めは下働きかもしれないが,そのうち靴造りの全工程を任され,一人前の靴職人になる.

しかしここいらの靴工場では,「車面」(たぶん靴製造工程中のミシン作業)という職人が存在し,その職位を極めることになる.従ってどんなに小規模であっても靴を造るためには数人の職人を雇う必要がある.

こういう工場を経営するには,運転資金を確保するため「量」を追求せねばならない.「質」より「量」,「品質」より「低価格」を追求するモノ造りは,未来はない.

弟子を育てるには時間がかかる.しかし弟子と二人でモノ造りをしていれば,「量」ではなく「質」,「低価格」ではなく「高付加価値」を追求できる.生産量の増加には,弟子を増やしてゆけばよい.一度に何人もの作業員を雇う必要はない.

既に中国でも単機能の職員や作業員をたくさん集めて,モノ造りをする時代は終わった.多能工を育て,少人数でフレキシブルなモノ造りを目指すべきだ.


このコラムは、2010年9月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第171号に掲載した記事です。

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人材の活用

 人,モノ,設備,方法がばらつくと品質がばらつく.
人のバラツキは,直接作業のバラツキとなる.モノ,設備,方法のバラツキをコントロール出来るのは人だ.従って直接・間接的に人が全てのバラツキの源と言ってよいだろう.

人は一人ずつ個性があり,ばらついている.
一人の人も体調や感情により,ばらつく.

これらのバラツキをコントロールする事で,品質のバラツキをコントロールできる.

人のバラツキをコントロールする方法として,人を仕事に対して固定化する,という手法が昔から日本の企業で行われていた.
仕事に関する暗黙智は,個人に蓄積され効率よく仕事を遂行することができる.この仕事に関しては,○○さんに聞け,という余人を持ってして替え難いマイスターが各職場に何人もいたモノだ.

こういう仕組みがうまく機能していたのは,長期雇用が前提としてあったからだ.
団塊世代の引退,契約社員・派遣社員など雇用形態の変化で,現場から多くのマイスターと暗黙智が失われる事となった.

バブル崩壊後,多くの経営者が飛びついた米国式経営は「仕事に人を付ける」形となっている.従って各職位の職務分掌や,マニュアルが充実している.
一方日本式経営は,上述の様に「人に仕事を付ける」形となっている.この大元のところを変えないで,表面的に米国式経営をまねたため,多くの日本企業が現場力を失ってしまった.

「人に仕事を付ける」方式が万能であると言っている訳ではない.
この方式は長期雇用が前提でなければ,暗黙智は蓄積されない.世代交代時の難しさも内在している.
日本の長期雇用は既に崩壊している.中国の労働市場では,初めから長期雇用は望めない.この前提に立てば,「人に仕事を付ける」方式はもはやうまくはゆかないだろう.

では,米国式に職務分掌・マニュアルを充実させればうまく行くだろうか?
短期的には,人材の入れ替わりに強い組織となるだろう.マクドナルドなどの業務マニュアルは,アルバイト職員がいつ入れ替わっても良い様に作られている.

しかしこの方法だけでは,日々蓄積される暗黙智を取り込んで行くことができない.日々成長する組織にはなり難い.

個人に蓄積された暗黙智を組織の形式智に変換する方法.
業務と業務の間の落ちてしまう様な仕事をお互いにフォローし合う方法.これらをインストールした,新しい人材活用方式に変えて行かなければならない.

新しい人材活用方式構築のキーワードは「意欲」だと考えている.


このコラムは、2012年8月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第272号に掲載した記事です。

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孤高社員

 以前のコラムで「支持待ち社員」に対する対処法について検討した。
「指示待ち社員」

今回は「孤高社員」について考えてみたい。
「孤高社員」というのは、自分の得意分野や、自分の仕事だと思っている仕事に対しては、情熱を持って率先して取り組み、力を発揮する社員だ。
こういう社員ならば理想的な社員に見えるが、困った事に興味が無い仕事には取り組まない。他人の仕事には、批判はするが協力はしない。従って組織の中では孤立してしまい「孤高社員」となる。

特に日本企業の様に「和」を重んじ、組織内、組織間の協調で仕事を進める組織には、困った社員となる。

中国人幹部に研修をする機会が多く、たまにこういう人にであう。
講師に向って「こういう研修は自分には不要だ」と平気で言うタイプだ。経営者は当人に不足している技量や、心構えを改善したくて研修に派遣しておられる。「職場に戻って仕事をしていろ」と叱り飛ばす事は出来ない(笑)

こういうタイプの人間は、日本人にもいる。若い頃に同僚にこういうタイプがいた。天才的なアイディアを閃き、仕事もできる。しかし仲間と協調するのは苦手だった。私も彼とは一緒に仕事をしたくないと思っていた。案の定、彼は組織の中で遊離してしまい、重要な仕事は回って来ない。
彼とは別の職場になってしまったが、ある時担当している仕事で行き詰まり、彼ならどんなアイディアを思いつくだろうかと、ふと思ったことがある。出来る事ならば、彼をプロジェクトに参加させたいとさえ思った。

「あいつとは仕事をしたくない」と言うのは私の利己的な感情であり、彼の能力を引き出す事がリーダシップなのだと気が付いた。

上記の孤高中国人社員の日本人上司も、どういう職位を与えたら彼が力を発揮するかと考えておられた。

人にはそれぞれ、ネガティブな側面とポジティブな側面がある。
普通の人はネガティブな側面を押し込み、ポジティブな側面を大きくしようとする。しかしネガティブな側面もポジティブな側面も自分自身であり、ムリにネガティブな側面を押し殺そうとすれば、自己否定に陥りがちだ。そうなれば人のパフォーマンスは十分に発揮されない。

天才肌の人にありがちだが、すごい能力があるのに、コミュニケーションが下手だったり、他人と協調することができなかったり、計画通りに仕事を進める事が苦手だったりすることがある。こういう人の苦手を無理やり克服させると、平凡な人になってしまう。

とんがった社員は、もっと尖らせれば良いのではないかと思っている。苦手な側面は、組織でカバー出来るだろう。

天才的な経営者には、女房役の経営幹部が参謀としてついている事例がよくある。苦手を意識するのではなく、天才性を磨く。そういう「孤高社員」の存在を認めることができる組織が成長することができると考えている。


このコラムは、2015年6月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第426号に掲載した記事に加筆しました。

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単機能人材

 中国で生活していると色々な場面で,仕事が細分化され,それぞれの仕事に人が割り当てられているのを見る.

レストランに行くと,入り口にいるチャイナドレスの女性が客を席に案内する.それで彼女の仕事は終わりだ.次にテーブルの食器を準備する服務員が来る.この服務員に料理をオーダすることは出来ない.担当が違うのだ.メニューを持って来てくれれば,運がいい方だ.
その後黒服を着たオーダ受付係が来る.
料理を運んで来る者も,運んで来るのが仕事だ.テーブルの上に料理を並べたりはしない.別の服務員がテーブルに並べる.
皿を下げに来た服務員にお勘定を頼んでも,別の人が勘定書を持って来る.
全ての作業が役割分担されており,お互いにその分担線を越えたりはしない.
キャッシャー担当は,他がどんなに忙しくとも持ち場を離れることはない.
このような組織は,相互の連携が重要となるが,運が悪いと延々と待たされることになる.

オフィスの近所には,靴を生産する零細工場がいくつかあるが,採用募集の貼り紙を見ると,ミシン工,裁断工,手縫い工,雑用をこなす普工と細分化されているようだ.

品質保証部の中も細分化されている,受け入れ検査,工程内品質管理,出荷検査,品質エンジニア,顧客クレーム担当,ISO担当,それぞれに管理者がおり,作業者がいる.

このような組織は往々にして,部分最適となりがちだ.自部署のエゴで仕事をしがちなので,更にこれらを束ねる管理者が必要となる.

製造現場も同様であり,班長は自工程で決められた量だけ決められた時間内に仕上げることだけが仕事だと思っている.改善は別の人がやるモノ.へたをすると,品質は検査係の仕事だと思っている.

作業員やスタッフの流動性が高いために,この様なスタイルとなったのだろう.各自の作業責任範囲を狭くして,短期間で熟練出来る様になっている.しかしこの方法は,流動性が高いという問題を解決する対策にはなっていない.毎日同じ仕事をしていれば,成長感を感じられず転職して行くことになる.悪いことに,意欲の高い者から辞めて行く.

ある工場では,加工の前処理作業を一人のベテラン作業員が担当していた.彼女が辞めてしまうと,別の作業者が熟練するまでの間,生産が停滞する.他の作業員の育成をする必要があるが,経営者は彼女は病弱な夫と子供を抱えており,辞めたりしないと言い切っていた.従業員一人一人の家庭の事情まで把握できており,立派な経営者と感じたが,それが本当の従業員のためになっているとは思えない.

その工場では彼女一人しか出来ない作業だが,作業そのものは単純な研磨作業だ.他の工場に転職しても,同じ様に高い給与がもらえるとは思えない.更に悪いことに,そのベテラン作業員は自分の職位を守るために,他の作業員に作業のやり方を教えたりはしない.

従業員思いの経営者ならば,彼女が辞職した後も生活できる様にするだろう.
単機能人材に,高い給与を払ってやることが思いやりではない.それでは飼い殺しだ.

多機能人材を育成すれば,どこの工場に転職しても良い給料が得られる.これが本当の意味での「雇用の保証」だと思う.

多機能人材がどんどん育つ仕組みを作れば,自社の経営効率も上がる.
製造現場では,セル生産方式などを導入するためには多能工を育成しなければならない.作業員ばかりではなく,スタッフも多能工化を進めることが必要だ.
まずは,現場の班長たちに改善も自分の仕事だと理解させてはいかがだろう.

こちらもご参考に
単機能人材
続・単機能人材


このコラムは、2012年7月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第268号に掲載した記事に加筆しました。

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ある社長の悩み・離職率

 仕事柄経営者の方とお話をさせていただく事が多い.
この方の悩みは作業員の離職である.作業員の離職率は年率で50%ほどに達している.

離職率対策として,近隣の工場より高額の給与を出している.また福利厚生も格段に良い.宿舎は広く一部屋に4人,二段ベットではない.食事はトレーに乗せたぶっ掛け飯ではなく,丸テーブルに座ってちょっとしたレストラン並の食事が出る.年に一回従業員を慰安旅行に連れて行っている.

ここまでしても離職率が下がらない.自分にはもう打つ手が無いというのだ.離職する作業員の理由は「仕事がつまらない」ということらしい.

いくら給与や福利を良くしても仕事に対するモチベーションが上がらなければ,辞めてしまう作業者はいるだろう.ひところのように,お金を稼いで田舎の弟,妹を学校に通わせなければならない,家族の生活を支えなければならないという状況が少なくなってきている.最近は工員さんでも立派な携帯電話を持っている時代だ.

仕事のモチベーションは仕事で上げなければならない.
仕事が楽しくなるのは,仕事を達成し上司や仲間から認められる,仕事を通して自己成長の実感がある,という状況になったときだろう.

既に中国は豊かになってきており,給与をたくさん出して「安全・安定の欲求」を満たしただけでは不十分になってきている.
「人から認められる」「自己実現」というより高度な欲求を満たしてあげなければ仕事に対するモチベーションは維持できないだろう.

従業員の離職に関してはこちらもご参照ください。
高離職率
離職率と多能工化のジレンマ
作業員の離職率


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第31号に掲載した記事に加筆しました。

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鵜の夏、歩いてたぐり寄せる 和歌山・有田川

 和歌山県有田市の有田川で1日、室町時代から続く鵜飼(うか)いが始まった。鵜匠(うしょう)が川の中に入って鵜を操る、独特の「徒歩(かち)漁法」。鵜がアユをくわえて川面に現れるたびに、屋形船に乗った約300人の観光客から拍手と歓声が上がった。

 県無形民俗文化財に指定された伝統漁法だが、最盛期に90人いた鵜匠はいま4人。鵜を育て、訓練するのは1年がかりの重労働。生計を立てるのも難しく、後継者はなかなか現れないという。

(asahi.comより)

 私は子供の頃に,父親に連れられ長良川の鵜飼いを見に行ったことがある.長良川の鵜飼いは,鵜匠は船上にいて紐で縛られた鵜を何羽も川に放ち,鮎を鵜呑みにした鵜を船上に引き上げ,獲物を吐き出させる.
何羽もの鵜を紐でコントロールする手綱捌きをする鵜匠の腕は見事なモノだ.しかし鵜匠の本当の力量は,鵜が鮎を獲る様に訓練することだろう.

子供の頃は,単純に鵜の働きに感動したが,大学生なって働くということは,誰かにコントロールされることだと考える様になった.サラリーマンのネクタイが鵜の紐の象徴の様に見え,就職活動に全く興味を持てなかった(笑)多分,全共闘世代のただ中で成長した影響だろう.

人も鵜と同じ様に首に紐を付けられ,働かされている.その紐が目に見えないだけだ,と考えていた.

就職をし,人並みに部下を持つ様になって初めてその考え方が間違っていることに気が付いた.

見えない紐が「給料」であると考えると,会社に対する「忠誠心」と引き換えに給料をもらうことになる.こう考えていると,仕事は金銭を得るための「苦役」になる.

苦役であれば,当然楽しくはない.上司の命令に従って成果を出さなければ,給料がもらえない,給料が上がらないという,ネガティブな動機付けで働くことになる.指示されたとおり仕事をこなすのでは,パフォーマンスは上がらない.

見えない紐が「仕事に対する喜び」だとしたら,どうだろう.
鮎を獲るたびに観客から拍手喝采を得る.
二匹一度に飲み込み鵜匠から褒められる.
鮎を獲るたびに自己成長の喜びを感じる.
鵜がこう感じて喜んで働いていると考えるのはちょっと無理がある(笑)が,人には可能だ.

会社や上司は,仕事に対する喜びや自己成長のチャンスを与えてくれる.「会社への忠誠心」ではなく「自己への忠誠心」が働くことの動機付けとなれば,自ら進んで仕事に取り組むことになる.当然仕事のパフォーマンスは上がる.

上司が持っている手綱は,部下をコントロールするためのモノではなく,部下に動機を与え続けるための,エネルギー補給パイプだ.


このコラムは、2012年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第260号に掲載した記事です。

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