単機能人材


 中国で生活していると色々な場面で,仕事が細分化され,それぞれの仕事に人が割り当てられているのを見る.

レストランに行くと,入り口にいるチャイナドレスの女性が客を席に案内する.それで彼女の仕事は終わりだ.次にテーブルの食器を準備する服務員が来る.この服務員に料理をオーダすることは出来ない.担当が違うのだ.メニューを持って来てくれれば,運がいい方だ.
その後黒服を着たオーダ受付係が来る.
料理を運んで来る者も,運んで来るのが仕事だ.テーブルの上に料理を並べたりはしない.別の服務員がテーブルに並べる.
皿を下げに来た服務員にお勘定を頼んでも,別の人が勘定書を持って来る.
全ての作業が役割分担されており,お互いにその分担線を越えたりはしない.
キャッシャー担当は,他がどんなに忙しくとも持ち場を離れることはない.
このような組織は,相互の連携が重要となるが,運が悪いと延々と待たされることになる.

オフィスの近所には,靴を生産する零細工場がいくつかあるが,採用募集の貼り紙を見ると,ミシン工,裁断工,手縫い工,雑用をこなす普工と細分化されているようだ.

品質保証部の中も細分化されている,受け入れ検査,工程内品質管理,出荷検査,品質エンジニア,顧客クレーム担当,ISO担当,それぞれに管理者がおり,作業者がいる.

このような組織は往々にして,部分最適となりがちだ.自部署のエゴで仕事をしがちなので,更にこれらを束ねる管理者が必要となる.

製造現場も同様であり,班長は自工程で決められた量だけ決められた時間内に仕上げることだけが仕事だと思っている.改善は別の人がやるモノ.へたをすると,品質は検査係の仕事だと思っている.

作業員やスタッフの流動性が高いために,この様なスタイルとなったのだろう.各自の作業責任範囲を狭くして,短期間で熟練出来る様になっている.しかしこの方法は,流動性が高いという問題を解決する対策にはなっていない.毎日同じ仕事をしていれば,成長感を感じられず転職して行くことになる.悪いことに,意欲の高い者から辞めて行く.

ある工場では,加工の前処理作業を一人のベテラン作業員が担当していた.彼女が辞めてしまうと,別の作業者が熟練するまでの間,生産が停滞する.他の作業員の育成をする必要があるが,経営者は彼女は病弱な夫と子供を抱えており,辞めたりしないと言い切っていた.従業員一人一人の家庭の事情まで把握できており,立派な経営者と感じたが,それが本当の従業員のためになっているとは思えない.

その工場では彼女一人しか出来ない作業だが,作業そのものは単純な研磨作業だ.他の工場に転職しても,同じ様に高い給与がもらえるとは思えない.更に悪いことに,そのベテラン作業員は自分の職位を守るために,他の作業員に作業のやり方を教えたりはしない.

従業員思いの経営者ならば,彼女が辞職した後も生活できる様にするだろう.
単機能人材に,高い給与を払ってやることが思いやりではない.それでは飼い殺しだ.

多機能人材を育成すれば,どこの工場に転職しても良い給料が得られる.これが本当の意味での「雇用の保証」だと思う.

多機能人材がどんどん育つ仕組みを作れば,自社の経営効率も上がる.
製造現場では,セル生産方式などを導入するためには多能工を育成しなければならない.作業員ばかりではなく,スタッフも多能工化を進めることが必要だ.
まずは,現場の班長たちに改善も自分の仕事だと理解させてはいかがだろう.

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続・単機能人材


このコラムは、2012年7月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第268号に掲載した記事に加筆しました。

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